第11話 アキツシマ見学ツアー
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俺は
何でこんな所へ来ているのか?それは妹の保護者代わりだ。15歳の中学三年生が保護者として認められたのは不思議かもしれないが、そこはコネを使った。俺の親父の親友の姉の娘さんが結構偉い人なんだ。
人類初の系外惑星探査艦アキツシマ。その出発に先立ち世界の小学生を40人ほど艦内に招待する企画があるから、俺の妹に応募しないかと話があったのだ。妹の意向は無視して、俺は即OKした。宇宙関係の事が大好きな俺は、妹だけでも行って欲しいと思ったのだが、俺もついていけないかと紀里香さんに相談した。すると、何とかするから応募しなさいとの返事を貰った。ただし、選考条件の作文を提出する必要があるとの事だった。紀里香さんが選考委員長だから、それさえ出せば何とかなる。どんな作文を書くのかと言うと、子供向けの読み物「プロキシマ・ケンタウリbへの挑戦」「生命の可能性~アイボール・アース」「光速を超えて~次元跳躍航法への道」これら三作品どれか一つの感想文、もしくは宇宙開発に関する自己主張を2000字程度にまとめて提出する事だった。ただし、月面までの交通費は自己負担。そこから月の裏側にいるアキツシマまでは無料だった。俺は必死に親を説得して交通費を交渉し、感想文三本と宇宙開発に関する自己主張、合計8000字を妹の名前で書いた。そして堂々となりすまし応募したのだ。
選考の結果、もちろん当選した。妹の由紀子はというと、
「私の貴重な夏休みをどうしてくれるの。私は行きたいとか一言も言ってないんだからね」
とむくれている。しかし、お土産は何を買おうかとか写真一杯撮るから新しい携帯端末を買ってくれとか、本心はまんざらでもない様子だった。
2503年8月1日。
俺と妹はシャルル・ド・ゴール国際宇宙空港に来ているのだ。
感無量。
今から宇宙へ行くのだ。
胸が熱くなっている。
心臓の鼓動が激しい。
興奮してどうにかなりそうだ。
「辰兄ちゃん暑い」
そりゃそうだろう。こんな真夏に簡易宇宙服を着ているのだから暑い。この服は通気性など無く、エアコンはついていない。ヘルメットの風防を開いているだけだ。俺も暑い。
クラージュに乗り込み送気管を接続すれば服の中の空気が循環する為、適温に保たれるのだと言う。
一般の旅客機とは離れた位置にある宇宙船の発着場へと向かう。三両編成の大型のバスだ。これには招待された小学生40名と同伴の保護者40名、ユーロ関係者やPRA(Pacific Rim Alliance:環太平洋同盟……日本を含む東南アジア北米南米オセアニア諸国で作る同盟国家)関係者、合計100名程が乗っている。
俺達はバスから降り専用のエスカレーターでクラージュの出入口へ向かう。簡易宇宙服を着た客室乗務員に案内され席に着く。彼らスタッフの手で一人一人の宇宙服に送気管が取り付けられヘルメットの風防も閉じられた。簡易通信のチャンネルは二つ、オープンとクローズだ。オープンだとオープンにしている全員に聞こえる。通常はオープンにしているのは客室乗務員だけだ。クローズは本人と保護者のペアだけで使う。初期設定はクローズになっている。何か困ったことがあればオープンに切り替え客室乗務員を呼んで欲しいとのことだ。他にも非常用があるが通常は使わない。この切り替え方はヘルメット内のAIが日本語で教えてくれた。
「やっと涼しくなった。だいぶ汗かいちゃった」
「そうだな。自分の汗が匂うな」
「なんだか恥ずかしいよ」
「他の人には匂わないんだから気にするなよ」
「そうかもだけど、自分のって結構匂う」
「そのうち乾いて気にならなくなるから我慢しとけ」
「うん。分かった」
いつもより素直な妹である。
正面のパネルに映像が流れ始める。クラージュ船体の説明が始まった。
プラズマロケットと外燃機関であるレーザー推進の併用型。離陸時はプラズマロケットを使用し高度5000mからはレーザー推進に切り替わる。レーザー推進とは地上からのレーザービームを機体の凹面鏡で反射し、焦点部分に発生する高熱で大気を爆発的に膨張させ推進力とする方式だ。大気圏外では推進剤のガスを使う。ライトクラフトとも言うこの方式は、プラズマロケットを単独で使用する場合と比較して搭載する推進剤の量が少なくて済み、その分輸送量が多くできる。
このクラージュの船体は客室が6区画で各室定員は20名。他に食堂や売店、救護室や仮眠室、シャワールーム等があり、設備は充実している。
そろそろ発進時刻と言うところで船長が挨拶をする。フランス語だったがヘルメットのAIが日本語に翻訳してくれた。
「本日はユーロ航空の宇宙旅行にご参加いただきありがとうございます。当機クラージュはあと3分で発進します……」
そんな挨拶に興味がない俺は通信を切る。
3分がこんなに長いとは思わなかった。
全面のモニターにカウントダウンの数字が表示されている。
両手を握り締め心の中で数える。
(59……58……57……56……)
「辰兄ちゃん。怖くなった」
妹が俺の右手を掴んでくる。俺も握り返してやった。
いつもは横着で生意気で怖いモノ知らずの女王様なのだが、こういう女の子らしい所はやはりかわいいと思う。
「心配するな。兄ちゃんだって、ちょこっと怖い」
「そうなん。ちょこっと安心するかも」
「そうだ」
そうは言ってるけど、怖いよりは好奇心で興奮しまくっている。
胸の鼓動が収まらない。
「プラズマロケット点火しました。クラージュ発信します」
シートに背中が押し付けられる。
ものすごい加速力を感じるが、飛行機に乗っているのとそう違わない気がする。
飛行機とたいして違わない加速で宇宙まで行ける。これが
機体は水平から垂直方向へと向きを変え、更に加速する。
限りなく青い空をぐんぐん上昇していく。
俺は涙を流しながら感動していた。
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