17-⑩:科学とオカルト①
「セシル、さっきのこの言葉の意味は…」
「それは…」
「セシル、カクブッシツってなんですか?」
「それは…」
―うざい
テスはアンリの質問に答えながら、持っていた懐中時計をちらりと見る。もう朝の4時だ。ただえさえ疲れていて眠いのだが、アンリの質問は一向に終わる気配がない。
―こんなことなら話さなきゃよかった
テスは小さくため息をついた。ため息は、夜の寒さに白い吐息となって、空に消えていく。
先程まで、黙って―唖然としてテスの話を聞いていたアンリ。しかし、テスがすべてを話し終えるなり、アンリははっと我に返ると、すぐさまテスを質問攻めにし始めた。だから、今は延々と質疑応答の時間となっていた。
―自分らしくもない
テスはアンリの質問にひたすら答えながらも、ふと思う。自身の素性など誰にも話す気などなかったのだが、あの時、何故かこの男には話したくなったのだ。この男なら分かってくれるという、変な直感が働いて。さほど付き合いのない相手だというのに、そんな気がしてしまったのだ。
「……ええと、次の質問は」
「なんだ」
「君はテスと言う、セシルの前世なんですよね?で、今世のセシルに憑りついていたって。でもそれおかしくないですか?生まれ変わる魂は1つのはずなのに、2人いて…。それに、さっき君は魂の欠片って言っていたけど、これ、どういう事ですか?」
アンリは聞きつつ、首をかしげる。
「…こんな非科学的な話、説明することも腹ただしいんだが、どうやら魂と言う人間の本体は、あの世―異次元の別の所にあるらしい」
「…へ」
訳が分からず、ほけっと間の抜けたアンリの前で、テスは片手の上に青白く光る魔力の塊を出現させた。そして、「例えるとだな」と、その塊から魔力をぷちっと指で引きちぎり、こねこねと丸めた。そして、丸めたそれを、「ほい」とアンリに投げる。慌ててアンリは、それをキャッチする。
「俺の持っているこのでかい塊が、俺の魂の本体だとする。これはどこかの別次元にある。だから、
そして、テスは、アンリの持つ光の球体を返してもらうと、それを再び大きな塊とくっつけた。そしてこねこねと丸めて見せる。
「普通なら死ぬと、魂の欠片は別次元に帰り、再びこうやって本体と融合する。そして、」
テスは、またぷちっと一つまみ魔力をちぎると、丸めてアンリに投げてよこす。
「テスという人格も混ぜ合わせた上で、次の魂の欠片を再びこの世に産みだす。それが俺の来世…セシルだ。その
「……?つまり、今まで生きた色々な人格が混ぜ合わされているのが魂の本体で…生きている僕たちは、その欠片って訳ですか?」
「そうだ。お前意外と物わかりが良いな」
テスはこんな論理の成り立っていない話を、すぐに理解したアンリに素直に感心する。
「そして、その魂の本体の中には、前世の人格が消えることなく存在し続ける。その魂の本体―前世の人格の集合体を
「……」
「そして、俺は、そのどちらにもならなかった不良な存在。この世に未練がたらたらで本体には帰らなかった…というか帰る気すらなかった魂の欠片だ。そして、帰らないうちに、次の魂の欠片がこの世に派遣された…それがセシルだ。それに俺は憑りついた」
「…つまり分身が分身に憑りついたってことですか?」
「ああ、そうだ」
「で、君はセシルの魂の欠片を取り込んだ後、神様に自身ごと消滅させられて、なのに君は今生きている。一体君の中には何が入っているんですか?」
「…分からない。残念ながら全く持って分からない。そもそも、あの化け物になった状態から、元の姿に戻れたことすら不思議なことなんだよ」
先程、テスは怨霊と化してから後の自身の事を説明するために、セシルの来歴についても話していた。マンジュリカ関連事件については、セシルは王家の人間ではあれど自分は違うから、箝口令なんてもう関係ないやと思っていたところがあった。それに、不思議とアンリなら、話しても大丈夫だと思えるところがあったからであった。
「とにかく、色々と分からないことだらけだが、俺は今こうして生きている」
テスは魔力の塊を収束させた。ぽすっと煙を残して、アンリの手からも小さな光の玉が消える。
「僕もまだ色々と疑問だらけですけど、とにかくあの世の仕組みってそうなっているんですね。へえ~」
アンリは興味深さに、きらきらと目を輝かせた。先程からの様子を見るに、アンリはこういうオカルトという荒唐無稽なジャンルの話が好きらしい。また、「原子ってなんですか?」といった科学的な事にも興味津津らしく、これらに関しては延々と説明させられた。
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