第33話 きみの本当のダイヤモンド

 『私も友達と山来てる、あとで峠駐トオチュー?』


 と、遅れて返信。……が、運転中なのか?既読にはならない。それか拗ねたかやな?



 隣のシゲルコは2速でアクセルを思いきり踏み込み一気に登りを駆け上がる。稜線を越え見通しのいい所に差掛かると、視線をちょっとだけ何度か上下させ手慣れた感じでダッシュボードに装着したホルダーにセットしたスマホを指一本でシャッシャッとやる。次の瞬間、ギャ〜ン!と足元のスピーカーから突如ギターの大音響!


「うわっ!?ビックリしたっ!」


「え〜?お山じゃあいつもこれだよぉ」


「……なんか意外、誰?」


「リーガルリリー。この前まで屋根開けて大声で歌ってたんだよ、もやもやなんてもう一遍で吹っ飛ぶんだから…でも対向車来たら超カッコ悪いけどねぇ〜アハハ」


「なんかもっとホンワリしたのとかアイドルとか流行りもん聞くのかな?って」


「うふふ……」


 シゲルコはリーガルリリーに合わせご機嫌にふんふんふ〜ん♪とまだちょっと遠慮があるのか?鼻歌交じりでリズムを取りながら914の小さな…いや、才子のポルシェのVDMが大きいだけなのだが…ステアリングとクラッチ/シフトを器用に操りながら、色着き始めた木々の間を、もう少しだけ季節が遷るときっと紅葉の保護色に紛れそうなオレンジのVW-PORSCHEが、上に下に右に左にまるでコーナーに敷かれた軌道レールの上を往くかの如くしっかりと、しかし軽快に駆け抜けてゆく。


「才ちゃんはぁ、お付き合いしてるしてる人とかいるの?」


「なん?唐突に」


「……好きな人とか?」


「私、中学ん時からテニスばっかやったから……」



「それとこれとはぁ……あんま関係ないよね?」


 ん〜?確かにそうには違いないのだが……実を言えば2度ほど告白されたことはあるにはある。でも意中じゃなかったし別段何とも思わんかったから付き合う事もなかった。いいなって先輩も他のクラスのコも居るにはいたけどカッコいいなぁと遠くから見てただけで恋愛どうのこうのの話ではない。そう考えれば億劫な方なんかな?


 "?それは言い訳、なだけだろう?そのモテモテのクロエ先輩やスエッグ君はどうだったんだ?告白こくる自信なかっただけだろ?"とまたアイツが出てきてズバ!っと抉った。う〜痛いトコを突いてくるな。-この間コンマ何秒、


 相変わらず出だしのギターは煩いがちょっとゆっくりなテンポの曲が始まって、少し盛り上がった最初のトコ。それだけ問いかけて暫し沈黙した才子の続く言葉をシゲルコは待った、でもなかなか出てこないから痺れを切らしたのか?次の歌い出し迄のギターのあいだ今のところのフレーズを復唱する……



 '大好きな君へ想いは溢れ飛んで〜


 ちゃんとこっち見て話してよ


 心をみてもいいかな〜♪'



 って口ずさんだ後、視線を前方へ向けた侭ステアリング握るシゲルコは何か呟いた。と、同時にカーブを曲がり切った立ち上がりアクセル一つ!914はブワゥ!と応えそのか細い言霊をかき消した。


「え?」


 スピーカーからのBGMは既に次のフレーズを歌い出していたが、その一節の歌詞はシゲルコの'前言'を撤回もしくは弁明しようとはせず、その一言はふわり……とそこにとどまって浮かんでいた。と言うか聞こえはしたのだが私は我が耳を疑って、ちょっと冗談めかす様に英語の授業で習った「パードゥン?」って聞き返した。そしてまるでシゲルコの歌ったその前の一節の呪文につられたかの様に思わずドライバーの方に振り向いた。



『ほぉら、こっち向いた。うふふ』


 ……なにか呪文のつづきで心まで覗かれそう。



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