114 傘を差す人 紫 李鳥様

 ふと、昔の文章を読み返すことがある。


 なんか、日常の出来事に関するお笑いのエッセイを書いていたことを思いだした。


 世界が平和になるようにとの願いを込めた、ナイチンゲールとマザーテレサが静かに語り合うようなエッセイでした。


 ごめん嘘です。ナイチンゲールとマザーテレサがキャットファイトしてました。


 読み返してみると、自分のことながらとても笑えた。


 あの時の自分はもはや自分とは違っているようにすら思うけど、変なプライド……ごめんそれはその時からあったわ、とかなくて赤裸々に語ることができていた気がする。


 なんか最近真面目すぎる気がするから、たまには初心に帰ろうと思う。


 思い出せ。あの時のテンション! 自虐的なことなんて、まったく気にならなかったみじめな自分自身を!


 本音押し殺して夜が明けるまで語り合えたあの頃を!(BAD COMMUNICATION)


 自分のことを遠藤孝祐(ハゲ)とか平気で書けていたあの素直な気持ちを!


 自虐拳……10倍だあああああああああ。






 さて、皆様方はいかがお過ごしでしょうか。


 遠藤孝祐(円形ハゲ)です。


 ほら、火山の噴火口ってありますよね。大地の神秘を感じる噴火口は、とてつもないエネルギーが噴き出ているからこそ穴が空いているのです。


 さて、頭上に穴が空いていたら(ドーナツ化現象を思い浮かべてください)どうなることでしょうか。


 そうです。熱がそこから発散されていくのです。ラーメンを食べる時に、明らかに湿っているなと感じるこの気持ち、誰かと分け合いたいと感じる私は、きっと誰よりも尊いはずです。


 人は人と、共感を交わさずにはいられないのです。


 自分と同じくらいの毛量の方を見かけると、そっと心の中で敬礼を交わします。


 毛があるほうが優れているなどという狭量な価値観と、必死に戦っている孤独な戦士なのです。


 話が大分逸れています(本題にすら入っていない)


 どこかで語ったかもしれませんが、語りましょう。


 まだ私が自分のことを悲しき宿命を背負った一人の戦士(ハゲの遺伝子)だとは気づいていなかった頃、大学生の時ですね。


 大学生と言えば、大分頭の中が桃色でいっぱいの時期です。


 忙しい理系大学生ならまだしも、適度に暇な文系大学生ですと、基本的に会話なんて麗しき女性とのことでいっぱいです。


 酒! ドラッグ!(タバコ) セッ〇ス!


 ところが、この時期ともなるとまだまだ魔法使い候補生達はくすぶっているだけです。己の欲望をいつか満たすべく、日に日に自己鍛錬を怠らないのです。


 加藤イーグル様、とてもお世話になりました。あなたの指捌き心に刻んでおります。


 そんな中、大学特有の集まりに勧誘されたことがありました。


 飲み会サークル。通称ヤリサー(ん?)です。


 はっ。どうせ飲み会大好き―とか言っておきながら、本当は異性が大好きなんだろ! とか酒を飲みたいんじゃなくて相手をすすりとってやりたいんだろっ! とか歪んだ思考は一切ございません。みんなほっこりとお酒を飲むことが大好きなんですねって思っていました。本当です信じてくださいなんでもしますから。


 とはいえ、お酒を飲むことにもまだあまり慣れていない身分。お酒を飲む量もわきまえず、パンツの中にマヨネーズを入れられるといった罰も受けています。こうして人は大人になっていくものです。


 お酒のたしなみを身に着けるためにも、これは非常に勉強になるぞと前向きな気持ちで飲み会に参加することにしました。誘われた女性の先輩の露出度がちょびっと高かったこととは、決して無関係なのです。ええ。


 大人だからこそ、大人としての風格を身にまとわなければいけません。無理して買ったポールスミスのシャツなども、大人としてのマナーなのです。虚栄心じゃないモン。


 そして、その日はやってきました。


 友人三人と、飲みサーに参加致しました。怖かったわけじゃありません。大人としての立ち振る舞いを学ぶべく同志たちと切磋琢磨し合うことが、成長への道筋だと考えていたのです。


 ドキドキしながら居酒屋に入ります。


 総勢三十人は超えていたでしょうか。色とりどりの洋服や貴金属に身をまとう姿は、まるで楽園の宝石箱のようでした。


 先輩に案内されるがままに席に座ります。


 そんな緊張の空間の中、案内された場所というのは。


 周囲は男たちばかりの、バラ色の楽園だったのです(後半へ続く)






 傘を差す人 紫 李鳥様


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889958748


 竹垣の上から、紫色の傘が覗いていた。






 ジャンル的にはホラーでありながらも、素敵な思いの詰まった短編です。


 紫色の傘を差す人。顔を見たことはないけれど、彼女はきっと美人だと思う。


 そういった推測も、なんとなくわかる気がします。鮮やかでありながらも毒々しさも併せ持つ紫色は、とても扱い辛く、その扱い辛さから自分にしか似合わないといった自信や高貴さもうかがえます。


 主人公とその友人は、その傘を差す人はどんな人であり、そこにどんなストーリーがあるのかと推測を話します。


 まさに、見えないからこそ想像力を掻き立てられる。


 平安時代では、女性は顔を見せてはならないといったしきたりがあったようです。


 だからこそ、愛の言葉は文にてやりとりをしていたと記憶しております。


 文章を見て、相手のことを想像する。実際に見えないからこそ、想像力が相手の人間像や性格などを補完する。その自ら広げた部分こそが、楽しみであるように思います。


 そしてある時、その傘だけが置きっぱなしになっており、傘を差していた人物はどうしたのかと不思議に思います。


 その真実というものが、物語の肝です。


 紫色の傘を見て、そういえばと思い出す。


 風化しつつある思い出が、その色で鮮明さを取り戻す。


 気が付いたことで、人生の鮮やかさを取り戻したようにも思います。


 思い出って儚い。


 現在ではないからこそ、思いでは勝手に無くなり、時に美化され、あの時とは違った形で存在していきます。


 不思議な傘に誘われた、何かを思い出すストーリー。


 とても温かい気持ちになることができました。






 約827万7千






 なんだよくそっ、居酒屋に入る前のドキドキを返せよ!


 とか思ったりはしていません。考えただけです。


 しかし、本分は大人としてのたしなみを身に着けることです。決して婦女子との語らいと肉体的な語らいを求めていたわけではないのです。


 それに、男性相手の方がしゃべりやすいですし(コミュ障)


 そして思わず「男同士の方が楽しいよな」とネオンの光る夜の街に繰り出すというオチが待っているかと思いましたが、今回はそうなりませんでした。


 幸いなことに(本音)、時間ごとに席が移動するような形式であったので、ちゃんと他の方々と交流することもできました。


 そんな中、少し調子に乗ることもあるZくんは「やっぱり男らしくマッチョな人もいいなあ」といったたわごとを本気にしました。


「俺の男らしさを見せてやるぜ」と言い放ち、上半身裸になりました。


 私は通報しようか迷いました。


 そんなことにも動じないZくんは、その場で腕立て伏せをし始めたのです。


 腕立て伏せができないことに対しては、とても自身のある私は、Zくんのことを羨ましくも思いました。


 とはいえ、発言というものには真実が含まれているかどうかはわからないもの。


 飲み会の席ということもあり、本気にするのはいかがなものかと思っていました。


 そんな中、別の女性がこう言い放ちました。


「私はお酒が強い人って好きだなー」


 遠藤&R「すいませーん。ビール追加で! ピッチャーでお願いします!」


 お酒の飲み方を学ぶために頼んだ。


 ただそれだけのことです。


 お酒が強い人が好きという言葉とは関係なしに、私たちは飲み明かしました。


 そして、


 気が付いたら知らない天井でした(飲み落ち)


 背はちっこいのにバリバリに髪の毛をツンツンに決めた先輩に担がれ(失礼)私とRくんはなんとか電車に乗り込めました。


 初めての酩酊状態。視界はグルグルと定まらず、本気で別時空が見えそうでした。


 ドラえもんがタイムマシンに乗っている時に、流れるエフェクトのような光景です。


 揺られる電車は心地よく、ふと意識を失いました。


 しかし人と言うのは不思議なもので、きちんと自宅までの最寄り駅で目が覚めました。


 ふらふらとした足取りで家に帰り、私は今日学べたことに非常に満足いたしました。


 ビールはピッチャーで飲んではならない。


 私が生涯守り続けて行こうと思った教訓です。


 さて、結局桃色の物語は展開されないままだったのですが、その日の出来事の残骸は、きっちりと残されていました。


 刺激的な残り香が、当時使っていたカバンから放たれていました。


 不思議に思いカバンを開けてみました。


 自らの吐しゃ物がきちんとカバンに収まっていました。


 きっと意識のなかった私は、なんとか理性を働かせていたんでしょう。


 無意識のうちに、電車を汚してはならないと、カバンの中に自らの責任を押し込めたようです。


 アルコールに踊らされたとしても、人としての尊厳は守られた素晴らしい出来事でした←尊厳は手遅れ。


 カバンは捨てました。





 もう二度と無茶な飲み方はしないと誓った三カ月後


 酒に酔って最寄駅でおり損ねた私は、仕方なくタクシーで帰ることにしました。


 市を二つ飛び越えた先だったので、総額一万円の勉強代。安くはないですが、いたしかたないでしょう。


 そして翌日になって気づきました。


 時計が失くなっていました。


 計四万円の損害。




 ……





 人は過ちを繰り返す生き物です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る