第261話 日本にて

 2年ぶりの日本はなんだろな、病院巡りで終わりそうになった。俺は、ずっと夏から続く痛みに耐えていたし、もうダメかもな、と内心思っていた。まさか本当にストレスだったとは信じがたい。


 いろいろ検査したが、日本ではほぼ何ともなかったのと、日本に帰ったら、痛まなくなったのだ。それは本当に奇妙で、何か水や食べ物が合わないとか、まあ、ものすごいストレス環境だから痛くても当たり前だったが、うさぎちゃんが言うように、「食べなさすぎで、栄養失調になってます」と言うのが当たっているのかもしれなかった。


 俺は食事には実はある意味あまり興味がなく、食べることは結構苦痛なことが多かった。俺は寝食を忘れて作業するたちで、そうなると食べることなどすっかり忘れてしまう。昔から母さんが、無理に俺に食べさせたが、そうでもしないと、食事してないことすら覚えてない。俺の集中力は常に異常だったが、寝ない食べないなど無茶をしすぎることが原因で、そんな生活をしていたら、健康を害しても当たり前だと指摘されることは多かった。俺にとっては無茶というよりは、ちゃんと寝たり食べたりする方がよくわからねえ。子供の頃から、ちゃんとした生活を母さんに見守られて、しっかりしてきた割に、俺にはそういうことがちゃんとわかってないというか、だいたい普通がなんなのかわからないというのが常だった。


 母さんも兄貴も、Bを歓待してくれた。Bは不機嫌だったのが打って変わって、常に上機嫌で笑っていて、そして母さんと兄貴が、Bがこんなに面白いことばかり言うなんてと驚いていた。Bは何度も俺の家族と時間を過ごしていたが、なぜか知らないが今回はほぼヤケクソに近いくらい、Bは楽しんでいた。おそらく、俺とのコンビ解消を真剣に考えていたからに違いなかった。俺も、もうBとはこれで終わりかもな、と思って日本に帰ったというのはある。あのムッシューのせいで、家を買ってから、諍いが本当に絶えなかったから。


 兄貴はBを誘って飲み歩いた。俺は酒には興味ないし、家に居たい方で、それは助かった。俺ね、Bに言わせると、いつも同じパターンの人間らしい。俺はホームを決めたら動かない方なんだよね。だからいつも想像つくような動きをしているらしい。兄貴がBを連れ出してくれるおかげで、自分の時間ができた俺は、なんでも用事が簡単に済む便利な日本で、もう日本に帰ったほうがいいか真剣に考え始めていた。正直、こんなに苦労して手に入れた家も、あのムッシューの目が黒いうちは、人を招いて何かするとか、とてもしにくい。ムッシューはJさんにまでお手伝いさんを差し向けて「どちら様ですか?職業は何をされているのですか」と質問させているのだ。


 俺は信じられねーと思ったが、とにかく、住みにくい、やりにくいことこの上なく、俺は店子じゃねえ!と叫びそうになった。ちゃんと買った家で、借りてる家じゃねえし、庭だって半分はこっちの庭で書類上もちゃんと分けられてる。


 最初からムッシューは俺らなら思う通りになると思っていたんだろうなと思うと、もう何もかも捨てて、日本に帰って出直すべきか俺は真剣に悩んだ。


 兄貴は、何でもいいから独り立ちしてくれとは言ったが、Bとのコンビ解消については、苦い顔をした。兄貴はもともと、うちの会社から一人くらい海外にいて外国語ができる人間がいると便利だ、と俺を送り出したくらいだから。


 俺もBくらい良い奴はいないと思っていて、家の名義も共同だし、ここまで来てととにかく苦い思いでいた。書いてなかったが、俺はちょうどこの頃、めちゃめちゃ好きな子がいた。Bには茶化されたが、俺はもちろん、告白する気などなく、ただただ好きなだけだった。Bにだけはバレていて、俺、その子を追ってその子が国に帰る時、俺も移動しようかと思ったほどだった。まだまだ先の話。


 そしてそれは日本じゃなかった。俺もフラフラしてて、とにかく仕事もまともじゃないのに、告白どころじゃない。自分で自分のダメさ加減に嫌気がさしていた。身の振り方に悩みながら、Bと一緒に高校の同窓の奴らに正月に会った。

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