第4話 先輩
涙は星になった
星は、夜の闇に輝いて消えていった。
彼女が泣いた理由が分かるほど、まだ私は彼女を知らなかった。
図書室の静かな雰囲気が好きだ。
築四十年は経っているであろう校舎の地下一階。
ワックスが飴色に光る木製タイル、所々黒ずんだ本棚。
カウンターに一人座り、ごく稀にしか現れない貸し出し希望の生徒の手続きをする。
そんな静かで、まるで一人でいるかのような所で、ゆっくり読書をする……わけではなかった。
放課後開放が始まってから三十分程が経った頃、遠くから図書室担当の教師と知らない声が聞こえてきた。
(そういえば今日は……)
今日は新入生の部活説明会だ。
この学校の図書室は、委員会ではなく部が管理を担当しているので、毎回新人が現れるのはこのタイミングだった。
「今年の新入部員の子よ」
担当は手短に紹介してくれた。
「よ、よろしくお願いします……」
「―よろしく」
そんなありきたりな出会いの後、彼女と私はよく一緒に当番に入るようになった。
彼女は機械が壊滅的なまでに苦手らしく、滅多にエラーの出ないパソコンの画面に赤いバツを表示させては、泣きそうな目で私に助けを求めに来た。
当番の時は基本的には暇だ。周りに聞こえないような囁き声で、昨日のテレビ番組の事や、学校でのできごとなど、いろいろ話した。
先輩後輩、というより、仲の良い友達。
たまに彼女は、私を見つめたままぼうっ、とすることがあるけれど、気には留めなかった。
季節も変わり、肌寒くなってきたある日の帰り道。
蔵書整理で最終下校時間ぎりぎりに彼女と校門をくぐった。
最寄駅までの、少し長い道のりを二人で歩く。
「先輩」
「ん?」
答えは直ぐに返ってこなかった。
ちらりと横の彼女を見ると、何か思いつめたような、そんな顔ををしていた。
「先輩」
「何?」
彼女が正面に立ち塞がり、私の歩みが止まる。
「私、先輩のことが―」
「好きです」
「んぇ!?」
変な声が出た。
脳がフリーズして、言葉が出ない。
「――やっぱり変ですよね……、その…、女子が女子に好きですなんて……」
微かに湿った彼女の声で現実に戻される。
まだ返事をしていなかった。うまく回らない頭で、一言一言、口にする。
「私は素直に嬉しいよ……」
彼女の涙は止まらない。
「―でも……、私もどう返せばいいか分からないんだ」
自分のありのままを告白して、でもそれに戸惑い涙を流す彼女。
そんな彼女から
なぜか目が離せなかった
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