第12話 タルガトップ

「あくまで応急処置じゃから、一度ちゃんと診て貰って整備する所はしてから乗った方がええの……」


 爺ちゃんが整備工場をやってると知ると、住所と連絡先を訊いて携帯に保存した彼は、「本当にありがとうございました! また今度色々教えてください!」と丁寧に謝辞を述べ深々と頭を下げ Beetleはバタバタと独特なエンジン音を響かせて来た道を引き返して行った。


「やれやれ、とんだ一仕事じゃったわい、さて儂らも行くかの?」

 ……と汗を拭った爺ちゃんだったけど、何処か嬉しそう。


 何年かに一回のmodel changeが慣行され 急激にデザイン/性能的旧型感が煽られて消費されてゆく傾向の現代にあって、爺ちゃんの時代から車が大切に乗り継がれている事実。悦びを持って少ないながらも若い世代の理解者に引き継がれていく事が嬉しいのだろうと私もちょびっとだけ……爺ちゃん=老整備士のなん十分の一か、そしてBeetleの彼と同じであろう心持ちを知った。


 Beetleが走り去った方向とは逆の方向へ、ポルシェは似たような音を響かせて再び走り出した。見晴らしのいい山頂からやがて道路上を木々が覆う逆斜面の下りのワインディングに差し掛かると冷んやりとした空気が灼けた車体と同乗者を少しの間だけ冷やす。元テストドライバーは相変わらず見事な軽やかなハンドルさばきで、心なしか?ポルシェも嬉々として応えてる様だ。


 終着の隣県の料金所でチケットを渡すと、係の人は昔ながらの穴あけハサミでポイントにチェックを入れ返してくれる。其処から暫く行った施設で少々の……二人分だけの新鮮な野菜や特産物なんかを買ったり、冷房のよく効いた館内でソフトクリームを頬張ったり足湯に浸かったり。他愛もない時間を過ごした祖父/孫娘が外に出る頃には、まだ暑いとはいえ陽が傾く時間に差し掛かっていた。


 駐車場に停めたポルシェに戻ると野菜と特産品の入ったビニール袋を後席に放り込んでから、おもむろにフロントガラス上部の黒いレバーを二つ捻ってから、一度外に出てフロントボンネットを開けてつっかえ棒の様なもので固定した。


「爺ちゃん一人では重いからの、才子そっち持っとくれ!」


「?」

 両側の窓を頼りない小さなノブの付いたハンドルをくるくる回して開けてから、黒い屋根部分に左右側に分かれて手を掛けた後、爺ちゃんはレバーが左右共にリリースされているのを確認するとよいしょ!っと力を入れてバカッ!と屋根前方部分を持ち上げた。そして続けて少し前方にずらしてやると屋根後方の太い尖った釘の様なものがボディから抜けて不意に抱えた両手に一気に重量がのし掛かった!危うく落としそうになったが何とか支えて其の儘、二人でその外れた黒い屋根部分をよろよろとボンネットのカーペットの上に置いて、収納した。


 なんと!ポルシェは即席(?)のオープンカーになった!


「タルガトップじゃ」


 と爺ちゃんはニヤリと笑った。













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