第82話 恋の狭間(2)

夢だったのかなァ・・




「これ。 すぐファックスしておいて。」


斯波はいつもの通りに冷静沈着に


仕事をテキパキとこなしていた。


「はい・・」


書類を受け取った。



その場に立ったままの八神に


「なんだよ、」


ジロっと大きな目で睨まれた。


「い、いえ。」


慌てて一礼してその場を去る。



人のキスシーン


生で見たのは初めてだ・・


しかも!


あんな濃厚な!



「八神さん、お電話です。」


萌香が声をかけた。


「は・・はい。」



彼女を見てまたもボーっとしてしまった。


「・・?」


萌香は自分をじっと見る彼に怪訝な顔をした。


「あ、ご、ごめん・・」


慌てて電話を取った。




まあ、


彼女は色々あった人だけど。


あんだけ


美人でスタイル抜群で


たまに、屈んだりするときにシャツの胸元から胸の裾野が見えたりして


ちょっとドキドキしたこともあって。


華奢なのに胸がすごく目立つし。


ちょっと冷たい雰囲気だけど、それがまた色っぽくて。



その彼女が!



もう


昨日からずうっと同じことが頭をぐるぐると巡っていた。




「なに? 魂の抜けたような顔しちゃって。」


この日は自分で弁当を作って、デスクで食べていた八神だが


弁当箱を広げたままボケーっとしていたところを南に指摘された。


「あ?」


「めっちゃおいしそ~~! 朝からエビフライとか揚げるの? すっごーい。」


弁当の中身に興味津々な彼女に、ささっと弁当箱を隠して


「食べないで下さいよ。豪華なランチを食べてきた人は・・」


口を尖らせた。


「何を言うてんの。 お金がなくてかわいそうな八神にそんなことするかって、」


南は豪快に笑った。



八神はそんな彼女を見て思わず


「あのう・・」


神妙に声をかけた。


「ん?」



「斯波さんと栗栖さんって・・つきあってるんですか?」



思い切って聞いてみた。



「えっ・・」


今まで笑っていた南の顔が一変して、ものすごく意外そうな顔をした。


え?



やっぱこれってNGだったのかなっ!?


やっべー、おれっ!


余計なこと・・



八神は慌てふためいた。



「あ、いや・・ふ、深い意味じゃなくって!!」


何が深くないのかさっぱりわからないのだが、そう否定してしまった。



わ~~、どーしよっ!


この人が知っちゃったら!




南は怪訝な顔で八神を覗き込んだ後、



「・・知らなかったの?」



意外な言葉を口にした。



「へっ・・??」



声が裏返ってしまった。



そこに玉田と志藤が話をしながら戻ってきた。


「ちょっと! 聞いて! 八神ったらねえ!」


石膏のように固まったままの八神をほったらかしにして南は二人のところに飛んで行った。



「も~! 八神ってば、斯波ちゃんと萌ちゃんがつきあってること知らなかったんだよ~!!」


思いっきり大きな声で言われた。


「はあ?」


二人も一斉に八神を見た。


八神は箸を持ったまま


エビフライも口にできずに


その状況に


固まり続けた。




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