予選Bブロック3/5

コルキンはティングに真っ直ぐに突っ込み、その拳を振り抜く。

ガキン、と堅いもの同士が衝突したような音が聞こえる。


コルキンとティングの間にはダンがいた。

ムルトの骨を剣のようにつかい、コルキンの拳を受け止めていた。


「ぐっ!あっ!」


ダンは耐えきることができず、そのまま後方に吹き飛ばされてしまったが、その隙で十分だった。


「ぬん!!」


ティングは真っ直ぐに突っ込んできたコルキンの顔面へ拳を叩き込む。勢いを殺せなかったコルキンは不意のその攻撃をもろに食らってしまい、ダンと同じように吹き飛ばされる。


「ぺっ、そんな奇襲、何度も通じないぜ?」


「どうかな?行け!皆の者!!」


「「「うおおぉぉぉぉぉお!!!」」」


周りの冒険者やティングの召喚したモンスターが雄叫びを上げ、コルキンへと襲いかかる。


「雑魚が何体いようとも敵にすらならん!」


コルキンは迫ってくるもの達に自分から飛び込み、体を回転させながら、纏わりつく骨系モンスター、冒険者を次々と屠っていく。

ティングは次々と骨系モンスターを召喚し続けている。


「無駄っ!だ!!」


コルキンは両手で両側から来ていたモンスターと冒険者の頭蓋骨を砕いた。


「まるで隙がないな」


コルキンは多対一の戦い方を知っているようで、最初の奇襲以外攻撃が通りそうにない。


「ふむ……曲芸団!」


ティングの召喚した大小様々なワイトが整列する。


巨球男ボールマン逆さ男ハングドマン飢餓の獣ハンガービースト、前へ!」


そう呼ばれ前に出てくるのは、肋骨が大きく膨らんだような大骸骨、逆立ちで動いている骸骨、獣のような骨格に、首の周りにさらに骨が連なっている獣の骨


「玉転がしだ」


肋骨の中に頭と手足をしまった巨球男の上に、逆さ男が乗り、飢餓の獣が前足をかける。


「行け!」


巨大な球が転がされコルキンへと迫る。その回転力は凄まじく、まばらに空いた骨が地面を削る。


「んっ?!」


コルキンはそれに気づき身構える。

巨大な球へ掌底を放ち、その勢いを止めようとするが、それは飢餓の獣が許さない。前足で押し込んでいく。

そして逆さ男が球から飛び降り、コルキンの頭へと手をかけようとする。


「ふっ!」


頭を掴まれる前にコルキンは逆さ男の腕を掴み、地面へと叩き落とし、かかと落としをし頭蓋骨を砕いた。

そして無数の掌底を巨球男へと叩き込む。

骨は砕け散り散りになるが、それもティングの計算のうち。


「ーピンボールー」


ティングは他のワイトを呼び出し、デコピンをするように指を引きしぼる。


「撃て!」


指を弾くと、指の骨が飛んでいき、バラバラになった巨球男の骨に乱反射していく。

骨が骨を弾き、その骨はさらに他の骨を弾く。散弾銃のように無数の骨が死角もなくコルキンを包み込み、襲った。


「ちっ!ー回転防壁ー!」


コルキンはその場で目にも留まらぬ速さで回り、風でできたバリアのようなものを形成した。それだけではなく、自分の拳で骨を叩き落としているようだ。


しばらくすると骨は全て地面に落ち、飢餓の獣も巨球男も逆さ男もやられている。


「耐えきるか……」


「ティング、どうする」


「打つ手がないことはないが……あまりつかいたくはないな」


「あるのか?どんな魔法が?」


「魔法というよりかは……」


話し合いをしていると、目の前から凄まじい衝撃音が聞こえた。フィールドにヒビが入っている。コルキンが足を思い切り地面に振り下ろし作ったもののようだ。


「体力を温存しようと思っていたが……出し惜しみはなしにしよう……剛の呼吸ー鉄人ー」


手を目の前で合わせ、コルキンは呼吸を整える。


「何かする気だ!止めるぞ!!」


「「「おう!!」」」


ティングも、周りの冒険者もコルキンが何かをするということ、さらに強くなることは予感していた。そうなる前に手を打った方がいいのだが、ティングは嫌な予感を感じていた。


「おい!待て!」


冒険者達はそんな声など聞こえず、コルキンに向かって殺到していく。


「鳴の型ー浸透掌ー」


腕を斜め下に伸ばし、さらに呼吸を整える。

コルキンの目と鼻の先には冒険者の大群が迫っていたが、コルキンは気にせず呼吸を整え、スローモーションに見えるほどの美しい動きをする。


直立の姿勢から足を左右肩幅に開いて腰を下ろし、左手を前に出し、右手を引きしぼり、見事なまでの正拳突きを繰り出す。


「剛の鳴ー浸掌破岩ー」


ヒュン、と短い音が聞こえる。

先ほどまで怒声のような叫びと共に突っ込んでいた冒険者達の声が聞こえない。皆動きを完全に止めているように見える。

あるものは剣を振り抜きながら、あるものは空中で、あるものは怒りの形相で、皆が皆が止まり、動き出す。


体が弾ける音、手足が千切れる音、内臓が破裂する音、それは様々だった。


コルキンへ殺到していた冒険者達は悉く退場していった。


「……」


それを目の当たりにするティングとダン、そして特攻をしなかった冒険者達だ。

コルキンはその正拳突きが終わると、また姿勢を正し、呼吸を開始する。


「ヒュコオオオォォ……」


(先ほどと同じようなものが、またくる)


ティングは直感する。そうなっては負けてしまうと、そしてティングは決意をする。


「ダンよ、この会場にモンスターを心から嫌っているものはどれほどいるだろうか」


「どうだろうな。少なくはないと思うが」


「ダンはどうだ?」


「はっ!全く。ムルトが友達にいるんだ。モンスターは嫌いじゃない」


「そうか、実は私は」


ティングの前に手を出し、その言葉を止めさせる。


「言わなくていい。わかってる。で、作戦は?」


「……私が特攻を仕掛けよう」


「……さっきのを耐え切れると?」


「耐え切れはしないだろうが、必ず隙を作ってみせよう」


「ほう。だが有効打がないんじゃないか?」


「それがあるだろう?」


ティングはダンの持つムルトの骨を指差す。


「それで脳天を殴れば頭蓋骨が割れるか、気絶はするだろう」


顎をカタカタと鳴らしながらティングは言った。


「……いいのか?」


「いいさ。1人でなくていい。私はあの男に勝ちたくなってしまった」


「……わかった。任せる」


「ありがとう」


ティングはコルキンを睨みながら、その魔法を発動させる。自分が使える最強の合体魔法だ。


「ー不死者達の曲芸団デッドリー・サーカス・|団長《チーフ》ティングー」


ティングの召喚した骨系モンスター達がティングへと集まっていく。ティングのローブの中へと次々と取り込まれていき、その体を大きくする。


3m以上も大きくなったティングは両手を開き、大きな声で言った。


「ワイトキング、ティングの名の下に、その魂、体を我と一体にせよ」


頂点に立っていたはずのティングが骨の塊の中へと飲み込まれ、形を生成していく。

無数の骨が互いに繋がり合い、1つの大きな骨格となっていく。


背骨、肋骨、鎖骨、腕、頭、巨大な骨の上半身が形成されていく。


「多骨一体ーがしゃどくろー」


怪しい炎を眼窩に灯し、それは完成する。

大きな腕を振り上げ、石柱のような腕がコルキンを襲った。

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