第140話 現実問題(4)
高宮は尚も、
「頭金ナシでもローンは組めますが、月々の支払いがかなり苦しくなりますね・・」
ポケットから小さな電卓を出して計算し始めた。
「まあ、だいたい・・ざっとですけど月々15万以上は返して行かないと。 それを考えると苦しいでしょうがやはり多少は頭金があったほうがいいですよ。 この辺の地価相場はたぶん去年と比べて落ちていますから、買いどきと言えば買いどきですが。 マンション買うと今度固定資産税も発生してきますから。 これもバカにならないし。 あ、住宅ローン組んだら、その分、申告すれば税金は控除になりますから、それを忘れるともったいないですよ、」
一方的にベラベラとまくしたてられ。
八神と夏希は目をぱちくりしながら聞いてしまった。
「・・なんか、おれ自信なくなってきた、」
結局、ガックリするだけだった。
「まあ、実家の助けを請うという作戦もありますけどね・・」
高宮は打ちひしがれている八神に続けた。
「・・それができりゃ、苦労しないって。 おれなんか無理に一人暮らしさせてもらって音大まで行かせてもらったのに。しかも、まだ嫁に行ってない姉貴が一人いるし・・」
もう、体中の力が抜けたようにぐったりとしていた。
「なんか、大変なんですねぇ。」
夏希は心から同情してしまった。
高宮はそんな彼女の顔をジッと見て、
「なんか口の端にくっついてるよ・・」
と注意した。
「え? なに?」
夏希は慌てて拭った。
「あ、さっき! お客さんからシュークリームもらっちゃって! それがまたシューがパリパリでクリームがとろっとろで! サイコーに美味しくって! そのカケラかな・・」
無邪気に笑う。
「もー、そんなんで人前に出て。 しょうがないなァ、」
高宮も仕方なく笑って彼女の口の端をハンカチを出して拭いてやった。
さっきまで
住宅ローンについて饒舌に語っていた男と同一人物だろうか。
八神はアホらしく思いつつ傍観してしまった。
「・・でね。 そのシュークリームくれたお客さんね、鼻毛がちょこっとだけ出てて! あたし、すっごく気になっちゃって。話するたんびにそれが出たり引っ込んだりしてて~、」
夏希は思い出し笑いをしながら夢中で高宮に話をしていた。
彼はそんな彼女のバカバカしい話を、本当におかしそうに笑いながら聞いていた。
よくもまあ
あんなバカな話聞いて、頷いてられるよなあ・・
アホらしく思いつつも感心してしまう。
ほんと
加瀬って
こんな話したら、アホらしいとか
そういうこと全く考えないで、自分の気持ちの赴くままベラベラしゃべくって。
高宮みたいなエリートで頭がすっごく良くて。
そんなヤツにも
おれなんかに話すのと同じような話して
笑って。
自分を飾るとか
見栄を張るとか
一切、そんなのがなくて。
どうやったら
こんなに自然に生きられるんだろう。
八神はぼんやりとそんな風に考えてしまった。
無理をしたら
つらくなる。
見栄を張ったら
もっとつらくなる
夏希を見ていると本当に身にしみてきてしまった。
そうだよな。
小さなため息をついた。
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