第37話 救いたい(2)
おれ
マユちゃんのこと
好きなの、かな?
初めて
『好き』
という言葉をしっかりと認識した。
「んじゃあ、朝10時着ってことで。 いい?」
「ん~~~。」
「お昼はどうしよっか。 夜はバーベキューだから・・・・」
「ん~~~。」
美咲は八神の部屋にやって来て旅行の打ち合わせをしていた。
「ちょっと! 聞いてるの?」
腑抜けの彼の耳を引っ張った。
「いってえなあ!もう!!」
「ぼーっとしちゃって、」
麻由子のことが気になって仕方がない。
「あ、ねえ。 これ、お父さんが新製品のワインだって送ってきてくれたの。」
美咲はバッグからワインを取り出す。
それはキレイなロゼカラーだった。
「きれいでしょ? 香りがよくて飲みやすいけど本格的なロゼワインなんですって。 ちょっと飲んでみよう。」
美咲は台所に行ってワイングラスを持ってきた。
きれいな
ピンクと赤と紫が交じり合ったような
液体に
ちょっと見入ってしまった。
「おいしい・・ほんっと、新しい味、」
美咲はそれを飲んで嬉しそうに言った。
八神も一口それを飲み
「・・うまい。」
ポツリとそう言った。
「お父さん、頑張ってるな~」
美咲はふっと笑ってそう言った。
美咲はワインで少し酔ってしまった。
「ねえ・・泊まって、いい?」
ぼんやりとした口調で八神に言った。
胸が
ちくんと音がした。
「・・ダメだよ。」
彼女の目が見れなかった。
「帰るのめんどくさくなっちゃった、」
美咲はテーブルに額をくっつけるようにして言った。
「言っただろ。 おれはおまえを都合のいい女にしたくないって。」
ちょっと怒ったような口調でそう言ってしまった。
「都合がよくても・・いいのに。」
顔を伏せながら美咲は言った。
「美咲、」
「慎吾はそんなこと全然気にしなくてもいいのに。 あたしの勝手なんだから、」
「それこそ勝手だよ。 おれのこと困らせたくないって言ったじゃん、」
美咲はガバッと顔を上げ、
「そばに、いたいんだもん。」
まるで
子供のわがままだった。
「おれは美咲が傷ついたりするのは見たくない。 ほんと・・家族と同じように。 美咲のことは心配してるし、」
「家族じゃないよ!」
美咲はつい八神を責めるような言葉を言ってしまった。
「だから。 頼むから。おれを迷わせないでくれよ、」
もう、こっちが泣きたくなる。
「あたしだって何度も何度も自分の気持ちを確認したよ。 慎吾に振り向いてもらえなくて、もう他の人とつきあっちゃおうかって何度も思って。 実際、そうしたってぜんっぜん気持ち晴れないし。 一人の人と半年も持ったことないし。 お父さんが見合いの話を持ってきたって、慎吾以外の人と一生過ごすなんてあたしには考えられないんだもん・・」
美咲の言葉が
鉛のように
心に蓄積されて。
「送るから、」
八神は無理やり話を終わらせて立ち上がった。
「慎吾、」
美咲はベソをかいていた。
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