まねかれざるきゃく
私はかつて、あの人にフラれた。
一生の愛を、捧げるはずだったのに。
異世界からの存在で、それを踏み躙られた。
その後ろ髪を引かれる思いは、今でも忘却することは無かった。
噂によると、彼の彼女は双子を産み
幸せに暮らしているという。
アイツらだけ何でそんな幸せな思いをするのか。
私は、何も得られない。
壊された。
あの二人に。
憎い憎い憎い憎い。
私はシナリオを組み立て、遂行した。
休日の22時半頃。
インターホンを慎重に押した。
「はい、どちら様ですか?」
これは、クソ鳥の声だ。
真っ先に獲物が掛かってくるとは、
私はラッキーだ。
「木葉ちゃん...?久しぶり
私よ。京ヶ瀬真希」
返事が無かった。警戒されてるのだろうか。私は緊張した。
「こんな夜中になんの用事ですか?」
久しぶりに見る彼女の姿は以前と変わらない。
「ちょっと、結人に用事があって」
「ユイトならまだ帰ってきてませんよ」
そこで考えた。
「じゃあ、ここで待たせてくれない?」
「...ここで?」
うんと、頷く。
「...まあ、静かにしてるならいいですけど...」
上がらせてもらえた。
「ごめんね。明日の朝海外に行くから」
「海外?」
「アメリカに移住するの」
「そうなんですか...」
バカ。そんな嘘に引っかかる。
無垢に受け入れる。なんてバカなんだろう。私は笑いたい気持ちを必死に抑えた。
「多分、11時位には」
時計は22:41
後、20分程度ある。
「木葉ちゃん、子供産んだんでしょ?
おめでとう」
「ああ...、1年前ですけど...」
恐縮したような様子だった。
「大変じゃない?何かと」
「そりゃあ...まあ...」
微妙な反応だ。
そのせいか、無音に等しい時計の秒針の音がカチカチと鮮明に聴こえる。
「...ユイトは今何してるの?」
「広告の会社で働いてます...
お父さんから、議員にならないかって
誘われたみたいですけど、色々忙しいって」
「...ああ、そういえば結人のお父さん、市長になれたんだよね」
「はい...」
話を聞く度に思う。
どうして彼女達はこんなにも恵まれているのだろう。
私は、一生独り身かもしれない。
その裏では、双子を授かり、親が市長になり、死後には莫大な遺産が手に入る事だろう。
羨ましい。
絵に書いたような理想の家族。
どうして私は。
テーブルの下では握り拳をプルプルと震わせていた。
彼女の顔を見るのが辛い。
いや。憎い。
グチャグチャにしてやりたい。
「ちょっと、お水貰っていい?」
「は、はあ...」
キッチンに足を踏み入れる。
流しの開き戸を開ける。
扉の内側に無防備に置いてあるのは
包丁。
私の手が伸びかかっていた時だった。
「うぇぇぇぇぇえん...」
泣き声だ。
「あ...、ごめんなさい」
彼女は席を立った。
そうだ。子供は夜泣きするんだ。
私は笑いたかった。
けど、堪えた。
そして、包丁を手に取った。
「うぇぇぇぇぇえん...」
「どうしたのですか...。有咲...」
これで私の復讐は。
思いは...。
「あっ...」
彼女の背中に、包丁を深く刺した。
泣いている子供を抱きかかえたままだ。
「マ...キ...」
私の名前を呼ぶんじゃない。
クソ鳥が。
再び、背中に突き刺した。
子供に罪は無いが、泣き続けられたら困る。
私はあやすように言った。
「お母さんと一緒の所に連れて行ってあげるね...」
「ただいまー...、遅くなってごめん。
って何で鍵空いてんだよ。
不用心だな...」
結人は直ぐにその違和感に気付いた。
「...誰の靴だ?」
「おかえりなさい!」
私の夢が叶った瞬間だった。
「...真希か?」
「驚いたでしょ?」
彼はキョトンとしていた。
「何で家にいるんだよ」
「別れの挨拶がしたくて...
木葉ちゃんに入れてもらったの」
「あいつは今何してんだ?」
「子供が泣き出しちゃって...
一緒に寝ちゃったんだ」
嘘はついていない。
彼女は子供と一緒に眠ってしまった。
「ねえ、こっち来てよ」
今度は私が彼を愛する番だ。
「一体、何の真似だ?」
結人もクソ鳥も、警戒心が強い。
ムカつく。
私は結人の手を取った。
「チューしよ」
「は?」
「ねえ、ねえってば...」
「お前...、頭大丈夫か?」
「お料理作る...?
一緒にお風呂入る...?
やらしいことでもやっちゃう...?」
「何なんだよさっきから...
警察に通報するぞ」
「冗談だよ...、変なこと言わないで?」
「それはこっちのセリフだよ。
で、別れの挨拶ってなんだ?」
私はこの時、彼も変わってしまったことを実感した。
クソ鳥の存在が、彼をここまで変えてしまうとは。
過去の結人。私が憧れていた結人の姿はもうそこには無い。
過去には、戻れない。
その先にある未来。
見れるのは一つだけだ。
現実は残酷だ。
「ねえ、結人君。私あなたの事が...」
とっても大好き。
隠し持っていた包丁を彼の懐に刺した。
純白なシャツは、徐々に紅に染まった。
「なんで...、お前...」
あの世で夫婦生活楽しんでね。
力の抜けた結人の身体は重かった。
布団の上に一家四人、一緒。
結人はクソ鳥を抱き、
クソ鳥は子供を抱く。
人形遊び同然だ。
こんな事をすれば、私が捕まることは
必然である。
時計を確認した。午前0:19。
部屋を指紋を拭き取り、部屋を出る。
少し離れた所でタクシーを拾った。
年老いたドライバーに、
“空港まで”
と伝えた。
私は、海外へ行く。朝一番の飛行機で。
アメリカへ。
今後どうなるかわからないけど。
どうでもいい。
私の人生は既に滅茶苦茶だから。
これ以上壊れても構わない。
そのあと、あの一家がどうなったのか。
私は、知らない。
[BAD END:招かれざる客]
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