巨塊討伐編 第三章:セレナの役目、店主の役目

法具店アマミ、嵐の前 1

 店主は昨日のほぼ予告通りの『法具店アマミ』開店時間前に出勤。

 しかし相変わらずの気まぐれっぷりである。


「開店前に来客がいるってのが気に入らん。帰る」

「ちょっと待って! お願いだからちょっと待って!」

 慌てて引き留めるセレナ。


「ってか、普通は店の前で待ってるもんじゃねぇの? 中にいるってことは、お前への客ってことだよな? お前への客なら俺は関係ねぇだろうよ!」


「いや、セレナさんとは昔からの知り合いで……いやなんかすいません……」

「店主、昨日の作った防具の効果の報告をしたくて……」

「俺が作ったもんだぞ? 大体予想できるわ! 効果を発揮できなきゃ使い方が下手くそなだけだ!」


 めちゃくちゃな理論である。


 ごねる店主。

 引き留めるセレナ。

 店主のわがままっぷりに激怒するキューリア。

 恐縮するスウォード。

 なだめるリメリア。

 説明に回るブレイドと『ホットライン』の面々。

 そして、店主が去った後セレナがスウォードと頭をぶつけたときに、スウォードをリーダーと呼んでいた者達五人。彼らは店主と初対面である。


 全員で店主をとにかく落ち着かせ、初めて見る五人は自己紹介をする。

 

 樹木のような外見。体形は人間。体格はブレイド達とそんなに変わらない、樹妖族と呼ばれる種族の男、アックス。


 エルフ族の亜種の女で、飛行能力があるトンボのような羽が背中から生えているアロー。


 亀の甲羅のような硬い皮膚で覆われている爬虫類の獣妖族の男、クラブ。


 セレナとほぼ似た体格と体形だが、タコやイカのような軟体のスリング


 ヒューラーのように全身が鳥の羽毛で覆われているが彼女よりもスリムで、少し太めだがダチョウを連想するような長い脚のニードル。


 背中に羽がついた鳥のような体のスウォードをリーダーとする冒険者チーム『クロムハード』の面々である。 


 前日店主が製作した装備品を受け取った後、斡旋所の鍛錬所に向かう途中で彼らと合流し模擬戦を行った。

 予想以上の効果を体験し、興奮のあまり報告に戻ったところ、すでに製作者は向こうの世界に戻った後。

 報告をしたくてたまらないスウォードは、まるでほしいおもちゃを買ってもらえることを知って楽しさのあまり待ちきれない子供の様に、開店前の『法具店アマミ』に仲間を連れて押しかけて今に至る。

 もちろん『クロムハード』のメンバー全員も、今までと違った道具の効果に驚き、自分達も誂えてほしいということでそれぞれに合った装備品製作を頼みにきたという訳である。


「……で、俺に防具を作ってくれと?」


「ホントに人の話聞かないよな、テンシュは」

 愚痴るエンビー。


「あぁ。だが俺からはもう依頼を受けないって言われたから、チームの代表としても受け付けないだろうから個々で頼みに来たのだが、それなら問題ないよな?」


 初対面の時とは打って変わった相手を尊重する態度のスウォード。

 だが店主はそのスウォードに思いっきり舌打ちをする。


「だ、大丈夫か? こんな人の任せて……」

「何も言わずに彼に任せろ! 絶対に彼を疑うな! でなきゃ俺みたいになるぞ!」


 迂闊なことを口にしたら自分の二の舞。

 慌てて不信感を口にしたアックスを制するスウォード。


「でも昨日の模擬戦見たら疑いようにない事実だもんね。あたしは絶対にこの人に作ってほしいなぁ」


 ニードルが昨日のことを思い出す。人格よりも、職人としての腕を相当気に入った様子。

 スリングとアロー、クラブがニードルの意見に同意する。


「縛りはないんだろうな?」

「縛り?」

 五人は店主をきょとんとした目を向ける。


 仕事に取り掛かる前に、作業上確認しなければならないことの一つ。出来上がってから「思ってたの違う!」などと言われても困るのだ。


「こいつみてぇに、思い出の品と同じ形にしろとか言わねえだろうな?」

「もちろんない! 店主にすべてを委ねる!」

「おめぇに聞いてねぇ! こいつらに聞いてんだ!」

「「「「「もちろん、ない!」」」」」

 店主にすべてを任せることを即座に表明したスウォードだが、それすらも聞き入れない店主。

 

 気まぐれでひねくれている。ゆえに機嫌を損ねたらヤバい。

 『クロムハード』のメンバーが真っ先に得た情報がこれ。

 依頼絡みになれば、自分に発言権はない。そう感じたスウォードが副リーダーのニードルに目配せをする。


「ほ、報酬の件なんだけど……こんなのでいいの?」

 カウンターに宝石を並べるニードル。


「……俺への報酬ならそうだが……。これはどこで手に入れた?」


「隣町の、巨塊にたどり着く道の途中の崖のふもと。道を進みながら目立つ石だけ拾ってたらいつの間にかこんなに貯まってしまってた」

「請け負う依頼は大体あの辺りに偏ってきたよな。あ、あくまでも拾ったものばかりで掘削とかで手に入れた物じゃない」


 ニードルの説明にクラブが補足する。

 腕組みをして考え込む店主。いつもならば目を輝かせて宝石に手をかざし、その力や性質の判別作業にかかるのだが、そのまま微動だにしない。


「……どうしたの? テンシュ。報酬が足りないなら後で追加報酬言えばいいじゃない」


 キューリアが口を挟むが、店主は首をかしげ考え込む。


「いや、力の性質っていうか、濃度っていうか……バラバラなんだよな。それでも俺の世界の石よりは貴重なくらいなんだが……力を無理矢理吐き出したって感じが……」


 店主はさらに顔をしかめ、助け舟を求めるように傍にいる冒険者達を見る。

 しかしどう答えていいのか分からない彼ら。

 セレナも対応に困る。


「皮が破れた太鼓だな、やれやれ。まぁいずれ、こっちの全員の分が出来てから取り掛かることにする。いいな?」


 打てば響く、そんな意見を期待できないと分かると、気持ちを切り替えて報酬の件に話を詰めた。

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