予選Dブロック4/5
「ふっ!」
「くっ」
「んんっ!」
聖騎士は剣で、ゴンは串で、ムルトは多節鞭で、互いに互いの武器を弾きながら立ち回っている。1人の攻撃を避け、1人に攻撃される。1人に攻撃すれば、もう1人に攻撃される。3人の集中力はとてつもなく、3人が3人共をずっと警戒している。
そして聖騎士が動く。
「ー
「くぅっ」
聖騎士の剣が輝きを増す。聖なる光は相手を攻撃するための魔法ではない。聖なる光が人を癒し、心地良くする魔法だ。
聖騎士の剣から溢れ出るその光はゴンの体と聖騎士の体を癒す。だがアンデッドのムルトにとってその光は、忌まわしく思えるものだ。
「アンデッドの貴様にこの光は苦しいだろう!」
「ぐうぅ」
「ムルト!」
動きが鈍くなるムルト、聖騎士はその隙を見逃さず袈裟斬りを繰り出す。よろめくムルトはその攻撃を避けることができず、後ろからゴンが串で聖騎士の剣を受け止める。
「すまない」
「だから謝るっ、ぐぅ」
ムルトはその隙を見逃さない。先ほどゴンが言ったようにここは戦場で、3人は敵同士なのだ。ムルトの多節鞭の穂先がゴンを貫いている。真っ赤な鮮血が飛んだ。
「あぁ、それで、いいっ!」
ゴンは聖騎士の剣を弾きながら後ろへと飛び、ムルトの多節鞭から逃れる。
ムルトは剣を弾かれ体勢を僅かに崩した聖騎士の足に多節鞭を引っ掛け、腹を蹴り、聖騎士を後ろに崩す。
「くっ!」
「はあぁ!!」
倒れた聖騎士の頭を突き刺そうとしたが、聖騎士は倒れる衝撃を使いながら、体を転がし、それを逃れる。
3人は距離を保ちながら互いに睨み合う。
「共闘だなんだと言いながら、仲間を刺したか」
「く……」
聖騎士はムルトを煽るように吐き捨てる。
「ムルト、あいつの言うことは聞き流せ。今の俺たちは友ではなく、同じ戦場に立つ敵同士だ」
「しかし……」
「お前の勝ちたいって、守りたいって思いはそんなものか!お前の大切なものが傷つけられ、その傷つけた奴が俺やティング、ワイトキングだったらお前は戦わないのか!」
ゴンは刺された腹を押さえながらムルトへと訴えかける。
「……」
「非情になれとは言わない。何を優先させるかは考えろ」
「……」
「お前は今、どうありたい!」
ゴンは腹の傷などなんのことのないようにそう叫んだ。ムルトはそんなゴンを見る。
自分が貫いた腹を、そこから溢れ出る血を
(俺の大切なもの……もしもゴンがハルカを……その時俺は……)
ムルトは拳を握り締める。自分の大切なものを傷つけられれば自分はどうなってしまうのか、恐ろしく思う。
「俺は……」
ムルトは多節鞭から半月へと変える。そして半月には赤と青、憤怒と怠惰の魔力を流す。
「俺は今、勝ちたい!!!そして、大切なものを守る!!」
「あぁ!その意気だ!!さぁこい!俺はまだまだピンピンしてるぜ!!」
ゴンは串を構え、ピョンピョンと跳ねる。
血は溢れているが、その気迫が弱まることはなかった。
「はっ!友情ごっこは終わりか?なら、決めさせてもらうぞ!」
「はあぁぁぁ!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
「おらあぁぁぁぁぁぁあ!」
3人はまた駆ける。各々の思いを持ち、武器へその気持ちを乗せて、ぶつかり合おうとしていた。だが、それは起こる。
言いようのない恐怖、強さ、プレッシャーが隣、Cブロックから放たれていた。
それはちょうど、ブラドが氷の柱から出てきたところだ。
聖騎士もゴンもムルトも、3人共十分な強さを持った者たちだ。それほどの強さを持つ3人は、相対した相手の強さが肌でわかる。
ブラドの強さの濃度は、確実に3人を包み込んでいた。
(な、なんだこの異様な圧迫感は……!)
聖騎士はその強さに呑み込まれてしまった。
Cブロックに意識を、視線を持っていかれてしまった。強さに呑み込まれてしまうことは別に恥ずべきことではない。それよりも、それに気づけるほどの実力を身につけているということは褒められることである。
だが、それは今この場、戦場の中で抱いてはいけない感情だ。
聖騎士がブラドの強さに気づいた。それはゴンもムルトも気づいている。だがこの2人にはそんなことどうでもよかった。
(今は……!)
(目の前の敵だ……!)
聖騎士がブラドの強さに呑み込まれてその方向に気を取られている時、ゴンとムルトは目の前の敵だけを見ていた。
そして2人は、聖騎士の明らかな隙を見逃すほど弱くはない。
ムルトは、憤怒と怠惰を付与した半月で、聖騎士の左肩から右胸、右足の付け根、両もも、腹部を通りながら斬りつけ、左肩へと抜けていく。憤怒と怠惰の付与された半月は、見事に聖騎士の鎧を斬り裂いた。聖騎士の体からは血が吹き出し、月のような形になっていた。
ゴンは両手、そして体のホルダーに入れている串で、すれ違いざまに串を刺していく。それは流れるような動きで、頭、口、耳、鼻、目、人間の柔らかい部分を見抜き貫かれている。止め処なく血が吹き出ている。
「ー
「ー
「が、がはっ」
2人の技が聖騎士へと炸裂する。
聖騎士も決して弱くはない。1対1であればゴンにもムルトにも勝てるかもしれないほどの腕を持っている。
だが聖騎士は負けていた。
腕の強さではなく、心の強さで。
聖騎士の姿が消える。
「ふっ!」
聖騎士が退場し消えたことで、ゴンが放った串が宙に舞っていた。
ゴンはそれを拾うことなく、魔力を使って操った。
宙を舞っていた串はムルトに牙を向けた。
「んんっ!」
ムルトは後ろへ飛びながらローブへ怠惰の魔力を付与し、全身を守るようにたなびかせる。
怠惰の防御力、そしてローブ自体の防御力が高く、ゴンの串はローブを貫くことができなかった。
そして2人は武器を構えなおし、また神経を研ぎ澄ませた。
ゴンは無数の串を集合させ、一本の槍に
ムルトの半月は憤怒の魔力のみが真っ赤な炎のように燃えていた。
「「うおおぉおぉおぉぉお!」」
2人は雄叫びを上げながら突進する。
武器に気持ちを、強さを乗せて
ムルトの剣に、黒い魔力が灯る。その魔力を飲み込んだように、憤怒の魔力がさらに燃えあがり収束する。
ゴンはそれを見て笑う。
(全力、だな)
2人は足を止めることなく走る。
また隣のブロックがざわついているようだ。
何かを破壊する音が聞こえる。それは段々こちらに近づいているように思えたが、2人にそんなものは関係ない。
(これで)
(決める!)
「「うおおぉぉぉぉぉ!!!」」
止まらぬ2人は互いに剣を交えるところだったが、またもや邪魔が入る。
(あれはっ?)
ゴンの目に入ってくるのは、杖を持った老人だった。先ほどの衝撃音は、この老人が壁のようなものを砕く音だったのだろう。
まだ飛んでいる姿を見ると、生きているということなのだろう。
(このままでは衝突してしまうっ!)
ムルトにもその老人は見えていた。だが歩みを止めてはいない。
「おおぉぉおぉぉおおぉお!!!」
雄叫びそのままにムルトは真っ直ぐに突っ込んでいた。
(突っ込む気か!ムルト!)
老人は、勢いそのままに2人は向かって飛んでいた。
ゴンは足を緩めてしまった。
(ムルトはあの老人に激突し、必ず体勢を崩す。そこを……突く!)
「ー
「っ!」
ムルトの横、飛んでくる老人の軌道上に、全身の骨、手先が鋭利な骸骨が5体出てくる。その骸骨達は腕を組み、肩を組み、地面に足を刺しこみ、分厚い壁となり、鋭利なその身を老人に向けている。
「おおぉぉぉおぉぉ!!」
ムルトは尚も飛び込んでくる。
「しまっ!」
老人は勢いそのままにその壁へと突っ込んでいく。激しい衝突音をさせていたが、骨の壁は崩れることはなく、真っ赤な血を大量に浴び、老人の姿はなかった。
ゴンは必死に立ち止まろうと足に力をいれていた。
そのため、防御に移るのが遅れてしまう。
その中でただ1人、常に前を向き、目の前の敵のみを見ていた男が、ゴンの前へ立ちはだかった。
高々と持ち上げられた赤黒い剣が、ゴンを襲おうとしていた。
(……ムルト、それでいい)
「おおぉぉおおおぉぉ!」
持ち上げられたその剣は、垂直に振り落とされた。
「ー半月ー!!」
全てを込めた一撃が、ゴンを斬り裂いた。
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