第20話 ちがうみち
「結人!帰ろっ」
にこやかな笑顔を浮かべてグイグイと腕を絡ませた。
「ああ、うん...」
俺は色々あって京ヶ瀬と付き合う事になった。
俺も彼女を不快にさせないように、
振舞ってはいるが...
気になるのは博士の方だ。
いくら家が一緒だからって、二股紛いの
事は出来ないと、博士の方から言われた。
博士の本心はわかっている。本当は以前の様にしたいはずだ。島では威張って賢さアピールしてるけど、それは建前で、
本当は甘えん坊なんだ。
それなのに、彼女は自ら...
「あっ、先帰るね…」
「はい」
博士に一声かけて帰るがその声は小さかった。
俺と博士の関係は真希も事情が事情なので、俺が説明して認めて貰ってるけど、なにか大きな蟠りが心の中にあった。
結人と一緒に帰っていた時期が懐かしい。
また、今日も1人だ。
「ハァ...」
ああ言ったのは自分じゃないか。
なんでこんなにもこれで良かったのかと
疑問に思うのだろう。
廊下に出るとあの人とばったり会った。
「あっ、きょうじゅ」
「ん?」
誰かに愚痴を聞いて欲しかったのだろう。
本能的に、
「あの、良ければ一緒に帰りませんか?」
驚くかなと思いきや、
「あっ、いいっすよ」
快諾だった。
正直、気賀に結人との事を話すべきかどうか迷う所があった。
どのタイミングで言おうか、校門を抜けるまで考えていようとしたら、先に彼の方から尋ねられた。
「ところで、結人とはどうなの?」
「気まずいのです...」
「あっ、ふーん...」
何か察したような返答をした。
「まともにアドバイス出来るかどうかわかんないけど...、良ければ何があったか話してよ」
溜まっていたものを吐き出したい気分になった。
「...本当はユイトと付き合いたいのですよぉ...」
「おいおい...」
急に声色を変えた博士に困惑した。
(こりゃ重症だな...。
ハッキリわかんだね。
友達を助けよ!俺って人間の鑑だね!)
「ゆっくり話す必要があるから、俺ん家行くぞ!緊急事態だ」
「...え?なんで行く必要が...」
「いいだろ別に、成人の日だぞ」
「...はぁ?」
半ば強引に家へ案内した。
数十分で彼の家に着いた。
「い、いいんですか?」
「うちじゃ客人なんていいよ来いよって感じだからね。全然問題ないよ」
部屋に通される。
独特な部屋だ。ちょっと待っててと言われたので、待つ。見渡すとなんだこれと思うものがちらほら。
「お待たせー」
オレンジジュースと菓子の入った器を
置いた。
「さて...、落ち着いて話そうか。
まずは何があった?」
「...同じクラスの京ヶ瀬真希が
ユイトの事が好きで、私はユイトにマキと付き合う様に言いました。
そしたら、なんか...」
「あの、なんで付き合うように言った理由は?」
神妙な面持ちで答えた。
「夢で私が...、マキを殺してしまって...、嫌な予感がして...」
(なるほどね...。わかんねぇなぁ...)
「博士」
「はい...」
気賀は立ち上がった。
「君は要するに...
結人をライバルの手に渡したんだ。
そして今抱いている感情は、嫉妬心だ。じゃあどうすればいいか...」
私に指を差し言い放った。
「君はどうしたい?」
「どうしたい...って...」
「本心を聞いてるんだ」
本心はもう決まっている。
「ユイトと2人がよいのです」
「...やるべき事は一つだ。
結人を嫌いにさせればいいんだ」
「嫌いにさせる...?」
彼は腕を組んで頷いた。
「ああ。彼女の方から嫌いになれば、
博士に被害が被ることは無いだろ」
「...確かにそうですね!
さすがきょーじゅ!頭がいいのです!」
「ただ、どうやって嫌いにさせるかだ」
「マキが嫌いなことをユイトにさせればいいのです。きょーじゅは写真部でしたね。ヤツの秘密を探って、こっちから仕掛けるのです!」
「やりますねぇ!」
気賀と協力して、
“結人を真希に嫌われさせよう作戦”
を開始させる事になった。
1週間後、写真部部室
気賀に呼び出された。
「教授、どうでしたか?」
「ああ...。これを見てくれ...」
封筒を手渡す。
中には写真が入っていた。
「この一週間二人の行動を注視していた。真希の弱点が無いか探ってたんだが...」
「は、はい...」
「アイツ嫌いなものが一切ないっ!」
バンッと両手で机を叩いた。
「アイツ結人がすることなら何でも許してる!結人がパイを顔面にぶつけようが石を当てようが、ナイフで滅多刺しにしようが嫌うどころか怒る様子もない!」
写真にはその時の様子も写っていた。
気賀の言った状況は無いが、
結人のアイスクリームが彼女の服に付いた時、彼女の顔は笑っていた。
「セルリアンより恐ろしい奴ですね...どうするのですか?」
「ターゲットを結人に変えよう。
奴の心を動かすんだ。100パーセント成功するかわからないが...。無駄ではないはずだ」
「で、その作戦とは...?」
気賀は息を吐き、そして言った。
「俺と博士が付き合ってる様に見せかけて結人を嫉妬させる、逆嫉妬作戦
結人が博士を好きだったら、絶対に取り戻しに来るはずだ。古典的だが、やるだけの価値はある」
「...わかりました。相手は強敵です。
その作戦を実行しましょう...!」
「ああ!俺らの結人を取り戻すんだ!」
(博士...、やっぱ大丈夫かな。家でも口数少ないし...。今日は真希に言って博士と一緒に帰らせてもらおうかな...)
そう思った俺は博士に声を掛けようとした。
「あの、はか...」
「ユイト、今日もマキと帰るのですね」
「えっ...、えっと...」
「私はきょーじゅと帰ります」
「えっ...?えっ?」
教室に気賀が入ってきた。
「お邪魔しまーす」
「き、気賀...」
「久しぶり結人」
右手を上げ挨拶した。
俺は唖然として二人を見た。
「じゃ、博士と一緒に帰るからな」
「ええ、行きましょ、教授」
「ほんじゃ、またのぉ~!」
「家で会いましょう」
なんと2人は驚くべき事に手を繋いで俺の前を去っていったのだ。
「えっ...、アレは...」
俺は状況が理解出来なかった。
ちょうど入れ違いに真希が戻ってきた。
「ねえ、何なのあれ。木葉だよね。
手繋いで...。
恋人でもできたのかな?」
「ええっ?まさか...」
(そんなまさか...、
いや、そのまさか?アイツと気賀が?)
一つ下の階に降りると...
「アッハハハハッ!!見たかあの顔!」
気賀は笑いが堪えきれず大爆笑した。
「あの間抜け面は初めて見たのですっ、ははは!」
「アレがドッキリだと知ったら、アハハハハッ!!やべぇ腹痛え大草原不可避だわ!」
「ユイトがどう出るのかたのしみなのですっ、ふははは!」
二人は爆笑が収まらなかった。
一方で...
(本当に博士は...?でも、本人は楽しそうだったし…、吹っ切れたのかな…
いや、でも...)
結人の中では腑に落ちない行動であった。
「何悩んだ顔してんの。いいでしょ?
あの子が男を作ったって事は結人にもう興味はないのよ。だー、かー、ら、
結人には私がいるじゃない!他人の事は忘れなさいよ!」
「うん」
適当に相槌を返す。
(やっぱり、
俺に興味無くしたのかなぁ...。
本人には直接聞にくいし、そっと見守るべきなのかなぁ...。
どうすりゃいいんだよ...、俺は...)
一連の出来事は、
余計に結人を思い悩ませ、混乱させるのだった。
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