第2話
私は後を追って、その部屋に入った。
しかしそこに女はいなかったのだ。
患者が一人、ベッドで寝ているだけだ。
――えっ?
部屋の出入口は一つしかない。
窓も閉まっていた。
それ以前にここは四階だ。
窓から出て行ったとはとても思えない。
それなのに今入ったばかりの女が何処にもいないのだ。
私は考えた。
考えて考えて一つの結論に達した。
多分疲れているのだろうと。
その日の朝、女が入った部屋の患者が死んだ。
もともとけっして死ぬような病気なんかではないうえに、数日後には退院するはずだったのに。
それから三週間ほど経ったある日、私は再びあの女を見た。
いつものように病室に入っていったが、私はもう女の後を追おうとは思わなかった。
そしてその部屋の患者が、数時間後に死んだ。
さすがに気になった私は、先輩看護婦の一人にそれとなく聞いてみたが、彼女は長い黒髪の女について、本当に何も知らないようだった。
それでもあきらめきれずに、何人かの先輩に聞いてみたのだが、みんな同じような反応だった。
そして駄目もとで最古参の看護婦長に聞いてみると、いつも穏やかな彼女がきつい顔と声で言った。
「あなた、そのことはもう誰にも話してはいけません。わかりましたね」
看護婦長は私の肩をぽんと叩くと、その場を去った。
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