第46話 CB 行徳 俊則(20)


俺の名前はイングランドプレミアリーグのトットムでプレーするCB 行徳 俊則 (ぎょうとく としのり)だ

チームでの役割は守備の司令塔としてパス回しと守備ラインの統率をやっている


元は高さを生かしたヘディングの上手いFWだったが、守備力とパスを買われてDFに高校の時に転向した

一年間オランダへレンタルされていたが、セットプレーで5得点と展開能力を買われてレンタルバックした

鳴海先生に教えて貰ったヘディングバレーに嵌っていた俺は高校に入っても仲間と続けたせいもあって身長が2mを超えている

先生に栄養メニューの計算方法を教えられていたので、ガリガリではなく普通の体形でもある

俺はビルドアップの速いパス回しや、ワンタッチでプレスを外すなど、割と順調にここまで来た


最近チームの監督が3TOP対策で3バックや5バックを試しはじめたのである

このあたりから自慢の展開力が鳴りを潜めた


チームの監督の言うのは所詮、理想であってそうプレーできたらいいが、現実は遠い

スタメンからは外れていないがチームは連敗とちょっとまずい状況だと唇を噛んだ


若干のためらいを覚えたものの、他に手はないので、先生に電話した

「夜分すみません先生、実は3バックになってから展開が乏しくなってきてしまったので……」

「これはちょっと難しいな、頼られるのは嬉しいが、答えが出せるとは限らないと思ってくれ」

「先生でも難しい事があるんですね」

「俺も人だからな、でも研究はしたいからいい題材だから、動画を送ってくれ」

「ありがとうございます」


この時から俺の待ち時計は非常に速くなり、眠れずにベットで寝返りを打つことが多くなった

一週間後に先生から連絡が来た時は飛び上がらんばかりの嬉しさだった


先生からのメールにこう書かれていた

・まずはSBと一緒に相手のウイングを剥がす事

・相手が4-3-3の場合はインサイドハーフの裏アンカーの横にスペースがある筈なので、そこを使う

・味方と連携してアンカーの横にグラウンダーの速いダイアゴナルなパスを入れてみるのが良さそう

・当然SBからも同様のパスが出来るので使ってみる方が良い

・相手が3バックだったら逆サイドの裏のスペースをみると何かを掴めるかも知れない

・同じサイドに無理に通しても相手のサイドの技量で覆されてしまう


鳴海先生にしては珍しく弱気な発言だったが、何かあったのだろうか

まずは、次の試合で試してみる他はないと思った


チーム練習の時に同僚のSBとFWにメールの内容を話してみた

「いいトライだ」「良い考えだと思う」「君が上がった時にフォローしよう」といったポジティブな応えが返ってきた。


次の試合の時に、SBと一緒にウイングを剥がして前に出た時に先生の言っていることが判った。


相手のアンカーの横にいるFWにスタジアムの半分を弧を描く様に美しい曲線なダイアゴナル (斜め) な早いパスを通した時、仲間はワントラップでDFを躱してゴールを決めた

スタジアムが大きな歓声で燃え盛る炎の様に揺らぎ渡った瞬間だった


そうか個人で打開できない問題だったから先生は不安そうに答えたのか


だいぶ無理を言ってしまったと思った時にチームは連敗を抜け出した

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