第116話 B、職ゲット!

 

 結局、俺は、ギリギリまで我慢した。血液検査やエコー、CT、MRIとなると、保険があっても金が光陰矢のごとくみたいに俊足で消費されるのに、保険なしで病院に行けるか!


 今から思えば、手術みたいに、海外旅行保険を使うべきだったのかもしれないが、俺は、目眩がして歩けず、時々倒れながらも、なんとか凌いでいた。


 そこからBは就職活動し、すごく良い巨大な3つ星ホテルに職を得た。ポジション的に上。Bやったな。さすがに田舎の国でキャリアアップ目指しただけのことはある。一介のホテルマンから、段跳びを目指したB。Bはそういう密かな野望の男だから、田舎に都落ちも、計算尽くで、ポストがあってのこと。しかもBの場合は即断だからな。一瞬で決めて。


 

大都市のサロン的生活から、Bが田舎に引っ越すという話が出た時、


 「俺がこれからって時に?お前、それはないよ。俺はここに残るからな」


 そう言いながら、俺はどっちにするか迷った。Bについてくか、ここに残るか。で、結局Bについて田舎に行った。タコ部屋な。(苦笑)



 俺、あの時もすごく迷ったんだよな。残ろうと物件を探したけど、良い条件のものなんてありえない。Bのツテで、あの場所を格安で借りていて、どっちにしても、俺らが出た後は綺麗に改装して、本格的に人に貸すとのことだった。やはり何事も金。世界のパスポートは金なんだよ。ものすごい美女だったなら、「たぶらかす」という手もあるかもしれないが、金持ちはそういうトラップに慣れてる。


 で、俺は、神秘の国の田舎に行ってみたくて、結局、Bについてくことにしたんだ。やっぱ人生は冒険。俺、自分のチャンスを棒に振ってまで、もういいやと冒険の方を選んだ。地味なバイト生活の方を選んだんだ。


 女も綺麗、ビールも美味い、おとぎの国。俺は、自分のこれからっていう将来と、天秤にかけて、結局 Bを取ったんだ。



 Bを取ったのかな。いや、ビールと綺麗な女、未知の冒険。実は俺は、大都市に残ってなんとかチャンスをモノにしたいと思ったが、残ったからといって、成功できるとは限らない。住むところ、言葉さえ怪しい。会社はまだあったが、事実上のペーパーだ。全く稼げてない。俺は、ここから挽回して売れるとは思えず、借金プラス、引越しで多額の金がいるから、雪だるまみたいに、歩いていて何度も転んだ。あの時も、背水の陣だったな。


 俺、疲れ切ってるのか、地面で「後ろ回り受け身」しないといけないようなすごい勢いで転んで、一緒にいた人を驚かせた。


「エッ!ちょっと大丈夫、岬クン……」


 たまたまその時、俺、どうでもいいようなダウンジャケット着てて、全然ダメージなかった。都会のアスファルトの上で、「後ろ回り受け身」するというのは、最初で最後の経験だ。それくらい俺は疲れてた。その時も一緒にいた女の子が「岬クン、医者行こうよ、すっごい顔色悪い……」と手を引いて、連れて行かれた。俺ってよく考えると、ダメ男だな。


 実は片付けが終わってなくて、おとぎの国から引越しの様子をチェックしに来たBと喧嘩になり、「おめえ、全然終わってない、引き渡しどうすんだ」と、もみ合いになり、疲れ切っていた俺は、Bにソファに投げつけられ、首がおかしくなっていた。ソファとはいえ、投げるなよ、B。


 俺はろくに飯も食ってねえ状態、寝てない状態だったから、その時、死んだかな?と思った。首がな。


 そのタイミングで歩いてて、後ろに何もなくコケる俺は、その女の子にしたら、もうだめ、とにかく医者へ、ということで、俺はその子に付き添われて、医者に行った。その時はまだ、ちゃんと保険があった。これからなくなるんだけどな。引っ越すから。ああ、俺、最悪。


 で、その子は何から何まで助けてくれた。スッゲー姉御肌の子で感謝してる。白い丸顔の子で、「しっかりしなさいよ!!」と、俺にハッパをかけてくれた。


 俺、でも悔しかったなあ。これからって時に。Bいないと、書類とか、ややこしい問題が全て自分で解決しなきゃならなくなる。会社もまだあった。無理、俺、稼ぐ目的で起こした会社から何も利益得られないとなると、閉じるしかなくなって。


 会社閉めたの、そこから2年後ぐらいだったな。おとぎの国に住んで、本当に無理、無駄と思ったから、もう閉じた。借金とかないよ。それは救いだね。その引っ越し前後、すごい金に困ってた。


 イベントは成功したんだけど、成功って金で、って意味じゃなかったから。今から思うと、それって成功って呼べないんじゃないか。ただ、誰でも知ってるような有名で大きな大都市の毎年のイベントのコンペに勝って、機会を得られて。知名度も一気に上がったんだけど、俺の知名度あげても仕方ない、と今は思う。見てみろよ、今。俺、不遇のままだからな。そこから「勝ちロード」行かなきゃ意味ないのに、都落ちして、田舎の国だから。


 新天地で一から出直すか、とは思ったけど、俺はわかってた。極貧バイト生活になるな、ということは。すでに、もう首が回らなくなってたからな。仕方ない。


 俺の人生、結構、他力本願な動き。せっかく、地固めしつつあるのを、ほったらかして、やめてしまうとか、俺だってさすがに、もったいないと、ものすごく迷って。でも現実、にっちもさっちもいかない、金もない、住むところもないし。


 B的には、どっちでもいい感じだったと思うが、俺は数ヶ月考えた。引っ越し梱包しながら。俺の荷物は多すぎて、どうすることもできず、全部日本に送った。


 まあそれで、母さんが俺名義で勝手に買ったマンションにぎっしりこっちの家具が入ったわけだけど、俺も馬鹿だね。いいものを見ると買ってしまう。その「いいもの」が金持ちの好きそうな、成金ゴージャスな趣味だったらいいんだけど、俺の場合、違うからな。売るに売れねえ。


 俺、もうちょっと元気と勢いが必要だな。それさえあれば、なんでもできるというのに。


 

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