30.僕は宇宙《そら》で破壊する
(どうしたらいいんだろう、この状況)
ソラは迷う。
彼らに地球を滅ぼさせるわけにはいかない。
いま、ソラは地球を救うことができる。
ここで、彼らを皆殺しにすればいいのだ。
だが。
(そんなこと……)
「話し合いの余地はないんですか?」
『我らは神の意思を実現するのみ』
『地球人よ』
『もしも母星を護りたいというならば』
『我らを殺せばいい』
『その時こそ』
『地球人が好戦的であるという我らが判断の正しさは証明され、我らは神の元へと赴くことができるであろう』
(なんなんだよ、その理屈は)
言葉は通じるのに、会話が通じない。
あまりにも違う価値観に、戸惑うことしかできないソラ。
「あなた達は殺されてもいいんですか?」
『汝らが無人兵器を破壊した時点で、我らは死を覚悟している』
無人兵器。
先ほどまでソラ達が破壊したヒガンテか。
どうやらこれまで撃墜したものには人が乗っていなかったらしいと知り、少しだけホッとするソラ。
まだ、自分は人殺しにはなっていない。
『我らが母船には地球を破壊しうる武器はあらず』
『よって、我らはこれより母船を地球へと落下させる』
『我らの魂と、母船を持って地球知的生命体の浄化をおこなう』
とんでもないことを言い出す。
旅客機でビルに飛び込むように、宇宙船で地球に体当たりすると彼らは言っているのだ。
「なぜそこまで!?」
『我らが神の教えに従うため』
そもそも、この母船が地球に体当たりしたとして、人類が全滅するほどの災害になるのだろうか?
『質量のみであればならず。が、我らはレランパゴを暴走させる技術を持つ』
つまり、地球にぶつかる寸前に母船を自爆させるということだ。
とても正気の沙汰とは思えない。
「本気なんですか?」
『むろんのこと』
『我らが神に、我らが信仰と命の閃光を見せるとき』
「そんなことはやめてほしいとお願いしたら?」
『我らが汝の願いを叶える動機があらず』
それはその通りかもしれない。
と、その時ソラは気がつく。
周囲を映すモニターが、何度も遮られている。
(これは……彼らがとりついているのか?)
異星人達の何人かが、ソラの機体にとりついていた。それが偶然外部カメラを塞ぎ、映像が遮られているのだ。
カメラは自機を映さないため、気がつくのが遅れた。
(一体何を……)
ソラは状況を把握できない。
だが、次の瞬間。
コックピットの前方に集まった異星人達が、その鋭い尻尾で外壁を叩き始めた。
(まさか!?)
狙いはソラを機体から下ろさせることか。
(冗談じゃないよっ!)
ソラは反射的にエスパーダの右手で異星人達を振り払った。
それはエスパーダの動きとしては大したものではない。だが、生身の人間にとっては致命傷となりうる。
振り払われた異星人達は遠く壁まで吹き飛び――そして動かなくなった。
(やばい、殺しちゃった?)
青ざめるソラ。
一方、彼らは倒れた仲間には目もくれない。
――と。
『ビー』
エスパーダの中に警告音が鳴り響く。
(何?)
警告の内容を見ると、この母船が地球へと近づいていることを示していた。
あと、5分も経てば、地球への落下を止められなくなる!
(クソっ、こんな……)
もう、迷っている暇はない。
「話し合いの余地はないんですね?」
最後の質問を、ソラは彼らにぶつける。
『あらず』
「そうですか」
覚悟を決めて、ソラはエスパーダの操縦を始めた。
---------------
「トモ・エ、ソラとの通信はまだ回復しないの!?」
舞子は自分の声が悲鳴じみていることを意識していた。
ソラが巨大ヒガンテにつっこんでから、すでに10分以上。
ヒガンテは破壊されず、ソラも戻ってきていない。
ソラとの通信は、すでに8分以上叶っていない。
『すみません、まだです』
トモ・エの声にも焦りが感じられる。
(ソラっ!)
巨大ヒガンテは、今や地球に迫っていた。
距離的には月の軌道と大して差がない。
あるいは地球上からもすでに観測されているかも知れない。
『クギャー、もうあの子、生きてないギャー』
クーギャとかいう鳥形アンドロイドが言う。
『おい、クーギャ』
『なら、ケン・トはまだアイツが生きていると思っているギャー?』
『それは……』
クーギャとケン・トは、すでにソラが死んでいると推察しているらしい。
確かに客観的な状況を見ればそうなのかもしれない。
『いえ、ソラさんのエスパーダの反応は未だ健在です』
トモ・エが言う。
『そりゃあ、そうかもしれないし、俺だって死んでいてほしいと思っているわけじゃねーけどよ』
そんな会話をしていたときだった。
(……?)
舞子は異常を察知する。
それは、ほんの少しの変化。
空間認識能力を持つ彼女だからこそ気がついた、些細な、だが大きな意味のある変化だった。
「ねえ、ヒガンテの進路がおかしくない?」
舞子は呟くように問いかける。
『ああ? 何を言っているんだ。さっきからずっと地球に向かって……』
言うケン・トだが、トモ・エが横から口を挟む。
『いえ、確かにほんの僅かですが進行方向が変化しています。これでは地球に直撃ではなくかすめるだけになります』
『どういうこった?』
『……わかりません、ですが、これは……』
次の瞬間だった。
ヒガンテの外壁の一角が爆発した。
『おいおい、何が起きて……』
「ソラよ」
『あん?』
「ソラがヒガンテを破壊しているのよ」
『それは……いや、確かにそうか』
ヒガンテの爆発は四方八方に広がっていく。
やがて、ヒガンテ全体にヒビが入っていき、そして。
ヒガンテがバラバラに崩れ去った中心部に、傷ついたソラのエスパーダが確かに存在していたのであった。
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