骸骨は警戒する
翌日、陽が昇り、俺はハルカが起きるまで魔力循環をしてリラックスをしていた。
1日でHPとMPも全快し、完全復活、ということになる。
(今日も依頼をこなそう……いや、服を買いに行かねば)
今日はハルカの服や着替え、必要ならば装備を整えようと思っていた。
人間の国と違って様々な魔道具や剣などがある。周辺の魔物も強いからこそ、少々値は張るが、良質なものが多い。
(それでもドワーフはいないようだが……)
「待ってください!!」
一人、今日のスケジュールを考えていると、ハルカが大きな声を上げ、ガバッと勢いよく起きた。
「ど、どうした」
「え、あ、ムルト様……おはようございます」
安心した顔をして、俺に微笑みかける。
「昨日のことが、その、本当は夢だったのかなって……思いまして」
「ははは。夢じゃないさ。さぁ、顔を洗って飯にしよう」
「は、はい!」
満面の笑みだ。元々の顔だちが美しいから、さらに輝いて見える。太陽が後光のように差していた。
「飯を食べたらハルカの服を買いに行こう」
「え……い、いいんですか?」
「ハルカはまだ若いだろう?オシャレをするといい。それに、そんなに美しいのだから、着飾ればさらに輝くぞ」
「え、う、美しい?!は、初めて言われました……」
「誰にでも初めてはあるさ。さぁ、飯だ」
「はい!」
俺たちは部屋を軽く整理し、部屋を出る。とりあえず今日は金だけ持っていれば良いだろうと思い、他の荷物は部屋に置いて行く。
食堂は相変わらず静かな賑わいを見せていた。シンがまた席へと案内し、水を出してくれる。
「好きなものを注文してもいいが、昨日の今日、しかも朝だから、お腹に優しいものがいいだろう」
「そ、そうですね……本当に好きなものを?」
「あぁ。とりあえず、席に座るといい」
ハルカはまた地べたへ座っていた。俺がそう言うと顔を赤くし、席につく。
「ほ、本当に対等でいいのでしょうか……」
「当然だ。なんなら奴隷から解放してやってもいい」
「それはダメです!」
ハルカが身を乗り出して強く言う
「ぬっ、な、なぜ?」
「そ、それは……奴隷から解放されたら、ムルト様の物じゃなくなるってことですよね」
「元々ハルカは私の物ではない。ハルカはハルカ自身の物だ」
「え……えへへ。ありがとうございます……」
「あぁ。食べたいものは決まったか?」
「はい!それでは、お言葉に甘えて、これにします!」
ハルカはそう言ってメニューを指差す。
俺は手を振りシンを呼びその料理を注文する。今の俺はとりあえず胃袋を着用しているので、水を飲んでみる。水漏れはしない
「ムルト様は……その、がいこ……ものすごく痩せているのに水を飲めるのですか?」
恐る恐るといった風にハルカが聞いてくる。
「ははは。骸骨でいいぞ。見ての通り、胃袋を装着してな、人間の国でものを食べても怪しまれない。というものだ」
俺はローブを少し開け、胃袋を見せる。
使い方や廃棄方法などを説明すると、ハルカは興味を持って聞いてくれた。久しぶりに人とゆったり喋ることができて、俺も満足だ。
話に夢中になっていると、シンが料理を運んできた。
「あんたがそんなに楽しそうに話してるの初めて見たぜ……まぁ表情はわからねぇが……はい。お待ちどう。野菜炒めにオークのハム巻き玉子、野菜スープとパンだ」
シンが持ってきた料理はとても綺麗に盛られていた。
野菜炒めに、オークのハムで巻かれた玉子焼き、野菜スープは大きな野菜がゴロゴロと入っており、パンもなぜか二つ入っていた
「パンが二つあるようだが?」
「母ちゃんがサービスに。だってよ。そこのお嬢ちゃんが痩せてるから、ゆっくり肉つけろ。ってさ、んじゃ、仕事があるから、またな」
そう言ってシンは行ってしまった。
「あの……ありがとう、ございます」
「ふむ。感謝をすることはいいことだ。だが、俺に関しては気にするな。ハルカは皆から大切にされている。ということさ」
「は、はい!あ、ありがとう……ございます」
「ははは、さぁ、よく噛んで食べるのだ」
「はい!いただきます!」
ハルカが料理を前にし、両手のひらを合わせ、いただきます。と呪文を唱えた。
「それはどのような魔法なんだ?魔力の動きがないが」
「へ?あ〜。いただきます。というのはですね……」
ハルカが丁寧に説明をしてくれた。ハルカの世界のおまじないのようなものらしい。命をいただかせてもらいます。ということでいただきます。らしい。そして食べ終わった後には命をいただかせていただき、ごちそうさま。と言うらしい。命に感謝をするとは、とてもいい世界だな。是非一度行ってみたいものだ。方法はないが……
「美味しいです……」
ハルカが一言、ポツリと言葉を漏らす
「美味しいか」
「はい。産まれて初めて、こんなに美味しいものを食べました。」
「これからもたくさん食べられるぞ。俺が食わせてやる」
「え?」
「俺の旅の目的はな、美しいものを見ることだ。それが形有るものも、そうでないものも。この国では君を見ることができた。ハルカが俺の旅についてきてくれるのであれば、その美しいものを一緒に見ることになる。ハルカはそれに加えて美味しいものを食べることを目的にすればいい」
「いいのでしょうか……私がそんな……」
「ハルカがしたいかどうかだ。まぁ、道中の調理は自分でやってもらうことになる。が、金と安全は俺が保証しよう」
「ムルト様……」
俺はまたハルカの泣き顔を見てしまうこととなった。食事をとるとき、いつも泣いている気がするな。
「さて、食事も終えたことだし、買い出しに行くか」
「はい!」
俺たちが席から立つと、シンが手ぶらでこちらへ駆け寄ってきた
「ムルト、あんたにお客さんだってよ。あそこ」
そう言ってシンが入り口のほうを指を差す。
ハルカはそれを見て、俺の後ろに隠れる。俺はハルカを安心させるために抱き寄せ、剣に手をかける
「何の用だ」
「レヴィア様がお二人を屋敷へ招待致しました。私は屋敷へのご案内として参上致しました」
それは、昨日怒りを覚えさせた相手だ。
ボロ布を幾重にも纏った男。ナイフをハルカへ刺した張本人。クロムだった。
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