第72話 金曜、無理して出かける
「なんでこんな早く起こすんだよ!」
「だってお前、いつも起こしてくれ、っていうじゃないか」
Bはそう言ったが、今日は無理。俺は、このままでは死んでしまうと思い、たとえ遅刻してももう少し寝る、と二度寝した。
案の定起きたら、いつも家を出る15分前。電車を一本遅らす。
なんとか出かけることはできそうだ。
俺は、死にそうだ……と思いながら、電車に揺られた。運良く座れた。
ワークスペースには今日は誰もきてなかった。犬に出迎えられる。
大きなくせに子犬のぬいぐるみのようだった犬は、扱いにくかったが、大人になってだいぶん落ち着いた。
いつも必ず俺の足にじゃれついて噛みに来るので、本当に閉口したが、やっとそれが治った。
俺は、これ、と診断書を差し出す。
えーと、どれどれ……
赤い縁のメガネで覗き込み、俺を見る。「あんまり良くないわね」と言われ。
「そうなんです、膵臓に炎症ってなんでしょうかね?」
俺は何度もいろんな人に聞いてみた質問を繰り返した。
検査しないとわからないわね、と言われる。まあそうです、今日の15分の遅刻もそうです、という言外の言い訳。
まあ遅刻というか、来ても来なくても構わないわけだが。
俺は、俺本来の時間が少なすぎることについて、本当はこの状態が正常で、他の全ては正常じゃない、と考えながら過ごす。
日本の友人を思い出す。せっかくうまい具合に、良い職を見つけたのに、やめちゃったな。
俺、日本にいたら、代わりに勤められるんじゃないのか。
日本に帰ったほうがいいかな、と頭をかすめる。何もかも、無理に近くなってきた。良い面を全く享受できない。
俺、こっちの女より、日本人の女の方が好きかもしれない。
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