第2話 転生したらな○○うだった件

 気が付いたら俺は冷たいところにいた。


 霊安室なのかな──でも俺スマホだったんだけど。最近ではスマホが水没したら供養するサービスとかあんのかな。


 意識を取り戻した俺は、じっとひんやりとする暗闇の中で何かが起こるのを待っていた。

 仮に再び元の肉体に戻っていて霊安室に安置されているのであれば、まだ生きてると主張しないとそのまま焼かれてしまうのだ。しかし、身体を動かすことはおろか声を上げることもできないのだ。


 突然、明るくなった。しかし部屋を出るのは俺じゃない。今まで暗かったので判然としなかったが、隣に並んでいるのは巨大な卵や豚の細切れ。


 ここは巨大冷蔵庫なのか──スマホに転生した俺は、動じても仕方がないと悟っていた。今度は何に生まれ変わったのだろうか。悲しくも自分の身体を確認することはできない。うっすらと毛布のようなシートに包まれているのだけはわかった。


 明暗を繰り返す室内。出入りする食材たち。

 俺の出番はいつなんだろうか。むしろ出番がきたら間もなく終了の可能性が高い。なんせ冷蔵庫に入っている食材の何かなのだから。

 もしかしたら調味料で何回か使ってもらえるかもしれないが、仮にバターだったとしたら、小分けで使われるからこそ少しずつ身体を削ぎ落される。想像するだけでも恐ろしい。


 そしてその時は来た。


 俺と一緒に台所に並べられたのは、卵、牛乳、とろけるチーズにケチャップ。塩コショウや油も置かれている。

 オムレツっぽいけれども、だったら俺はなんだろう。


 突然、身体の一部を勢いよく引きちぎられた。そして片面を覆っていたシートが剥がれたと思うと、冷っとした感触。どうやらタレを混入されたようだ。

 ああ……もしかして──と思う間もなく菜箸が俺の身体を捏ね繰り回す。


 納豆だったんだな──


 卵、牛乳、塩コショウで卵液を作り、フライパンに油を敷いてしっかりと温める。熱くなったら一気に卵液を入れ、円を描くようにかき混ぜる。

 半熟になったらネバネバになった俺を中央に添えるように置いた。


 ああ、納豆チャーハンだったんだ。そしてこのまま俺は熱で死ぬか食われて死ぬか──これだけ料理しているんだから可愛い子だったらいいんだけどな。でも最近は料理男子なんて言葉もあるくらいだし、油断できない。もっとも油断だろうがなんだろうが、どうせ死ぬけど。


 どうしてスマホに転生したかもわからなかったし、まさか今度は納豆に転生するとは思わなかった。どっちも短命だし。このまま無に帰することができたらいいんだけど、またとんでもないものに転生しそうだ。しかも短命というオマケつき。


 半熟の卵に包まれながら、俺の意識は薄れていった──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る