異形達
腐臭が漂う室内。
小さな呻き声が各所から聞こえ、とても居心地がいいなどと言えることのできない部屋。
そこに、3体の異形の者たちがいた。
「わかってる。わかってる。そう、ダメなんだ。お腹が空いたからって食べていいわけじゃない。でも食いたいんだ。食いてぇんだよ。でもダメだ。陛下の命令が先。陛下の命令が1番大事……だけど、だけどよぉ……食いてぇよなぁ。そう、俺は食いてぇんだ。俺が食いてぇんだから食っちゃってもいいよなぁ?いや……ダメに決まってる。陛下の、陛下の命令を遂行させるんだ。そのためには……」
全身を鎧に包み、関節から黒い煙を漏らす男が、延々と独り言を呟いている。ゴーグだ。
エルトの命令を完遂するため編隊を組み、選りすぐりの幹部を選び、空飛ぶ不死族モンスター
そこへもう1人の幹部が顔を出した。
「オイ!ゴーグ!てメぇまタ、
ミノタウルスのような男が、部屋に入るなり、ゴーグを怒鳴りつけた。
ゴーグはそれに反応することなく、未だに独り言を呟いている。
「落ち着けゴーパ。ゴーグも陛下から賜った能力をコントロールしきてれいないのじゃ」
「んナこたァどうデもいいだロ!ゴーグが食うのを我慢スリャそれデ済むんだヨ!おい聞いテんのカゴーグ!!」
「五月蝿い」
「ガッ!ぬっ……」
ゴーグは近づいてくるゴーパの顔を掴み、そのまま立ち上がり、それを持ち上げる。
「い、い、今は誰でもいい気分なんだ。いや、ダ、ダメだ……陛下の命令を……あぁわかってるさゴーパお前の言う通り俺がしてることは……いやだが腹が減ってはな……ま、待て、くそ!俺の中で、勝手に……ぅぁぁ……」
ゴーグはブツブツと言いながら頭を抱えてしまう。ゴーパは力一杯もがくが、ゴーグの腕から逃れることができない。
「おイ!お前ラ!助けろよ!」
「じゃがのぉ……」
「今、ゴーパ。僕たちじゃ勝てない」
「ぐ、ぐぅウ!クソがぁ!!」
ゴーパは腕を振り上げる。腐っている巨大な腕が変な音を立てながら更に巨大になる。
「腐乱拳!!」
それはゴーパの使う技で、とてつもない破壊力を持つ攻撃だ。
ゴーグへ向かって振り下ろされたそれを、ゴーグはうわ言を呟きながらかたてで受け止めた。
「そうだ。そう。そうなんだ。エルダーリッチもうまかったが、今目の前にもっと美味そうなやつがいるじゃないか。そう。ダメだ。いや、美味そうだ。こいつを食えばしばらくは……そう。そう考えれば」
ゴーグは尚も独り言を淡々と並べている。
そんなゴーグの鎧の節々から黒い煙が大きく漏れ出す。
「オ、オい。マジかよゴーグ。待てよ。さすがにソれは冗談ガすぎルぜ?な?考え直せヨ?そうだ、Aランク、そう!Aランクのモンスターだったらお前ノことを」
「五月蝿い」
まるで命乞いでもするかのようにゴーパは喋り続けたが、それはゴーグの一言で止められてしまった。
「お前が1番美味しそうだ」
ゴーグがそう言うと、黒い煙がゴーパを包み込んだ。
「クそっ……マジ……」
小さく声を漏らしたゴーパは、しばらく体を痙攣させると、事切れたように脱力する。
ゴーグはそれを見て1つ頷くとその手を離した。力なく地面に転がるゴーパを見てから、ゴーグは部屋に残っている2人を見て言った。
「あとどれくらいで着く」
聞かれた老人のようなアンデッドは顎をさすりながらそれに答える。
「そうじゃなぁ。1時間というところか」
「突入準備は?」
「できておる」
「残りの手駒は?」
「Bランクが5000に、Aランクが50ほど、Sランクが4体……我々幹部も4体になってしまったのぉ……」
老人はゴーグの足元に転がっている死体を見ながらそう言った。
「わかった……この部屋には誰も入れるな。お前達も出て行け」
ゴーグは落ち着いたかのように椅子に座り、指を組んで頭を抱えた。
「ふむ……わかったのじゃ」
「わかった」
2体はそう返事をすると、部屋を出て行こうとする。その背中へゴーグの言葉が投げかけられる
「すまないゴーマ。5分に1度、Bランクを500体この部屋に……」
「……わかった。が、100じゃ」
「……あぁ。すまない」
「しっかりと自我を保て」
「……」
それだけ言うと、2体は部屋を後にした。
1人残った部屋で、ゴーグは頭を抱え、独り言をまた呟き続けるのだった……
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