第114話あらやだ! 家名を決めるわ!
天才――その言葉は嫌いやから、今度からクヌート先生が考えてくれた神化モードと呼ぶことにする。神化モードになると一瞬で傷や骨折、血液の補充などの治療ができる。せやけど病気は治せない。理由としては治療魔法や体力の回復魔法の存在やろな。つまりその応用で外科的な治療はできるけど、元々ない病気を治す魔法、内科的な治療はできひんちゅうことや。
そこから推算するに、人を生き返らすことはできひんちゅうことになる。
また神化モードの持続時間はかなり短い。初回は儀式の直後やったから一時間は保っていられたけど、次の日には五分しかなれへんかった。しかも元に戻るとめっちゃ疲れる。百メートル走を何十本繰り返したような感覚や。体力のあるあたしでさえ、耐え切れへん。まあ代償なんやろな。
神化モードの特徴は普通の状態でできひんことは絶対できひんちゅうことや。水や風、氷の魔法は使えるけど、他の属性魔法は使えへん。その代わり、覚えとる魔法はかなり強化される。氷の魔法かて一瞬で部屋全体を凍らせることができた。まあ後でデリアに怒られたけども。
「ちゅうわけで、これが神化モードの詳細や」
「なるほどね。それじゃあ戦闘には不向きね」
デリアが納得したように頷く。あたしは朝食のパンを口に運んだ。
神化モードのことをよく知ったほうがええ。そうデリアに言われてここ数日、どんなことができるのか、できひんのかを調べていたんや。
「物凄く疲れるのは痛いわね。たった五分で敵を倒せる保証はないのだから」
そう言うてかぼちゃのスープを啜るデリア。やっぱ貴族やから上品に食べるなあ。
「無理しても魔法が発動せえへんかった。体力が回復したのは一時間後やな」
「その後、神化モードは発動できたの?」
「できるな。でも二度目はやばかった。三分くらいしかなれへんかったし、えぐいくらい体力が無くなった。気絶してもうたもん」
デリアは少し考えて「万全の体調でやらないと駄目ね」と言うた。
「はっきり言って差をつけられたと思ったけど、意外と穴があるわね」
「そのほうがええ。頼りっきりになるよりはな。いざっちゅうときの切り札にするわ」
そないな会話をしとるとガーランさんが「エルザ嬢がお帰りになりました。お嬢様」と声をかけてきた。なんで一緒の食堂に居るのに、人の出入りが分かるんやろ? しかも特定できとる。
その言葉通り、三分後に食堂にエルザが現れた。
「お姉ちゃん! お母さんの病気、治ったよ! もう呼吸も苦しくないって!」
嬉しそうに言うたエルザ。あたしは立ち上がって「ほんまかそれ!」と喜んだ。
ようやく一つの目標であるおかんを治すことができたんや!
「お母さんが治ってお父さん、泣きながら喜んだ――ってお姉ちゃん?」
「うん? どないした?」
「お姉ちゃんも泣いてるね」
頬を撫でると涙が零れとるのが分かった。
「そりゃそうやろ。おかんの病気を治すことがあたしの目標やったんやから」
「だから治療魔法士になろうと……」
エルザの目にも涙が溜まってきとる。
あたしら姉妹は抱き合ってわんわん泣いた。
その様子をデリアは何も言わんと見守ってくれた。
「そういえばエルザ。あなたの姉、貴族になるわよ」
泣き止んだあたしらにデリアは何気なく言うた。
「ええ!? お姉ちゃん凄い!」
「男爵位だけどね。だから貴族の仲間入りよ」
「あたしはどうでもええけどなあ」
そう言うとデリアは「いつまでも庶民のままだと困るのよ陛下は」と苦言を呈した。
「あなたは自覚してないけど、これでも褒美が少ないくらいなのよ? 本当なら子爵になってもおかしくないんだから」
「そうなんか? 貴族についてはあんまり詳しゅうないけど」
エルザは「確か貴族は五つに分かれているんだよ」と教えてくれた。
「上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。だったかな」
「そのとおりよ。ちなみに私は公爵よ」
「へえ一番上なんやな」
感心しとるとデリアが「そんなに偉い私に無礼な口を利いたのは誰かしら?」とじろりと睨んだ。
あかん。話反らさな。
「ちなみにランドスター家は?」
「えっ? ああ、侯爵よ。まあ家名よりも武名が高いのよね」
なるほどなあ。せやから魔法騎士になろうとしてたんやな。なんにしても箔が必要やからな。
「それで、あなたの家名は決まったの?」
「いや決まっとらん」
「うん? 宰相閣下から賜ったんじゃないの?」
「ツヴァイさんが言うてたけど、何でもええらしいで。他の貴族と被らん条件でな」
そう言うて、あたしは羊皮紙を取り出した。
「ここに書いてある家名以外でええの考えなあかんねん」
「ふうん。じゃあ私も考えてあげる」
「私も考えるよ!」
三人集まれば文殊の知恵、やったっけ。さっそく考えることにした。
「そういえば前世での姓ってあったの?」
エルザの何気ない質問にあたしは答えた。
「あったわ。鈴木ちゅうんや。鈴木小百合があたしの名前やった」
「へえ。姓が先に来るのね。変わっているわね」
「外国やとこっちと同じやけどな」
あたしは「スズキちゅうのはどうやろか?」と二人に訊く。
「なんか魚っぽいわね」
「ユーリ・フォン・スズキ? なんか変だよ」
不評やった。まあしゃーないな。
「万能薬のパナケアを姓にするのはどうかしら?」
「ユーリ・フォン・パナケア? 悪くないけど……」
エルザは腕組みしながら「自己顕示が過ぎるかなって思う」とばっさり言うた。
「じゃああなたは何がいいのよ?」
「アリマ村のアリマなんてどうかな? お姉ちゃんの作った村だし」
ユーリ・フォン・アリマか……なんかしっくりこないなあ。
その後いろいろ考えてみたものの、これっちゅうもんがなかった。
「そもそもスズキってどういう意味なのよ?」
デリアの言葉にあたしは「うーん。意味はないな」と答えた。
「スズキのスズは音のなる鈴で、キは植物の木や。漢字で書くとこうなる」
羊皮紙に鈴木と書くとデリアとエルザは不思議そうな顔をした。
「これが文字なの? まるで絵みたいだわ」
「うん。不思議だね」
するとデリアが急に何か閃いたらしい。
「そういえばオーサカに住んでるって言ってたわね」
「まさかオーサカにするんか?」
「ええ。それでいいじゃない」
「……鈴木と関係あらへんやん」
でもユーリ・フォン・オーサカはへんてこな感じがして面白い気がした。
「私もそれでいいと思うよ。もしかしたら他の転生者さんがお姉ちゃんのところに来るかもしれないし」
「そうやなあ。仲間が増えるのはええことやな」
よっしゃ。決まりや!
「それじゃ、あの日に来る陛下に報告しましょう」
「それがええな。十日後やったっけ」
エルザは「十日後? 何かあるの?」と訊ねた。
ああ、そういえば知らんかったんやな。
「ランドルフとヘルガさんの結婚式や。ちょうどええ。あんたも参加せえ。皇帝に会えるで」
クラウスとイレーネちゃんも来るらしいし、久々に再会できるで!
ランドルフが魔族討伐に出かける前に楽しい思い出作らんとあかんしな。
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