セルシアンという男1/6
裕福でもなく、かといって貧乏でもない家に、男は産まれた。
両親は特別何かを持っているわけではなかったが、それでも幸せに、平和に暮らしていた。
男が冒険者を目指し始めたのは、6歳の頃からだ。
たまたま男の住む街の近くで、依頼をこなしていた冒険者がいた。
男はその冒険者に会い、あることを聞いた。
「冒険者って、楽しい?」
子供心に、冒険者は大変、命の危険がある。ということはわかっていた。この街のために依頼を受けにきた冒険者に、男は聞いてみたかった。
冒険者は答えた。
「確かに危険もいっぱいあるけど、俺がやらなきゃ、人々に危険が迫る。その危険を退けて1人でも多く救って、その笑顔を見て、俺は戦ってよかったな。って思えるんだ」
男には家族も、友達も、好きな女の子もいた。それらを助けられるのなら、笑顔を見れるのなら、それでいいと思った。
その日から、男は独学で力を身につけていった。まだ体の小さな子供だった彼は、小さく、軽い木の枝を武器に見立てて、突きなどを練習した。
彼が7歳の誕生日に、両親が稽古用の武器を買ってくれた。
「誕生日おめでとう。セルシアン。いつも素振りをしていて偉いぞ!これはパパとママからの贈り物だ」
手渡されたのはゴムで出来た細剣だった。
「パパ!ママ!ありがとう!!」
セルシアンはそれを笑顔で受け取り、次の日からはそれを使って修練に励んでいた。
セルシアンが冒険者になったのは、10歳になった頃だった。というのも、理由がある。
ただでさえ危険な仕事。セルシアンは両親と約束をしていたのだ。
毎日ではないが、修練をしっかりと積み、勉学に励み、しっかりと物事を自分で考えられる歳になってから、冒険者になると。
セルシアンはその約束を守り、昼は勉強をし、勉強が終われば近所の子供達と遊んだりしていた。夜になり家に帰れば、夜の鍛錬。友達と遊ばない日は、ずっと細剣を振っていた。
10歳になったその日の内に、セルシアンは冒険者ギルドに行き、登録を済ませた。その日はギルドの説明をしっかりと聞き、依頼を受けなかった。真っ直ぐに家に帰り、両親にギルドカードを見せたかったのだ。
「おぉセルシアン!!おめでとう!!」
両親は喜んでくれた。セルシアンはそれが嬉しかった。危ない依頼は極力受けないでほしいとは言われていたが、討伐依頼を受けるなとは言わなかった。
セルシアンも自分がまだまだ弱いことはわかっている。幼い時のように、小さなことからコツコツとやっていこうと決めている。
「そして、10歳の誕生日、おめでとう!!」
両親は、箱に入った二本の細剣をセルシアンに渡した。しっかりとした鋼で作られた細剣だった。
鋼で作られた武器は強度があり、丈夫だ。ただそれだけ、安いものではない。それを二本。
「パパ、ママ、これ」
セルシアンはまだ10歳だが、その二本の細剣が高かいということはわかる。貧乏ではなくても、これほどの武器には中々手が出るものではない。
「ふふ、秘密にしてたけど、この人ったら、セルが冒険者になる!って言った日からずっと自分のお小遣いを貯金していたのよ」
「な!お、お前だって自分のお小遣いを貯金して手伝ったくれたじゃないか……」
両親が仲睦まじく話している中、セルシアンは涙を流す。
「あ、ありがどう……パパ、ママ、好き……!」
両親は泣く我が子を優しく見て、優しく抱き寄せた。
★
「父さん!母さん!行ってくるよ!」
「あぁ。気をつけてな」
セルシアンは、朝食を食べている両親にそう声をかけ、家を飛び出していく。
セルシアンは15歳になっていた。
愛用の細剣を腰に差し、冒険者ギルドに向かい、依頼を受ける。
セルシアンは10歳の頃からコツコツと依頼と修練を続け、5年経った今ではBランクになっていた。
依頼の達成報酬を家に収めたりと、親孝行もしている。
その日も難なく依頼を終わらせ、ギルドに報告をし、ギルドから嬉しい知らせを持って、帰宅した。
「父さん!母さん!」
「あらあら、そんなに慌てて、どうしたの?」
母が優しく声をかける。
「見てよ!これ!」
冒険者ギルドから手渡された紙には、Aランク昇格試験への推薦が記されていた。
「あら!あなた!見て!」
父はその紙を見ると、顔色を変え、自室に向かってしまった。
そんな父の姿を見たセルシアンは、少しだけ肩を落としてしまう。
「……嬉しく、なかったのかな」
「そんなことあるわけないじゃない!」
ドタドタと足音がし、父が瓶を持って戻ってくる。その瓶の中には、銀貨がたんまりと入っていた。
「セルシアン!!Aランク昇格試験は王都でしか受けられないんだよな!ほら、馬車代とかご飯代に使いなさい」
「父さん、これって……」
「うふふ。セルのための貯金よ」
セルシアンは自分の10歳の誕生日を思い出す。冒険者になったその日に、両親がくれた二本の細剣。両親は、また自分のためにお金を貯めてくれていたのだ。
「父さん、母さん……」
セルシアンは肩を震わせ、あの時と同じように、また泣いた。
★
瓶の中身は大金貨2枚分はあった。
セルシアンはそれを持って、王都に向かう。
道中にモンスターを狩ったり、盗賊を退けたりしたが、無事に王都につき、昇格試験を受けることができた。
冒険者になって5年。
無茶な依頼は受けずに、コツコツと力をつけていった。昇格試験も無事に通り、セルシアンは晴れてAランク冒険者となった。
王都でお土産を買いながら、両親に何か贈り物をしたいと考えた。
働き詰めというわけではないが、両親には特にこれといって趣味はなかったように思う。
セルシアンはどんなものがいいか考えながら、街の中を歩いていると、人とぶつかってしまった。
「す、すいません!」
セルシアンは素直に謝った。
セルシアンとぶつかった男は特に何も言わず、セルシアンを睨みつけた。
「……気をつけろ」
その男は真っ黒なコートを羽織り、真っ赤な瞳をし、肌は青白く、生きているとは思えなかった。
男はそれだけ言うと、スタスタと歩いていった。
そんな男の後ろ姿を見ていると、セルシアンに、また声がかかる。
「おい坊主、店の前で立ち止まるな」
セルシアンは首を真上にあげ、その大男を見た。真っ赤な装備に、巨大すぎる大剣。
セルシアンが立ち止まっているのは武具店の前で、その男はそこから出てこようとしていた。
「す!すいません!!」
セルシアンはすぐに謝り、道を譲る。
「そこまでびっくりするこたぁ……ま、今度は気をつけろよ」
大男はひらひらと手を振って歩いていった。
セルシアンは、初めての王都で見る全てが、新鮮だった。
(すごいなぁ……)
王都には自分よりも強い人物がいっぱいいた。それだけでも感動なのだが、自分もその人たちの仲間入りしたのだということが、何より嬉しかった。
セルシアンはそれから手作りアクセサリー屋を見つけ、細剣の首飾りを3つ作ってもらい、土産として持ち帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます