第一章
『極道魂』第一話 --通らぬ筋道--
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■登場人物
波島 海斗(♂):なみしま かいと
極道魂シリーズの主人公だが、今回は脇役。
関東最大の暴力団【墨岡会(すみおかかい)】の
直系【天保組(てんぽぐみ)】若頭。
飄々として掴みどころの無い性格。
普段は冷静で頭が切れるが、怒ると手がつけられない。
女性には絶対手を上げない。
がっしりした骨格。見るからにでかい。
殴り合いの喧嘩だと負けたことが無い。
曲がった事が大嫌いな昔かたぎ。
槙原 光男(♂):まきはら みつお
みっちゃん先輩。今回の主人公。身長169cm体重78kgで
中肉中背という言葉がぴったりくる。
スキンヘッドの見た目から極道とわかるゴリゴリの怪獣。
海斗を極道の道に引きずり込んだ張本人。
木藤 一也(♂):きとう かずや
海斗の舎弟。痩せて見えるが細マッチョで、喧嘩は
スピードといきおいで突っ込むタイプ。
口が達者で、口げんか日本一を自負している。
若造(♂):
見た目20代後半の居酒屋の客。
今どきの半ぐれな若造。
すぐ調子に乗って、かっこをつけたがるタイプ。
ツレ(♀):
若造と一緒に飲みに来ていた居酒屋の客。
鹿島 鈴子(♀):かしま すずこ
ラウンジ【都】のママ。
光男とは10年以上前からの古い付き合い。
崎谷 亮(♂):さきや りょう
浅枝組の若頭
痩せ形だが、眼は蛇を思わせるように鋭い。
浅枝組きっての切れ者。
経済ヤクザとして地位を確立してきたが、残忍さはピカイチ。
槙原 美代:(まきはら みよ)
10年前に死んだ、みっちゃんの元嫁
今回は出番無し。
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■配役表
【5人(4:1:0)】
光男♂:
海斗♂:
一也/ナレ♂:
若造/崎谷♂:
ツレ/鈴子♀:
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◆注意事項
※性別変更不可
※過度なアドリブもご遠慮ください。
語尾の変更、お前→おめぇ などは可
やくざ言葉が得意な方は、がんがん迫力出してくださいませ。
※関西弁を広島弁などでやっていただいてもOKです。
※著作権は放棄しておりませんが、ご利用はご自由にどうぞ。
※ニコ生などで上演される時は台本のタイトル、URL、作者名を書いて
いただけると尻尾を振って聞きに行きますw
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。
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■新宿【鳥一(とりいち)】
ナレ:新宿西口思い出横丁。 俗称を「ションベン横丁」。
大(おお)ガードから新宿駅西口に向かった線路沿いの一角に、
焼き鳥屋、寿司屋など、カウンターだけのせまい店が軒を並べている。
誰もが郷愁(きょうしゅう)を感じながら、日常に溜まった垢を
落として行く。そんな場所である。
この「鳥一」も、カウンターだけの焼き鳥屋。
入口手前の席で、波島海斗と槇原光男、そして木藤一也の三人は、
ビールを呑んでいた。
光男:わしゃどうも我慢でけんぞ!
一也:どうしたんすか? 叔父貴。
まさか、もう酔っぱらっちまったんすか?
光男:一也ぁ。このダボがぁ!(一也の頭をはたきながら)
一也:いてっ!
光男:酔うてるわけなかろうがあほんだら!
一也:あつつ……。 失礼しました。
海斗:……兄貴……何かあったんですか?
光男:おいおい、もうわしはお前の兄貴分ちゃうぞ。
ええか?
お前が若頭(かしら)になって、わしは杯(さかずき)直して
舎弟頭(しゃていがしら)になったんやさかい、
本筋はお前や。 執行部のお前が、わしの事「兄貴」って呼んだら、
筋が通らんやないかい。
海斗:それはわかってますが……俺にとって兄貴は兄貴。
呑んでる時くらい兄貴って言わせてくださいよ。
……あ、それとも「みっちゃん先輩」の方がいいですか?
光男:アホかお前は。
けじめはけじめや。
海斗:……わかりましたよ、叔父貴。
んで、何を我慢できないんですか?
光男:おう、それやがな。
こうなんちゅうかな、日本中……
いや世界中が全部関西弁にならへんかな思うてな。
海斗:……。
一也:ぷっ。(下を向いて笑いをこらえる)
光男:なに笑ろとんねん!(再び一也の頭をはたく)
一也:いてっ! そんなに頭たたかれたら禿げちゃいますよ~。
あ! 禿げは禁句だった。
光男:かぁーずーやー!
わしゃ禿げちゃうど! スキンヘッドじゃ! スキンヘッド!
お前もバリカンいっといたろか? おう! コラ!
一也:すんません! すんません! すんません! 冗談です!
海斗:一也! てめー軽口叩きすぎてんじゃねーぞ!
叔父貴すいません。
光男:ふん、まあええわ。
……そやけどな、関東弁ちゅうのは、ほんまに気色悪いんや。
横で聞いとったら、無性にどつきたなってくる。
海斗:俺たちも関東弁ですよ。
光男:お前らは身内やからええんや。
せやけど例えばや、隣の席から関東弁で「だよねー」とか
「いいんじゃない?」とか聞こえてきたら、
いっぺん地獄見せたろかって気になるんやなこれが。
海斗:まあここは関東ですからねえ。
若造:おい、そこの禿げ! それは誰に向かって言ってんだ? あ?
ナレ:突然、店内奥から、挑発するような罵声が飛ぶ。
光男:!?
一也:あ? てめー誰にもの言ってんだ?
海斗:一也! やめとけ!
すいません。 そちらの事を言ったわけではないので、勘弁してください。
ツレ:どう聞いても、あたしたちの事を言ってるとしか思えないんだけど?
光男:そやったらどないするっちゅーんじゃ、コラ!
海斗:叔父貴、素人さんですし、ここはおさえて――。
若造:(海斗の声を遮るようにかぶせて)禿げのチンピラが何いきがってんだ?
光男:よう言うたの~。
兄ちゃんら、ほんまに素人さんか?
相手(さき)見てもの言わんと怪我するで。
ツレ:やだ~ この人こわ~い(笑)。
若造:やくざだからって、びびると思ってたら大きな間違いだぜ!
海斗:兄さんたち、お店に迷惑だからやめときな。
若造:おうおう、てめーたいした貫録じゃねーか。
海斗:……はぁ。
叔父貴、店(かし)変えましょう。
親父さん、勘定ここ置くよ。
(小声で耳打ち)一也、すぐに車回して来い。
一也:はい。(一也退場)
ツレ:チンカス風情が、根性無いのにいきがってんじゃないわよ!
光男:じゃかましいわ! コラ!
(カウンターにあった灰皿を奥の二人に投げつける。)
若造:てめー!
海斗:兄貴!
光男:コラ海斗! 叔父貴やろ! 叔父貴!
おう! 兄ちゃんら、わしら怒らせてどないしょーっちゅうんじゃ!
おどれらどこぞの看板しょっとるんか?
それともただの半グレか? あ?
若造:てめーらに関係あるか? バーカ!
海斗:叔父貴、行きましょう。
ツレ:あら~? 今どきのヤクザは喧嘩もできないのね~。
若造:根性無ぇ奴は、さっさと家帰って、お母ちゃんのおっぱいでも
吸ってろってーの(笑)。
ツレ:あたしがオシメ変えてあげようか?
若造:ぎゃはははははは。
ツレ:きゃはははははは。(二人同時に)
光男:ほう…… お前らおもろいやんけ。
ちぃーと外で話そか。
若造:は? なんで俺たちが、てめーに言われて出なきゃなんないの?
さっさと出て行ってくれるかな~目障りだから。(笑)
海斗:叔父貴!
ナレ:海斗は、殴りに行こうとした光男の腕をつかみ、強引に外へ連れ出す。
光男:ちょー離せや!
離せって!
海斗:叔父貴。
あんな奴ら相手にしてもしょうがないでしょう。
光男:人生なめきっとる若い者(わかいもん)にはな、世の中恐いオッサンも
おるっちゅーことを教えたらないかんやろ!
海斗:こんな場所で騒ぎ起こしたら、それこそ面倒な事になりますよ。
後できっちり話しつけときますんで、飲み直しましょう。
ナレ:いつの間にか海斗の後ろに、スーツを着こんだ二人が立っている。
海斗:おい、まかせたぞ。
ナレ:二人は海斗の指示に、だまってうなずき、さきほどの店に向かって行く。
光男:なんやあいつら?
あないな者(もん)組におったか?
護衛(ガード)でも、わしゃ、あないな顔知らんぞ?
ナレ:二人は海斗直属の戦闘部隊である。
普段は、人目につかないように、組長や海斗の護衛をしているが、
何か事が起こった場合、即戦闘態勢に入り、降りかかる火の粉を
払う役目を担っている。
海斗:叔父貴が気にする事じゃないっすよ。
一也:兄貴! お待たせしました! こちらっす。
海斗:さぁ叔父貴。行きますよ。
光男:おいおい、大丈夫か?
海斗:え?
光男:いや…… あの若造らが今からどないな目にあわされるかと思うとな……。
ほんまにお前だけは、敵に回しとーないもんやのぉ。
海斗:どこの組でもやっている事ですよ。
光男:まぁな…… せやけど…… お前もごっつい男になりおったの~。
わしゃほんまに嬉しいわい。
■ラウンジ【都】
ナレ:鳥一の事件から一カ月後。
ここは銀座にあるラウンジ【都】。
中央奥にカラオケのステージがあり、左右にボックス席が三つずつ。
店内は柔らかい白の間接照明が点いており、落ち着いた雰囲気を
かもし出している。
入口の右側には、普段あまり使われていないカウンター席が四つ。
そのカウンターで、光男は一人飲んでいた。
鈴子:みっちゃ~ん。
……ん? ……何一人で黄昏(たそがれ)ちゃってんの?
眉間に皺(しわ)なんて寄せちゃってさ~。
光男:おいこら! 人の顔をつつくな!
鈴子:だったらその皺のばして笑顔になりなさ~い。
光男:あんなぁ。 わしかてたまには一人でゆっくり飲みたい時かてあるやんけ。
……はぁ~。 せやけどなあ、お前くらいやど、わしが難しい顔しとる時に
平気で近づいて来て、わしの事いじくり倒す奴は。(苦笑)
鈴子:みっちゃんが、まじめに怒ってる時はそんな顔しないじゃない。
光男:ふん、まあええけどな。
なんや知らんが、お前の顔見てたら、楽になってきたわ。
鈴子:何か悩み事?
あたしが聞いてあげるよ!
光男:お前は、こないなとこでさぼっとらんと、ママたるもん
客の相手してこんかい。
鈴子:いいのよ。
今日は出勤多いから、女の子足りてるもん。
私が挨拶行くと邪魔になっちゃうでしょ~。
だいたいカウンターで、そんな辛気臭い顔されたら、お客さん怖がって帰っちゃうじゃない!
さあ、あたしに話してごらんなさいな。
鈴子ママたんが聞いてあげちゃうから。
ナレ:鈴子は【都】のオーナーママである。
だまっていると、小柄ではあるが和服姿に貫録があり、見た目は
三十代中ごろに見える。
だが話し出すと愛嬌があり、誰のふところにでも、すっと入り込んで
しまうような愛らしさを持っていた。
そのギャップに客からの評判も良く【都】は繁盛していた。
光男:別に悩みっちゅーほどのもんやない。
ちーと昔を思い出してただけや……。
鈴子:それって……もしかして美代ちゃんの事?
光男:……せや。
鈴子:やっぱり……。
光男:……。
鈴子:もうあれから十年もたつのよね。
光男:せや。
ちょうど十年前の今日やったんや、あいつが逝ってまいよったんが……。
鈴子:…………。
光男:あいつと初めて会うた(おうた)時の印象が、恐ろしいくらい強烈でな。
せやからワシは最初(はな)っからあいつにやられとった。
鈴子:先に惚れた方が負けってやつね。
光男:ああ。 もうおらんってわかっとんのに、いまだに夢ん中まで
出て来よる始末や。
鈴子:みっちゃんって、本当一途。
でもさ、そろそろちゃんと新しい女(ひと)作りなよ!
忘れろとは言わないけどさ。
いつまでも立ち止まってちゃ、美代ちゃんだって悲しむよ。
光男:…………。
ナレ:そこへ二人の客が入店してくる。
鈴子:あら、海斗さんいらっしゃい。
一也君は久しぶりね。
一也:ども。
ご無沙汰でございますですはい。
海斗:ふっ、おめぇ何緊張してんだ?
鈴子:そりゃ~こんな綺麗なお姉さんと久しぶりに会ったら緊張するわよね~。
あ、みっちゃん。
海斗さんたちと一緒にボックス席へ移動する?
光男:ん? ……ああ。
鈴子:グラスは運ぶから、そっちに座っちゃって。
一也:あ、鈴子ママは座っててください。
俺が運びますから。
鈴子:何言ってるのよ、一也君もお客様なんだから座っててよ。
一也:ダメっすよ! 俺の仕事取らないでください!
鈴子:!? あははははは。わかったわよ。
でも…… ほら見て、うちのマネージャーが、僕のセリフ取らないで
くださいって顔して見てるわよ。
一也:俺がやりたいんっすよ~
海斗:一也! 店の事は店のスタッフにまかせて座ってろ!
一也:は、はい。
鈴子:ふふ。
マネージャー、美紀ちゃんと純ちゃん呼んで。
海斗:ところで叔父貴。
ガードもつけねーで一人で出歩いちゃ駄目ですよ。
今はまだ手打ちが終わってねーんですから。
一也:そうっすよ!
光男:大丈夫や!
浅枝組(あさえだぐみ)のやつらに手打ち破りやらかすだけの
根性あれへんやろ。
仮に来よった所で、返り討ちにしたるわい!
海斗:何かあってからじゃ遅いんですよ。
一週間後の手打ち式が終わるまで、お願いですからガードを
撒くのだけはやめてください。
光男:へぇへぇわかったがな、若頭はん。
せやけど、わしゃ窮屈なんは好かんのじゃ。
鈴子:今日だけは大目に見てあげてくれない?
一也:へ? 今日って何かあるんですか?
鈴子:……美代ちゃんの命日……。
海斗:……そうか、今日だったんですね。
一也:え? あのぉ?
海斗:てめぇは、ちっと黙ってろ。
光男:ええんや、いつまでも引きずっとるワシが悪いんやさかい。
……のぉ一也、お前惚れとる女子(おなご)はおるんかい?
一也:あ~すいません。
自分は女がどうも苦手というか……。
どっかに綺麗で、優しくて、何を言っても「はい」って
返事してくれて、料理が美味い、綺麗好きだけど
神経質じゃない、三歳くらい年上の俺しか見ない
一途な女が向こうから俺をくどいてくれないかと……
光男:アホかお前は。
そないに理想押し付けたら、絶対見つからんわい。
理屈や見た目で好きになっとるさかいに、
いつまでたってもええ女が見つからんのじゃ。
一也:は、はぁ。
光男:パッと見た時、初めておうた時のフィーリングや! フィーリング!
一瞬で恋に落ちるちゅうか、もう誰でもないこいつや!
って思えたら、絶対逃がしたらあかん。
わかるか?
一也:はぁ、なんとなくは……
光男:はっ、こらあかんわ。
ナレ:その時、新しく入って来た一人の客が海斗たちのテーブルに近づく。
鈴子:いらっしゃいませ。
亮:槇原の兄貴、ご無沙汰しております。
海斗:ん? ……あ!
光男:よぉ! 亮やないけ。
海斗:崎谷さん、ご無沙汰しております。
手打ちは一週間後ですが、何かお話でも?
亮:これはこれは波島の若頭(かしら)。
こちらこそ、ご無沙汰をしております。
今回は色々と動いて頂き、こちらとしても感謝しております。
一也:おい! てめぇ! 何白々しい顎回しやがってよ!
海斗:一也! 静かにしねぇか!
鈴子:ちょっと~ここで揉め事は困るわよ。
亮:すいません。
槇原の兄貴と話したら、すぐ帰りますので。
光男:まぁええやないか。
ワシと亮は六四(ろくよん)の盃(さかずき)交わした
外兄弟(そときょうだい)やからのぉ。
おう、こっちゃ来て座れや。
亮:あ、いや長居するつもりはありませんので。
光男:まぁええから座れや。
ビールでええか?
亮:じゃあすいません、一杯だけ。(グラスを受け取る)
光男:どないしたんや?(ビールを注ぎながら)
亮:いただきます。(ビールを飲む)
光男:今はまだ周りがピリピリしとるやろ。
亮:今日は亡くなった姐さん(ねえさん)の命日でしたよね?
とりあえず、これを仏前にと思いまして。(香典を渡す)
光男:なんや覚えとってくれたんかい。
亮:さすがに今のタイミングで自宅に伺うわけにもいかないので、
こちらに伺った次第です。
光男:うれしいのぉ。
なぁ海斗、あれがまだ生きとったころ、この亮もまだ駆け出しの
チンピラでなぁ。
ようワシの家に来て、一緒に鍋つついとったんや。
海斗:そうだったんですね。
光男:美代が漬けとった糠漬け(ぬかづけ)が美味い言うてな。
鍋を食わんと、漬物(つけもん)ばっかり食うとったわ。
亮:本当に姐さんの漬物は美味しかったんですよ。
(間)
亮:兄貴。
実は……今回の喧嘩の手打ち式の件でちょっと。
光男:ん? どないしたんや?
亮:ええ。 気になる話が私んとこに入って来まして。
本当は二人で先に話した方がと思ったんですが……
光男:あ? ワシはもう本筋外れた相談役やぞ。
ややこしい話やったら海斗にしたらええがな。
海斗:ママすまねーが、女の子たち席を外してもらえるかな?
鈴子:はい。(女性たちに席を立つようにうながす)
海斗:一也、お前も席外せ。
一也:はい。(カウンターへ移動)
亮:すいません。
気を使っていただいて。
海斗:それで? 何があったんですか?
亮:すでにご存知かと思いますが、喧嘩の発端を作った、焼き鳥屋で
突っかかって来た若造、雁屋順二(かりや じゅんじ)の事なんですが。
光男:雁屋?
海斗:はい。 名前と素性は聞いてます。
亮:雁屋工務店の社長の長男なのもご存じですね。
光男:ほう、あの上場企業の雁屋工務店か。
亮:喧嘩の件については、その息子が親に逆らった半端者でして、
天保(てんぽ)組の護衛(ガード)に腕一本折られた腹いせに、
うちの枝の若い衆を金で雇い、そちらの枝の若い衆を、半殺しにした
なんて、筋が通る話しじゃありません。
そちらさんが、うちに報復されるのも当たり前ですし、このまま喧嘩を
続けても無益な喧嘩が続くばかりでした。
ですので、死人も出ていませんし、組同士は五分の痛み分けで、見舞金として
雁屋工務店から5千万づつ双方の組に出させるというのも仕方ないと
思います。
光男:まぁ妥当な線やろな。
海斗:もしかして雁屋社長が何か?
亮:さすが波島の若頭(かしら)。
そうなんです。
雁屋社長が裏で、動いておりまして。
本来なら、東京オリンピックのおかげで、莫大な利益を生む予定だった
土地を、雁屋社長がその息子名義で買い漁っていたんです。
しかし、コロナが蔓延し、オリンピックが流れた事で、二束三文に
なりかけた。
海斗:オリンピック中止に関しては、色んな所で火の手が上がってましたね。
光男:うちは、この海斗のおかげで、最小限の火の粉で済んだけどな。
亮:そこで雁屋社長、ずいぶん焦ったんでしょう。
昔からの知り合いだった剣崎(けんざき)組長へ話を持ち掛けた。
土地の半分を、息子名義から剣崎組長へ移し、融資を受けたんです。
そして、残りの半分は、息子が自分で小金(こがね)欲しさに
売っていたらしく、なんとか穴埋めはできたと思った。
光男:剣崎って、うちら墨岡会直系の剣崎組かい。
亮:はい。
海斗:雁屋社長も必死だったんでしょうね、まさか半グレの息子に売らせるなんて。
光男:せやなぁ。 とにかく銭を集めたかったんやろ。
亮:そこに来て、コロナ禍の医療崩壊でベッド数が足りなくなり、まさか政府から
医療施設建設用地として、あの土地が候補に選ばれるとは誰も
予想できなかった。
腐りかけた土地が、一気に返り咲き、金のなる木になってしまった。
あわてて剣崎組長名義にした土地を、三割増しで買い戻すという話をつけ。
残りの半分も買い戻そうとした。
海斗:しかし、残りの半分を買ったのが、カタギじゃなかったんですね。
亮:そうなんです。
表向きはカタギ名義だったらしいんですが、息子が何も知らない事を
いいことに、関西の岩波組が買わせてたそうです。
光男:岩波組の関東進出を目立たんように進めるつもりで買うた(こうた)
土地が、大化けして銭を生む宝の山になった、ちゅーわけか。
亮:ただ正面切って、岩波組対墨岡会で喧嘩するわけにもいかないんで、
岩波組が目を付けたのが、雁屋の息子です。
その息子を、腕折られて悔しいだろう? って、小遣いまでやって
抱き込んだらしい。
海斗:そうなると困るのは雁屋社長と剣崎組長チームってわけですね。
亮:どうやら素性のわからねぇチンピラを雁屋の息子につけ、手打ち式までに
騒ぎを起こさせ、雁屋社長に下手を打たせる。
そうして雁屋社長を退陣させ、無理矢理息子を神輿(みこし)として
かついで社長に据え、自分たちの思い通りに動かし、関東進出を堂々と
進めようという算段までしてるかもしれないって事なんです。
光男:ん~こりゃまずいのぉ。
海斗:岩波組の組内(くみうち)の、どこの組が動いているかわかりますか?
亮:そこまでは…… まだ裏が取れておりません。
しかし、おそらくですが極斗会(ごくとかい)あたりではないかと。
光男:ああ、あそこは岩波組でも一番のイケイケやからのぉ。
海斗:そうですか…………。
(間)
海斗:……兄貴、崎谷さん。
この話、俺に二~三日預けてもらえませんか?
ちょっと考えがあるんです。
亮:そいつはかまいませんが。
海斗:ありがとうございます。
光男:亮、安心せぇ。
こいつに任せといたら大丈夫や。
亮:……波島の若頭(かしら)一つ宜しくお願い致します。
こっちで出来る事があれば、いつでも動きますから遠慮なく言ってください。
(間)
光男:……さ、辛気臭い話しはやめて、今日は飲むど!
ママ~ブランデー新しいのあけてくれるかー
キレイどころも戻っておいでや~
あ、一也は戻ってこんでもええぞ~
一也:ええ? それは無いですよ~
鈴子:あははは。
お話終わったの?
じゃあ女の子戻すわね。
マネージャー新しいボトルとグラス出して。
一也:(小声で海斗に耳打ち)
兄貴、話は全部聞いてました。
とりあえず、あいつら全員事務所に集めておきますね。
海斗:おう、二十三時までに集めとけ。
あと、道具はいらねえからな。
一也:はい!
このタイミングで警察(サツ)にガサ入れられたらアウトですからね。
光男:ん? なんや?
海斗:あ、いえ。
なんでもないですよ。
さ、乾杯しましょう。
■次回予告
一也:次回予告
一也っす! あのさ今回、俺の出番少なくないっすか?
次回はきっちりと、かっこいいとこ見せちまうからよ!
鈴子:残念~ダメよ~次は私!
鈴子ママたんの魅力をたーっぷりと見せちゃうの!
一也:えーそりゃないっすよー。
鈴子:でもね噂によると女性が中心の話になるらしいから~。
一也:えっ! じゃあ俺ハーレム!?
鈴子:私がパシリに使ってあげるわよ。
一也:かんべんしてくださ~い。
一也:次回「極道魂 第二話 --仕掛けられた罠--」
鈴子:※アドリブでお好きな〆台詞をどうぞ(例 ご期待ください!等)
--終劇--
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