水音

水音を聞くと思い出す

君を沈めたあの湖

冷たい水の感触

君が僕の腕を握りしめる痛み


暴れる君の力が抜けて

君の命を感じなくなり

僕は君から手を離した


人形のようになった君に

用意していた重りをつけて

湖の底に沈めた


沈んでいく君は人魚のようで

とても美しかったよ


そう

今も

水音を鳴らして

後ろに立つ君の気配は

前と変わらずに美しいよ


僕は君をきれいなまま

僕の想い出の中に

閉じ込めたかっただけなのに

君は僕を許してはくれないんだね


ここは君の眠る湖

僕の腕を

あの時みたいに握りしめて

僕を導くんだね


逃れられない気はしていた

いつも

いつも響く水音


いつ僕を連れていくんだい?


うつむいたままの君は

美しい顔を

もう見せてはくれない


想い出のままにしておきたいのに

残念だ


水音が響く

耳の中だけに響く


僕の足は

僕の意思とは関係なく

湖の底に向かって歩き出す


もう何も見えない

何も感じない

ただ水音だけが

僕の耳に響いている


こんな水の底でさえ

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