Harmony②

〈System:information/2048年6月13日/PM3:32〉


〈System:information/2048年6月13日/PM3:33〉


〈Error/Error/Error/Error:危険の伴うプログラムがインストールされæ–‡åEzⅵ©❀@・・-- ・-・・・ ・・-・・ --・-- ・- --・-・ ・-・-- -・--・ 〉


何の前触れもなく途切れた音を放って機能を停止したAdministrator Chip。通称ASCだけでなく、あらゆるテクノロジーによって囲まれた日本は、ビルの中の明かりから信号機、街灯や非常灯までもが消えていった。

街灯や信号機なら小規模な停電かと疑うに留まるが、今や人間の体の一部となったASCが機能を停止する事は、今の人類にとっては突如目が見えなくなったも同然で、人々の頭を不安で支配するには十分過ぎた。


2023年にウラノスと言う化学者がASCを創造してから25年間。長年何の問題も起こさなかった生命線が視界から消えたのが相当に堪えたのか、膝を折って崩れ落ちる人や、不安で泣き叫んで錯乱さくらんする人。中には発狂はっきょうしてどこかに走り去ってしまう人など、まるで映画でよく見る終わりの世界を見せられているようだ。

目を背けたくなる様な景色が広がる中、虚空で手を何度も動かし、何とかASCを再起動させようとする人々は全ての通信手段を失い、全てにおいて全くの無力になってしまう。


自動運転のみとなった車はブレーキも掛けずに大規模な玉突き事故を引き起こす。また各所で火災が発生しても、機能を停止した消火栓の起動すらままならないまま、消防隊はただ炎が燃え広がるのを見ているしかない。

ASCの創造主であるウラノスは数年前に謎の死を遂げ、発案者であった聖冬は行方不明。姿を消してから数十年経った今尚いまなお、消息不明となった聖冬の捜索が続けられている。


対処できる人間は沢山居るが、確実にその2人以上に問題収束が行える訳も無く、システムの核に至る部分についてはほんのひと握りしか知る事が無い。

だが、そんな絶望だけが満ち溢れる世界にも、たったひとつの希望は、世界の人々の絶望との辻褄を合わせるように投げ入れられる。


何かが破裂したように世界が崩れ始めても、ウラノスが予測していた最悪の事態は、結局彼にとっては容易たやすく予想出来る事だった。

だが、平和ボケし切ったこの世界にのうのうと生きていた俺は、頭上から落ちてきた瓦礫に押し潰され、まるで墓場に連れて行かれたような気がして、赤く染まった手首を前にして必死に叫ぶ。


「こふっ……こんな終わりは、嫌だ!」


──Sy te rep ir──impossible〉


〈UranosCode/Spectrum:In the LIVE〉


「Are you Ready study?」


隣を横切った尾鰭おびれのようにひらひらした服が、目の前でくるりと反転してなびき、「C'mon sing a song」と手を伸ばす。


「たっ……助け……痛い、足が……」


「なら歌おう、終わらない歌を」


「嘘だ、なんで……死ぬ前みたいだな、って死ぬのか」


「あれ、誰か居るの? ASCが平常運転じゃないと慣れなくて、ごめんね目が見えなくて」


薄れていく意識の中で、1年中音楽ヒットチャートを独占するトップアーティストである全世界の憧れに手を取られ、ゆっくりと瞼が落ちる。


「おい、勝手な行動をするな。ASCがハッキングされたのは分かってるだろ、目が見えないのにふらふらして迷子になるのは何度目だ?」


「それよりそっちの子はまだ息があるんじゃないですか、ここを墓場にしてしまうのはあまりにも……」

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