星降る夜の、空の下
高嶺 蒼
第1話 同窓会に現れた美女
昔々、今から十年ほど昔。
彼は平凡で面白みのない高校生だった。
友達もそこそこ居て、成績もそこそこ、容姿もそこそこで、そこそこ真面目で。
ここまでくれば、女の子にもそこそこモテたと言いたいところだが、残念な事に女の子には見向きもされない、そんなパッとしない男子、それが佐伯涼介という男だった。
そんな平凡な男子高生は、十年かけて成長し、これまた絵に描いたような平凡な大人へと成長した。
さて、平凡高校生から平凡サラリーマンへ微妙なレベルアップをした涼介は、本日、久しぶりに開催された高校の同窓会に参加していた。
卒業から十年目ということで、中々盛大に開催された集まりの、ちょっとおしゃれな会場の片隅で、涼介はビュッフェ形式の料理を片手に周囲を見回す。
(……さすがに十年たつと、誰が誰なのか、微妙にわからないもんだなぁ)
そんなことを思いつつ、それなりに高価な料理を食べないのはもったいないとばかりにモグモグと口を動かしながら、人間観察を続ける。
男子はそれでも、なんとなく分かる奴もちらほらいたが、女子は正直お手上げだ。
当時、それほど親しく付き合っていなかったという事もあるし、おしゃれな洋服と気合の入ったメイクの向こうの素顔を想像するのは、今も昔と変わらず女慣れしていない涼介には難易度が高すぎた。
そんなわけで。
涼介は食事をメインに楽しみつつ、時折話しかけてくれた元同級生達と当たり障りのない会話をし、同窓会という催し物を彼なりに楽しんでいる。
同窓会なんて、来るもんじゃないって思ってたけど、来てみればそれなりに楽しめるもんだなぁ、などと思いながら。
そして、食べ終わった皿を見下ろして、さて次は何の料理を持ってこよう、と真剣に考えていたら、不意に会場内がざわざわと騒がしくなった。
何だろう、と顔を上げれば、会場の入り口の方から歩いて来る、背の高いほっそりとしたシルエットが目に飛び込んできた。
最近度が合わなくて、そろそろ作り変えなきゃなぁと思っている近視用の眼鏡をずりあげて、まだ遠くにいるその人物に目を凝らす。
その人はどうやら女性のようだ。
髪が長いし、スカートをはいている。
彼女は真っ直ぐにビュッフェの料理が置いてあるテーブルの方へ……つまり、次は何を食べようかと思い悩む涼介の方へ向かって一直線に歩いて来る。
近付くにつれ、彼女がとてつもない美人であるということがど近眼の涼介にも分かってきた。
服装も甘すぎず、かといって堅すぎるわけでもない、絶妙な感じ。その服に包まれたスタイルもいい。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいて。
通り道の男連中はみんな鼻を伸ばして彼女を見つめていた。
逆に、女連中は突然現れた美しい異分子に、いくぶん鼻白んだ顔をしていたが。
刻一刻と近付いて来る彼女の整った顔を、こっそりと見つめながら、涼介は不思議そうな顔で首を傾げる。
(……俺達の学年に、あんな綺麗な女の子、いたっけなぁ?)
と、心に浮かんだ疑問、そのままに。
といってもそれは、涼介の学年に美少女がいなかったという意味ではなく。
当時、もちろん、涼介のクラスにも他のクラスにも、一人や二人、可愛いと騒がれる女子はいた。
いたのだけれど、それは今こっちに向かって歩いて来る美人さんのような綺麗系の美人ではなくて、どちらかと言うと可愛い系の美少女ばかりだったのだ。
その誰かが、綺麗系の美女に華麗に転身していたとしても、別におかしいことではないのかもしれないけれど。
(なんかしっくりこないんだよなぁ)
そんなことを思いつつ、いよいよ近付いてきた美女から目をそらして、再びどの料理を食べようかと黙考し始めた。
料理の事を考えながら、その片隅で思う。
(それに、俺。なんか、あの顔、見たことある気がするんだよなぁ?)
と。
でも、昔の記憶は霞がかったようにおぼろげで。
昔確かに見たはずの彼女の当時の姿を、その脳裏に描くことは中々出来ないのだった。
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