第68話 最後のジハード(3)〜反撃

 ランボーはガスマスク代わりに使っていたバンダナを頭に巻き直した。


「あれ?お前、最初から、いたか?」


「木村さん、そいつバズーカ撃った奴ですよ」


「マジか。自分で撃って、自爆した奴か」


「そうっすよ。こいつ吐いてた奴ですよ。結局、ありゃなんだったんだ。ナメてんのか、お前ら」


 木村と2人のSPの男は、俺たちを小馬鹿にして、笑っていた。


「どけよ。その姉ちゃんを拷問するって言ってんだ。お前、邪魔だ」


 目眩が治り、俺は膝に力を入れて立ち上がって、木刀を構えた。楓に指一本触れさせない。


「妻には手を出すな!」


「妻?聞いたか?こいつら、夫婦でカチコミ来てんのか。頭おかしいんじゃねえか」


 部下の2人が、道場に置いてあった日本刀を持ち出した。2人は日本刀を構えた。


「やっちゃえ。俺らは正当防衛だからな。だけど、この旦那の方は殺すな。旦那の前で姉ちゃん、いたぶってやるからよ」


 ロイホも木刀を構えている。でも木刀と日本刀じゃあ分が悪過ぎる。木刀を握るロイホの手が震えていた。彼は俺と目が合うと頷いた。


「きえあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ロイホの奇声を合図に、俺とロイホは頭上に木刀を構え、日本刀の2人に突撃した。2人の男も日本刀を中段に構え、走り出す。

 そこへ、シュワちゃんがスライディングタックルを決め、日本刀の男たちはバランスを崩し、日本刀を落としたところ、シュワちゃんが両手で拾った。シュワちゃんはその日本刀の刃を靴で踏み、両腕に力を入れて2本とも折った。

 バランスを崩している男の頭に、俺は木刀を振り下ろした。

 男は俊敏に避けて、床で体を反転させると、俺の手首を蹴って、木刀を落としてしまった。木刀は一瞬で奪われ、呆気にとられていると、次の瞬間俺の左脇腹に激痛が走った。左脇腹を抑えていると、次には右脇腹、続いて左肩、右側頭部と、連打してくる。男の無駄のない動きに、防御する術がない。身体中叩かれ、どこが痛いのか見当がつかない。


 ロイホは、剣道の経験者だけあって木刀を落とすことはなかったが、木刀を持っているのにも関わらず、もう1人の素手のSPに、押され気味だった。シュワちゃんが体当たりして助けるが、素手のSPの蹴りを喰らい、蹲っていた。


「お前ら、素人だな」


 木村の声がし、振り向くと、ランボーは額から血を流し倒れていた。


「お前ら、もしかして、あの澤村だかって探偵事務所の殺し屋さんか?」


 俺たちが黙っていると、木村はそれを肯定と受け取り、話し続けた。


「じゃあ、この姉ちゃんの怪我、あのトラックで突っ込ませた時、喫茶店にいた姉ちゃんか?生きてたのか?」


 木村は、ジリジリと楓に近寄っていく。楓は床にへたり込んだままの姿勢で、足を動かして後退りするが、まだ完治していない太腿に響くようで、うまく後ろに下がることができない。

 ランボーがフラフラと立ち上がった。俺は身体中が痛くて、ヘタクソな匍匐前進ほふくぜんしんで楓の方に向かった。

 ランボーがサバイバルナイフを抜くその直前に、木村はでかい掌でランボー首根っこを掴み、顔面を壁に叩きつけた。ランボーはボロ雑巾のように倒れ、顔面を擦った壁には血の跡が付いていた。


 やっとのことで楓の元まで辿り着いた俺は、楓の体に覆いかぶさった。もういいよ、アタシは大丈夫だから、楓は言うが、そこで引き下がるつもりはない。


「あれだろ、香川さんのお孫さんの泰司くんの事件だろ。泰司くんの同級生が死んだ事故で、その親から復讐を頼まれたんだってな。でも、あれは自殺したってことになってんだろ。でも本当は泰司くんが突き飛ばして殺したって、お前らは思ってんだよな」


 木村は締まりのない顔で、妙に引っかかる言い方をした。

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