第6.5話 かばんちゃんのお財布事情

現実世界の博士を探す為、同じく現実世界に来たかばんとサーバル。

しかし、パークの暮らしとは裏腹に現実の世界は厳しかった。


ここに来て数週間目。


「お久しぶり。様子見に来たよ。調子どう?」


この訛った口調は...


「あっ...、オイナリサマ...」


「かばんはん、元気にしとる?」


「まあ、一応...

サーバルちゃんは熟睡してます」


夜の22時、人間化したサーバルは早寝だ。


「あの、一つ困ったことがあって...

お金がないんです」


「お金がないん?なんで」


「サーバルちゃんがあれこれ欲しいって言って...、買ってあげてたら殆どなくなってしまって...。出してもらえませんか?」


オイナリサマは難しい顔を見せる。


「そう言われてもなあ。あんた達をここに飛ばすのに魔力を使いすぎたから、あと200年くらい眠らなきゃ、使えへんんや。お金を出せって言われても出来ないんどすよ」


「じゃ、じゃあどうすれば...」



「あんた達に借金を背負わせるのは流石に可愛そうやし、バイトとかしてみたらどう?」


「バ、バイト...?」


かばんは首を傾げた。


「そうや。労働と引き換えに賃金を得る

ヒトはそうやってお金を稼ぐ」


思い悩んだ顔をする。

お金が手に入るのなら、した方がいい


「バイトするんやったら、ちびっと手助けをしよう」


「ちょっと、サーバルちゃんと相談してみます…」






そして、1週間後...






「いらっしゃいませ...」


(なんで僕...、博士さん探しに来たのに

コンビニでバイトなんてやってんだろう...)


加阪かばんさん、そこ掃除し終わったら、

棚出しお願いね」


店長に肩を叩かれながら言われた。



「は、はい」


「真面目で助かるわ」


「あっ、どうも...」


店長が去るのを確認し、重いため息を吐いた。


(朝の7時から17時までって、結構長いなぁ...。今日は日曜でお客さんも多いし...)



店内にあるイートインスペース。

ここではある人物が話をしていた。


「...可能性があるとしたら、11月か12月だね。天体予測としては」


「でも、100パーセントじゃないんだろ?」


「もちろんだよ。素人が頑張って考えた結果がこれなんだよ。もちろん、鵜呑みにしないようにね?」


「わかってるって、スバル!

俺はそんなすぐ情報を確かめないで鵜呑みにする様な奴じゃないから」



かばんがその会話に気付くことはない。

モップを持ち、倉庫へと戻った。



「おっ、お疲れアヤちゃん」


「お、お疲れ様です...」


声を掛けたのは川角かわかど先輩、体育会系の体型をしている。顔は俗に言うイケメンらしいけど、基準がわからない。


因みに僕は加阪アヤっていう人間の名前

下の名前はオイナリサマが適当に名付けた。


「アヤちゃんって大変だよね

俺が養いたいぐらいだよ」


「あはは...」


即席の笑いを出す。

この人の言動は時に変だ。


「ああ、棚出しは俺がやるよ」


「えっ、でも...」


「遠慮すんなって。こんなクソバイト辞めちまえよ。その日にお金が貰えて、

高収入のバイトあるんだぜ?後で教えてやるよ」


「あっ、ああ...」


そんなセリフを残して、カゴを持って行ってしまった。


(余計なお世話なんだけどな...)




長いバイト時間が終わった。

帰ろうとすると、川角先輩に呼び止められた。


「おい、一緒に飯食いに行かね?」


「お、お気持ちはありがたいですけど...、家に帰らないと...」


すると、少し不服そうな表情を見せた。


「可哀想だなぁ...。

こんなスタイルいいのにさ...」


「...」


「アヤちゃんならこのバイト1発で受かるよ」


「えっ?」


紙を渡された。ピンク色の派手派手しい紙だ。即日払い、日給5万円以上と書いてある。


「僕はいいですよ...、こんなの」


「そう言うなって。俺はアヤちゃんを助けるつもりで紹介してるんだぞ?」


大柄な体を近付ける。

巨大な壁が迫り来るようで、怖い。


「いいですから...、本当にっ」


僕はそう言い捨てて逃げるようにその場から立ち去った。




「ただいま」


「おかえり!」


サーバルが嬉しそうに出迎えてくれる。

今までの辛いことが一気に消え去った。




人間の世界で働くってことは大変だ。


明日もあの先輩に会うことを考えると実際は嫌で嫌で堪らないが、そんなのけものにする様なこと、口には出せない。


「ハァー...」


手掛かりすら、見つからないなんて

ふと、ポケットに手を入れると、

紙が入っていた。


あの押し付けられた紙だ。


(大金が手に入ればラクになるのかな...)


気持ちが揺らいだ。


「かばんちゃん...」


サーバルが心配そうな目でこっちを見た。


「私...、迷惑かけてばっかでごめんね...」


「サーバルちゃんは迷惑なんかじゃないよ。サーバルちゃんが居てくれなかったら、僕はやってけないよ」


「...」


「どんなときも、僕を支えてくれて、ありがとう、サーバルちゃん」


「私も、かばんちゃんに、出来ることをするからね!」


サーバルは猫のように僕の方へ抱き着いた。


時給930円だけど...、凄く大変だけど...、

もう少し...、頑張ってみよう。





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