第118話 ホテルで豪華生活?


 まあそういうおとぎの国の極貧バイト生活に比べたら、上げ膳据え膳のホテル生活は、すごかった。


 ちなみに俺、ちゃんと最後は会社に勤めてた。おとぎの国、万歳。これで俺もなんとかやっていける、と思ってた矢先だった、夜逃げしないといけない羽目になった。バイトの身ながら、これで生活していける目処がたっていたのに。せっかく勤めてた会社も辞めなくちゃならなくなり。俺は病気でフラフラ、Bはヤクザから追われる身になって、田舎の国から逃げ出した。


 戻って来たこの国で、どうやっても住めるところがなく、困る俺たち。別荘のある場所は何もないノーウェアーだし、この国での過去半年以内の勤務の実績が半年ありますという職場からの証明書がない限り、いくら現金を持っていても、不動産屋はアパートを絶対に貸してくれない。不動産屋を回ってため息をつく俺たち。田舎の国でずっと働いていても関係ない。この国で働いていた直近6ヶ月の証明がない限り、たとえ保証人がいても、アパートは借りられない。


 そのソリューションが、究極の職住近接。半年は勤め先に住む!という荒技だった。


 ここの豪華ホテルは、Bさすが、やった、というような素敵なホテルだった。こじんまりなどしていない。バカでかい。新しい。バーもレストランも素敵だ。踊ろうと思えば踊れるが、俺は目立つのは嫌なのでやめた。


 でっかい似たようなホテルが立ち並ぶ、ここもおとぎの国。俺ら、なんつーか、そういう場所に縁がある。俺もBも、ゲームのキャラか、ラノベの主人公みたい。そして、綺麗な女が周りにいるんだが、いつも俺はそれどころじゃないし、Bもなんだろな、あいつって女運のない男。


 兄貴が「お前が周りの男の女運を全部吸い取る、お前といると女運がなくなるから、あっち行け!」と言ったが、吸い取った女運はどこに消えるのか?


 俺もあんまりイイ目をすることなどない。女は優しい。俺は、メンヘラは実は苦手。俺には無理なんだよ、助けるのが。で、俺はいつも健康的で、しっかりした、明るくしっかりした女に惹かれ、振られるんだ。パターンだな。

 

 こんなに長く同じ場所にいると、絶対に目立ってはいけない。ひっそりとまるで、ネズミのように目立たなく。それでも当たり前だが、半年以上住んでいるのだから、顔見知りになってしまう。俺は個人的な話は、誰ともしなかった。ただの一人とも。食堂で一人、気に入った子がいたが、入ってきたばかりのバイトで、朝ごはんの時にいつもいて、その子は可愛かったが、すぐ辞めていった。Bの手前、俺はほんと「お前、絶対に目立つなよ!!」とBに念を押され、何かあっても出ていくところがない俺たちは、そういうわけで、ものすごくディスクリートに生活していた。


 そんなに気をつけなくとも、従業員が多すぎて、入れ替わりが激しいことも、俺たちを心地よくしていた。これくらい人と距離がある方が安心だ。Bから、お前、絶対に目立つなよ、と釘を刺されなくたって、フロントだって、コンシェルジュだって、ルームクリーンだって、ベルボーイだって、正直、人数が多いから。まあ、6ヶ月の滞在は長いが、今、俺は思い出してみようとしたが、3〜4人も見知った顔はいない。トップはすごいイケメン、やり手で若く、Bよりもキレる。ちょっと嫌味なタイプのやつで、結局、他国のホテルに異動した。同じ会社内の移動。その次のボスは女性だが、顔を知らない。もう一人がBを引っ張ってくれた恩のある同郷のボス。この国ではそういう簡単なことが結構、重要。同郷、万歳。


 もう一人はバーのマネジャーで、背が高い、Bに言わせるとイケメンだが、俺は普通のやつだと思った。そいつはその後、世界一周のクルーズの会社に転職した。もう一人は隣の兄弟ホテルのトップ。そいつは背は低いが、かなりやり手のイケメンで、もっと大手のホテルチェーンに異動した。優しげな顔をしているが、全く考えていることがわからない。実はすごくセックスがうまそうな男だった。


 何でそんなことわかるのか、って?俺にはすぐわかる。俺、すごい勘がいいから。握手しただけですぐわかるぞ。


 俺があのホテルで、顔まで覚えてるのはそれくらい。あとコンシェルジュ。そいつは車に乗せてやったことがあり、覚えてる。すごくいいやつだったが、難病で筋肉が動かなくなる病気で、歩けないが、勤務していた。普通はあの病気は、あと数年で、全く動けなくなる。この国というのは、そういう難病の人でも、普通の生活がギリギリまでできるような門戸が開かれていた。そいつは明るく、俺は、日本とは全く違う、と、やはりギリギリまで普通の生活ができるくらいな、「楽な人生、楽な無理のない働き方・生き方の提案」というのが日本にも必要だと感じていた。


 俺が日本でなく海外に住もうと思ったのは、「生きていて意味がある」・「楽だ」・「無理がない」・「将来の不安が少ない」というのが理由だった。


 俺は日本にいた時、父さんの生き方を見ていて、俺は日本でこんなふうに生きても意味ない、とずっと思ってた。父さんは一流企業に勤めている会社員だったが、最後、過労死するほど、働いていた。うちの父さんは、ワーカホリックと呼ばれていたが、日本人ならほぼ誰でもそうじゃないか。


 父さんの場合は、土日に自分の実家の会社の社長をした。まあ、それは無理な話だと普通に考えてもわかる。休みがないじゃないか。


 父さんが最後、勤め人を辞め、自分の会社だけで働くようになったのは、本当は家業を継ぐはずだった叔父が亡くなったからだ。その叔父はもう一人の医者の叔父のおかげで命を長えていたが、精神的なものというのは大きいな。外に書くが、人というのは、本当に心の支えが必要な生き物だと思う。祖父の建てた会社は、最盛期には50人くらい雇っていて、そのほとんどが中卒からの職人、祖父が故郷からスカウトしてきた人が多かった。父さんが継いだ時、その職人たちは皆、立派な中堅で、社長がいなくとも、会社をちゃんと運営していた。祖父は「社長などいなくとも、大丈夫な会社」に自分の会社を立派に育て、去っていて、うちの会社は10年くらい社長不在であってもビクともしない会社だったのだ。


 そんな会社があるのか、と思うが、実際にある。システム。で、俺らの代でもうダメなわけだよ。俺も兄貴も、職人をちゃんと育てることができずに失敗した。俺は人事でちゃんといけそうなやつを雇ったつもりが、謀反を起こされた。


 まさか、だったな。兄貴に人望がなかったというには、それは酷な話で、俺でも見抜けないプロ。組織の中で、謀反を起こしそうややつというのは、今なら、俺はチェックする。俺はちょっと甘かったかもしれない。俺がちゃんと最後まで日本に残って、見張るべきだった。俺はそういうのは得意のはずだから。従兄弟の件があり、俺は会社を出て、結局、海外に行った。兄貴が「うちの会社で一人くらい英語が堪能なやつがいてもよかろう。いつか何かの役に立つ」と。


 俺は兄貴に恩があるんだよ。いつか借りを返さねばならない。兄貴がいなかったら、俺は海外に出られなかった。兄貴が日本のことはいい、海外に行け、と言わなかったら、出られない呪縛。俺は本当に感謝していた。なのに俺は、結果を出せなかった。永谷園か何かで、似たような遊学に送り出された男がいたらしいが、ちゃんと結果を出しヒット作を出したのとは別に、俺の場合、手ぶらだ。未だに何もプラスをフィードバックできてない。ちくしょう。


 俺が海外に出て、しばらくして、会社がゴタゴタした。まさかという警察沙汰が何度もあった。それまでも警察沙汰なんて普通にあったんだが、兄貴にとって大ダメージなことがたくさんあり、俺は蚊帳の外で、本当にすまない。兄貴に喋らせれば、信じられない事件がボロボロと出てきて、よく会社をそんなふうにちゃんと回してこれたもんだ。兄貴は理系で、俺とトントンの大学だったんだが、腐っても理系。ほんと俺は家のだ。自覚があるだけに、余計にタチが悪い。


 話を今のホテル生活に戻す。俺だって、ここを叩き出されたら出て行くところない。日本に帰れるほどの体力もない。バスに乗っても酔うくらい。とにかく、俺たちはVIP待遇だったが、それはBがこのホテルのオペレーション・マネジャーに抜擢された就職だったからだ。このホテルのナンバー3がB。


 むしろアメリカンなタイプの仕様のホテルの方が気を遣わないで済む。本当に助かった。小さなホテルだとこんなわけにいかない。ここのホテルは他国にもあるチェーン。大手ではないが、フランチャイズでもない。センスもそこそこ、いい。堂々と会社の寮という感じで住んでるわけだが、もちろん俺は、病人で。風呂も毎日は入れないくらい体力がなく、ここで体力を回復するしかないと、俺は眠りに眠った。ネットからだけ、時々、バイトしたくらいで。


 俺ら、満室の時は、ジュニア・スィートを使わせてもらったりした。元旦やクリスマスも。ホテルのスイートは前にも泊まったことがあるが、会議室くらい広い部屋に俺ら二人。極貧と言いながら、そんなふうにどこかアンバランスな生活するのが、俺らの常だった。不思議な星回り。住むとこない、と困って住むところがそんなに豪華で、俺は、いつも同じような洋服の着回しでいることについて、ちょっとカッコ悪いとは思ったが、それどころじゃなかった。6ヶ月経って、出ていく時に、普通にバーゲンで買ったデザイナーもののコートを着ていたら「見違えて、わからなかった」と、ホテルのイケメン・トップに言われた。


 悪かったね、という気分になったが、だってホテル内だと、コート要らねえ、服要らねえ。会う人はみんな、旅行者でいろんな季節の国から来るし、二度とは合わない人とすれ違うだけ、部屋からあまり出ないで朝ごはんや晩御飯だけにホテルのレストランに行くなら、こんな例えはあんまりだが、老人介護施設にいるのと変わらねー生活してる俺。まあ、見苦しくない程度のカジュアルな服で、なんでもいいわけで。Bは毎日ビシッとスーツだよ、当たり前だけど。よく考えたら俺、Bにくっついてる「意味不明なやつ」だな。今、気づいた。あ、そういう意味か。やっぱりやつは、ちょっと嫌なやつだな。Bより若いのに、Bよりもキレるって普通じゃねえ。俺は頭のいい男、好きなんだが、やつはかっこいいだけで、全く「共感できるところのない」イケメンだった。それは不思議なんだが、理由はわからない。ああ、わかった。ナンバー2、Bを引っ張った同郷のBのボス。


 ナンバー2はちょっと年配なんだが、多分、Bはナンバーワンを脅かす刺客としてナンバー2の引きで入社した。だからだな。いわば俺らは敵同士。この俺らの好待遇は、ナンバー2の力。Bという味方を引き入れることにより、ナンバー2は自分の派閥を強化した形になった。ナンバーワンは当然面白くない。年齢も若い、老練なナンバー2に追い落とされる恐怖で、俺やBは邪魔な存在だ。まあ、俺は関係ないな。Bにくっついてきた荷物だから。俺はそんなこともすっかり忘れるくらいに、まあ、のんびり生活してたってわけだ。俺がナンバーワンとまともに言葉を交わしたのは、その時の一度くらいだからな。あとクリスマスの食事で、メリー・クリスマス!とレストランで食事してた時くらいか。


 さすがにスイートやジュニア・スイートに泊まれるのはテンションは上がるが、長くなってくると、ホテル暮らしも、わけわからなくなってくる。元旦には花火が上がり、真冬の銀世界は、見えるところ全てが真っ白に変わる。


 建物は他に何も見えないから、真っ白なおとぎの世界に住んでる王子様のようだった。湖に氷が張り、俺はBから「お前な、絶対に氷の上を歩くなよ。落ちて死んでも、春までわかんないから」と言われていた。


 B、俺がやりそうなことを先回りで禁止する。鹿が出そうな真っ白な雪景色の広大な庭を散歩していると、俺の生活、本当に能力の低い王子のようだな、と思えておかしかった。自分の持ってる金、稼いでる金と、実際の生活との乖離が激しくなりすぎて、よくわからないことになる。おとぎの国が長すぎると、生きてる実感がなくなるんだよ。まるでフェイク、おとぎ話の主人公みたいだ。俺、これから何して生きていくんでしょう?


 もちろん日本とも連絡がほぼ取れない。兄貴はスカイプを切ってしまった。お前と喋ると、みんな不安になるから、と。こっちの常識は日本で通用しない。日本は当時、世界から孤立していて、情報統制が敷かれていた。そのことは日本にいる人でも、相当に勘のいいタイプの人でないと知らないことなのか。俺は当時、すごい苦悩していたが、実際の自分の生活は、幽閉されている病気の王子様で、世界が全くかけ離れてしまい、ネットだけが頼りだった。


 よく急に一山当てた人なんかが、飛行機を借り切って飛んで、一晩ですごいお金を使った話などをしているが、あんなふうに、本当に意味のないところにお金を突っ込んでしまうような現象が起こってくる。俺はそんな大金は手にしたことはないが、普通の人は俺らのいるこういうホテルに6ヶ月も滞在しない。長くて4日間程度なんだから。俺は別に、何も買い物してないよ。買い物にも出かけられない、ホテルの中にいるだけで何もできないから。今から思えば、稼げずとも、金を使うこともできないから、あの状態は結構悪くなかったのかもな。


 まあでも、俺の知ってるお嬢様も、似たような生活をしていたから、ないわけじゃない。王子様、お姫様のような生活は、確実に感覚がおかしくなり、他の人とは話が全く合わなくなる。ろくに働かず、良いところに住み、レストランじゃ何でも食べ放題。


 豪華な生活も飽きるから、何でもいい、別のものが食いたいとスーパーでニンジンを買ってきて、生のままサラダにするとかして。ああ、キッチンないと無理だ、料理したい、こんな食事じゃ死んでしまう、と。さすがに火気厳禁、部屋には湯沸かしのポットしかない。俺は、いーじゃん、カセットコンロか、電気コンロ使いたい、買おうぜ、と言ったんだが、Bは絶対ダメだ、と。まあ、なんかあったら一巻の終わり、確かにリスクがある。火事起こしたら、叩き出される。というか、そんなものを部屋に置いたのがバレた時点で、俺たちはここを出なきゃいけない羽目になるだろう。だから、俺も諦めた。


 日本と違って、安全なお惣菜のテイクアウトとかはないから、俺、この6ヶ月の食生活で、健康を十分、害した自信あるね。仕方ないから、お菓子ばかり食った。油のウッとくるレストランの料理より、お菓子の方がマシだ、と。近所のレストランも酷かった。茹でただけのパスタに缶詰のトマトソース。俺、絶対に自分で作る方が上手といつも思うのに、缶を温めるだけの食事がレストランで出てくるのもこの国だが、もう一度同じ生活をする自信はない。JさんくらいBが器用なら、外でカセットコンロで俺が料理してもいいんだが、Bにはそんな甲斐性はないし、何より季節は冬だった。


 ジムもプールも使い放題。スパもあるが、さすがにスパのマッサージは金を払わねばならない。俺はジム以外は行かなかった。それどころじゃなく。だって俺、病人だし、絶対に野菜が足りてない肉中心の食事は、Bは平気そうだったが、俺には無理。ジムに行っていたのは、こんな生活していたら、歩くことさえできなくなりそうで怖かったから、リハビリだ。


 ホテルには、アメリカやドバイからたくさん家族連れの観光客が来る。もちろん、そんなに長く滞在する人などいなくて、せいぜい数日間。木曜から金曜にロビーは人でごった返し始める。月曜日にはその混雑が解消する。それでもホテルはいつもフル稼働で、フルであれば、俺ら部屋の移動なんかの可能性も出てきて、ジュニア・スイートに泊まったのはそんな時だ。ごく普通の部屋でなく、もともとデラックスな部屋の方にいたのは、その方がずっと同じ部屋を使えるからなのかもしれない。


 廊下やロビー、レストラン、すれ違う人達はみんなウキウキだ。浮かれた観光地。こういう場所にいると確かに楽しい。ロビーは馬鹿でかく、シャトルバスも乗り放題で、行こうと思えばどこへでも行けるんだが、俺にそんな体力はなかった。


 無料でたくさんあるビリヤード台。俺はビリヤードもできるが、Bができない。Bの場合、キューで玉を突かずに空振り程度ならいいけれど、馬鹿力で台に貼ってあるグリーンの布を剥がしてしまいそうだ。シャレになんねえ。だから、滞在している間、一度か二度しか使わなかった。B、お前、もうちょっとだけ器用なら良かったな。


 ロビーにいる人を見ているだけで、楽しい気分になれる場所だった。Bはある意味、そういう仕事向いてたんだな、と今は思う。Bは、本当に洗練されたスマートの優しい物腰で、今とは別人だ。やはり人間、たとえ「振り」であっても、そういうのが重要だな。転職してしまってから、本当にBのキャラは、俺が思わずため息ついちゃうくらいに変わってしまったから。あの下品な女と付き合ったせいもあるかもしれないが。


 本当に一緒にいる人間というのは重要だ、と俺は思う。


 俺はアテナイを書きはじめ、自分が普段使わないようなガラの悪い言葉に辟易しているが、ゾッとするぐらいその調が板について「服装の乱れは精神の乱れ」というスローガンを思い出す。


 何を言ってると思っていたが、真実だ。ヤクザな格好をすればヤクザになるし、汚い言葉を使えば、心も汚くなる。俺は、文体のチョイスに失敗したかと思ったが、「一分たりともでいたくなかった」。それって不思議なことなんだが、俺、助けに来てくれる人を、全員、噛み付くことで応戦しようとする狂犬みたいな気分なのかもな。


 それくらい追い詰められていて、「一分たりとも、でいられない」。この精神状態、何かに似てると思ったが、日曜にかかってた映画とそっくりだ。「ランボー」。ファーストワンだ。どうもこれはトラウマの一種らしいな。追われて逃げる、襲ってくるやつと闘う、を繰り返すと、こんなふうになるらしい。俺は戦争の記憶をたくさん持ってるから、ある意味、当たり前なのかもしれない。狭いところ、暗いところに閉じ込められる恐怖もあるから、とりあえず近づいて来られたら、殴って逃げるしかない、と、どこか思い込んでいたが。



 ホテルにはもちろんゲーセン・ルームもあるから、俺はなつかしーなという思いで、Bとマシンガンを撃ち、車の運転ゲームをした。



 俺、ゲーセンでよく遊んでたわ。家で遊ぶようなゲームにはあんまり興味なくて、実際のゴーカートとか、ゲーセンとか、そういう方が好きで。俺はクレーンゲームは苦手だった。得意なやつは、家にずらりと戦果を並べてるからな。


 兄貴、結構得意なのか、俺が毎日連れてる@@@@ちゃんは、兄貴の戦果です。


 ゲーセンのぬいぐるみ、かわいいねえ。俺は悟られないようにしているが、Bにだけはバレてしまう。俺が真剣にのこと。


 俺この時期、知り合った人ほとんどない。不毛だね、ホテル生活。みんなウキウキ旅行なのに、俺だけ病人・日常生活。Bは仕事。ぬいぐるみだけが俺の家族か。本当の話だから厳しい。


 真夜中、廊下でネットしてたら、握手してきた人って、泥棒だったしね。


 Bて真っ暗じゃないと寝られないやつだから、俺、別にベッドが狭すぎるわけじゃないが、ベッドをBと交互に使ってるに近い。Bが起きる頃、俺が寝る。それは長年の習慣で、俺、別にソファや自分の部屋で寝てもいいけど、どうせベッド空いてるから、使ってた。俺、野良猫みたいに、自分が一番好きな場所を使うんだよね。人の部屋であっても。Bが、お前「インベーダーだな!!」と怒ったが、俺は常にだから。だから「俺の女運を取るな!!」と兄貴に言われるわけで。俺がいるだけで、俺が自然に、一番良いところを持っていく。


 まあずっとそういう感じで、俺ほんと、夜型。Bはまともな男で。


 まあ、そんなで普段から俺はあまり寝ない。だからホテルで2回も泥棒と会った。俺はすぐピンと来るから、Bに連絡したけど、被害を現行犯逮捕でないと捕まえることはできない。


 なんで俺が泥棒とすぐわかったかって?


 うーん、アテナイで書くと、切らなきゃならないからな。ここは短く書くと決めてるから。話すと長くなりすぎる。またサバイバルな話はどこかで書くよ。質問あったら、聞いて。


 夜中の2時3時、黒づくめの二人組がホテルの全部のドアノブを回して歩いてたら、泥棒だろうよ。足元は走って逃げられるスニーカー。防寒のニットキャップに、このホテルに全くふさわしくない若い男、アラブ系の二人組。この国の泥棒のプロファイル、だいたいみんな似てる。他の場所でも泥棒の顔見て、俺、警察で似顔絵モンタージュじゃないけど、似顔絵、渡したよ。


 お前ら、何しに来てるんだよ、という感じの2人。俺、泥棒に会うのは初めてじゃない。下見でもピンと来るよ。泥棒って入る前に下見するから。その下見中にすれ違っただけでも、俺はピンと来る。昼間の普通の道路でも。日本でもそうだな。


 俺に笑顔で挨拶しておきながら、ふてぶてしい奴ら。館内放送してやろうか。


 俺は暇だったから、ちょっと血がたぎった。おいおい、病人だろう。俺は、自分が舐められてるのか、とちょっとアドレナリンがドク、と出たらしい。真夜中なんだけど。俺がキレやすいのは、祖父の血じゃねえかな。


 やつら、毎週土曜日にやって来るらしい。俺は結局、二度出会った。


 どんな高級ホテルでも、部屋にいる時、いない時、必ず鍵かけろよ。


 俺は翌朝、警察で通訳してやったが、運の悪いことに、日本人の家族連れが被害にあった。いつもの癖で鍵をかけずに寝たらしい。日本の引き戸の古い旅館って、そもそも鍵なんてあるのか?日本から来たなら、仕方ねえな。


 俺は、Bに連絡してから、大捕り物が始まるんじゃないかと期待したが、そんなことはなく、被害が出たら警察に連絡する、というだけの対応にがっかりした。


 確かにやつらがもし、銃で武装してたら、捕まえようとして撃たれたら一巻の終わりだ。


 あれくらいのコソ泥、簡単に捕まえられそうだが、そもそも侵入して盗みを働いた直後の現行犯でないとダメだし、俺もそんな変な親切心起こして死にたくねえ。死にたくねえ、と言いながら、うずうずする俺。Bに止められ、諦めろ、寝ろと言われ。寝れねーだろ。泥棒がうろちょろしても、何もしないのか?


 部屋にいる人に個別に注意喚起できないか?館内放送とか?


Bは、お前はバカか。客にそんなこと知らせたら、不安になるだろよ!


 ああ〜手をこまねいて被害が出るのを見てるだけしかできないのか。


 確かに俺にはよくあることだった。先回りして、こういう時はこうしないと危ないです、と言ってしまい、引かれること。せっかくのウキウキ気分に水を差すようなことを常に言ってしまう俺。そういうので客や商売、逃すのが俺の常だから。馬鹿正直過ぎて、本当のことを言ってしまう。


 空気読めないわけじゃないが、俺以外の人は迂闊すぎる。俺は歩いてても、犯罪に合いそうな人にはちゃんと注意してあげるぞ。


俺はこんなに注意深いのに、地雷ばかり選んで踏むしな。俺は一度だけ鮮やかにスられたことがある。Bのせいだ。Bがなんか知らんが、機嫌悪く、混み合うマーケットで口論になり、その隙にスリにやられた。


 俺としたことが!


 迂闊なことに、田舎だからとタカをくくり、俺はブランド物のサングラスをかけ、財布を背中のディパックに入れてたという失態。まさかこんな田舎でスリにやられると思うものか。後から知ったが、俺は大都会から来たから、田舎だと思ったが、そこはその国一番の大都会だった。


 人生というのは、ほんと読めないものだな。


 



 

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