第114話 揺れて(2)

心ここにあらずで仕事をして


斯波にまた怒られて。


そんな中でも


八神は走って美咲のマンションへと行った。



「も~、なに? 寝てたのに・・」


当の美咲にものすごく迷惑そうに言われて、ムッとした。


「心配してんのに、」


「はあ?」


「で、どうなんだよ。」


「え、どうって・・あれからほとんど寝てたし。 まあ食欲もないし・・」


美咲はキッチンに行って水だけ飲んだ。



「ほんとに・・だいじょぶなんだろうなあ、」


「え?」


「妊娠。 してないんだろうなあ、」



八神の言葉に美咲は表情が一変した。


「なによ、その言い方。」


「なんで心配じゃないんだよ! 可能性あるんなら、早く医者行って調べてもらって、」


焦りまくる八神に



「もし。 妊娠してたら・・どうすんの?」


美咲は冷静に彼の顔をうかがった。


「え・・」


「慎吾はどうするつもりなの!?」


彼女の怒りのメーターがものすごい勢いで上がっていくのがわかった。



「どうって、それは・・・やっぱ・・責任、とらないとって、」


もう目はめちゃくちゃ泳いで、自分を正視できず。



あきらかに挙動不審そうに言う八神に美咲はブチ切れた。



「バカっ!!」



いきなりそこにあったクッションを投げつけられた。


「なんだよっ、」


「どう見ても仕方なくって雰囲気まるわかり!! 別に責任なんか取ってもらわなくてもいいよ!!」


「美咲・・」


「あたしが一人で産んで育てるからっ!!」




ぞぞぞっとした・・



「な、なに言ってんだよ・・」


声が裏返りそうだった。


「しょうがなく結婚なんかしたくない! なによ! ビビっちゃって。 あたしのことが好きだとか何とか言っておきながらやっぱり迷ってるじゃない!!」


「そんなこと、」


言い返そうとするが、


「そんなことなくない!!」



勢いに


負けた・・



美咲はついに頭にきて八神の頬を思いっきりひっぱたいた。


「いっ・・」


それが強烈にヒットして八神は頬を抑えて痛みに耐える。


「もう帰って!!」


興奮収まらない美咲は八神を突き飛ばす。


「美咲!」


「もう二度とくるなっ!!」


ケリまで入れられた。




それからは


もう


生き地獄で。



仕事


ぜんっぜん


進まないし・・



おまけにポスターの印刷の締め切りわすれて


またも斯波さんに怒られて


謝りに行って。


ようやく社に戻ってこれたのが夜8時。



美咲からは音信不通だし。


電話しても出てくれないし。



すんげえ怒ってたからなァ・・


大きなため息をついた。



「ああ、八神。 直帰したんちゃうの?」


南だけが事業部に残っていた。


「はあ・・」


「あたしも仕事いっぱいでさあ。 そろそろ帰ろうかなあ、」


彼女は片づけを始めた。


「あ・・これ。 今日の報告書・・」


八神は南にクリアファイルを手渡した。


「あ、うん。」


南はそれを手にとるが


なぜか八神はソレを手から離そうとしない。



ぎゅううっとファイルを抑えている。


「あ?」


引っ張ってみるが、八神は南をもう泣きそうな顔でジーっと見て手を離さない。


「なに・・?」


思い切って聞いてみた。


「どうしよ・・おれ・・」



本当に泣きそうだった。


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