21②-⑧:俺が守る、今度こそ。

「ふう、これで本当に終わりだな」

 カイゼルは額の汗をぬぐうと、息をついた。


「…」

 しかし、テスは何も答えず、セシル達のいる地上へと魔法陣を進ませた。不審に思ったカイゼルがテスの顔を見るが、ただただ暗い無表情で、何を考えているのかよく分からなかった。



「お前ら!急に何してんだよ!びっくりしたなあ、もう」

 地上に降りたカイゼル達を、セシルは驚き半分怒り半分に出迎えた。しかし、カイゼルが事の次第を説明すると、セシルは「そういうことか」とテスを見た。

「ありがとな、テス。この世界の未来の懸念を消してくれて」

「…」

 しかし、テスは黙ったまま、そっぽを向いていた。「ん?」と不審に思ったセシルが、テスの顔を覗き込もうとした時、


―ぴきん


 何かがひび割れるような、高い音が聞こえた。


「え…」

 その音の方に目を向けたセシルは、それと同時に絶句した。


 テスの体―服の下から、青白い光が透けていた。


「お前!まさか」

 セシルは、ばっとテスを掴みよせると、服の肩を引っ張り落とす。


「…!!」

 テスの白い肩には、水色のひびが入っていた。そして、そこから青白い光がこぼれていたのだ。


「テス、お前!バカ野郎!さっき魔法で無理しやがったな!」

 カイゼルは、テスの両肩に手を置いて自身を向かせた。


「お前、俺に必要以上の魔力を流さないようにして、自身に蓄えていやがったな!おかしいと思ったんだ。ホリアンサの時よりも、疲労が少ないんだから!なんて馬鹿なことを!」


「仕方がないだろう?神の涙よりも神の瞳の方が、量が少なかったみたいだから。神の涙から吸収した魔力をお前の魔法へ分け与えたところで、余りに余るし、お前の体に負荷をかけるだけだから俺が蓄えてやっていたんだ。…まあ、最初からこうなることは分かっていたんだ。神の瞳は少量で、倍以上の魔晶石を神の涙に変異させられるんだから。北の地の面積も広いから、ホリアンサの時の何倍も魔力が余るのは目に見えていた」


「お前…分かっていてやったのか…?どうして…」

 カイゼルは、泣きそうな目でテスを見た。しかし、テスは何も答えない。


 そうしている間にも、ぴきん、ぱきんと澄んだ音を立てて、テスの体にひびが入っていく。

 セシルは、レスターなら何とかできるだろうと思った。セシルは、足を引きずりながらやってきたレスターに、テスの事を頼もうとした。しかし、そんなセシルの肩に手をやって、テスは止める。


「…もういい。そんなことをしたところで無駄なのは、お前が一番よく分かっているはずだ」

「だけど、オレは生き返った!砂になっても、神の涙と原子魔法を使えば…」

 と言ったところで、セシルははっとした。神の涙は、もうこの世界にはない。

 村長の所には残っている。リザントで神の涙と瞳を消す魔法を使ったものの、地下にあれば消えてはいないはずだからだ。しかし、その量ではきっと足りないだろう。


「これでいいんだ。俺が望んでこうなるようにしたんだ。だって、次は俺の番だから」

「何を訳の分からないことを言っているんだ!」

 セシルはテスに向かって怒鳴った。しかし、テスは、そんなセシルに、「へへ」といたずらがばれた子供の様に笑った。


「リアンの言葉で、俺は気づいたんだ。俺は傲慢だった。一度人生を終えておきながら、まだ次の幸せを夢見ていた。俺もリアンと同じく、古い時代の人間だ。…だから、今を、これからを生きるお前たちが幸せになれるように、行動しただけだ」


 テスは真面目な顔になると、今にも泣き出しそうな顔のセシルを見た。そして、なんてことはないような声音で、セシルに言った。


「神の涙は消えた。神の瞳も。だけど、まだナギ山の火口には、あちらの世界に通じる次元の穴が残っているはずだ。それが残っている限り、あちらから神の瞳―トリフォリウムは漏れ続ける。だから、俺がそこで爆発を起こせば、きっとその衝撃で穴が塞げるはずだ。何せ北の地中の、神の涙の魔力を蓄えこんだんだからな、規格外の爆発を起こすだろう。次元の穴とはいえ、ひとたまりもないはずだ。…これでもう、お前たちの世界に、俺の世界の負の遺産を背負わせるなんて事にはならない」


「…バカ野郎…リアンもお前も…。もっと我儘になったって、罰は当たらんだろうに…」


 セシルは、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。そんなセシルの涙を指で拭いながら、テスは優しい顔をした。


「いいんだ、これで。俺はもう満足だ。…お前がこの世に産まれてくれたおかげで、辛いことも絶望したこともあった。だけど、楽しい時を過ごしたこともあったし、幸せな時を過ごしたこともあった。そして、来世の俺―お前とこうして話せるなんて、人類史上初のような事もできた。最後にお前たちの未来の憂いを取り除くなんて大役も果たせて、これ以上の我儘は言わないさ」


 テスは、どこかすっきりとした顔になると、「それに」と付け加えた。


「厳密に言うと、これは自分が傲慢だと思ったから反省する為にやった事じゃなくて、自身が前の世界でできなかった宿願が果たせるから、やったことなんだ」

「は…?何なんだよ…それ…」


 セシルは、ぐすりとしゃくりあげながら聞いた。テスは、セシルの耳元に口を寄せると、小さく囁いた。


「――え」

 セシルは、驚いてアンリを見た。



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章題――ゆずり葉


縁起物ですが、買ったことないです。生えてるのは見たことあるけど。

意味合いは、そういうことです。

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