第94話 採掘
「では、行こうか。西門から出て少しいくと小さな岩丘がある。そこなら何かあるかも知れないよ」
「はい、わかりました。それでは道案内をお願いします」
今日もダンディなウイコウさんに道案内をお願いすると、先頭を歩くウイコウさんの後ろをルイちゃんと並んで歩く。
幸い今日も天気は晴天。森が深くて空が見えにくく爽快感はあまりないが、木漏れ日がところどころから差し込んでいるためそんなに暗くはないし、見様によっては幻想的で綺麗にも感じられる。
だけど、道が作られている訳ではないため、足元に草が生えていたり根っこがそこかしこから飛び出ていたりで歩きにくくてピクニック気分にはなれないのが残念だ。
「ルイちゃん、疲れたらすぐに教えてくださいね。すぐに休憩を取りますから。もし、嫌じゃなければおんぶという手もありますけど」
「うん、ありがとうお兄ちゃん。ちゃんと疲れたら言うね。でも、そこはおんぶじゃなくてお姫様抱っこって言って欲しかったな」
「え? あ、はは……う、えっと……いたっ!」
『もう! なに八つの子供にからかわれているのよ!』
八歳の少女の思いがけない大人な言葉に狼狽える私に呆れたクロが、爪を肩に食い込ませつつ思念を飛ばしてくる。だから、HPが減るからやめてってば。
「くくくっ、すまなかったね。私たちの弟子はそっち方面に疎くてね。それなりにうちの女性陣に揉まれているはずなんだが、それでも女心についてはまだまだのようだ。勘弁してやってくれないかい」
「ちょ、ウイコウさん! なに言ってるんですか」
慌てる私を見てウイコウさんはくっくと肩を震わせている。このオジサマはイケメンナイスミドルのくせに、こんなユーモアまで持ち合わせているから性質が悪い。まだ積極的にリイドから出て活動していないからいいけど、本格的に外で活動するようになったら世の女性達がきゃあきゃあ言いまくるんじゃないだろうか。すでにチヅルさんあたりは半墜ちしているっぽいし。
「大丈夫だよお兄ちゃん。少しくらいならルイは気にしないから、ちょっとずつお勉強してね」
「ははは……ありがとうございます」
あれ、ルイちゃんてこんなにあか抜けた子だったっけ……あぁ、そうか。お母さんと無事に再会できたから、本来の明るさを取り戻しつつあるのかも。うん、それなら私たちがやっていることは目立たなくて地味だけど絶対に無駄じゃない。
「ほら、コチくん。着いたよ」
「あ、はい」
そんなこんなで魔物にも会わず順調に進めた私たちは無事に目的地に着いたらしい。ウイコウさんに促されて前に出ると、木々の隙間から岩丘が見える。そんなに大きなものではなさそうだけど、【採掘】スキル持ちの私が注意深くその岩丘を見れば。
「確かに採掘ポイントがいくつかありますね。さっそく採掘してみましょう」
インベントリから魔銀鉄のつるはしを取り出した私はポイントに向けてつるはしを振り下ろす。事前の打ち合わせどおり、まず最初はルイちゃんの力を借りずに自力で掘ってみる。
<鉄鉱石×1を入手しました>
<銅鉱石×2を入手しました>
<銅鉱石×3を入手しました>
<錫鉱石×2を入手しました>
<鉄鉱石×1を入手しました>
<銅鉱石×2を入手しました>
いくつかポイントを掘ってみたけど、やっぱり私では見知った鉱物しか出てこないらしい。
「ルイちゃん、見ていてどう?」
「えっと、どうしてお兄ちゃんは、こことかここを掘らないのかなぁと思ってたかな」
ルイちゃんが指し示す場所をじぃっと見つめてみるけど……駄目だ。どう見てもポイントがあるように見えない。
「ちょっと貸して、お兄ちゃん」
「え、親方の作ったこのつるはしは結構重いけど大丈夫?」
「ルイはこれでもリュージュ村の採掘担当なんだよ」
私の手からすっとつるはしを奪い取ったルイちゃん。だけどその重さに振り回されることもなく、軽々と肩につるはしを担ぐ姿は妙にしっくりとくる。
「……これ、凄いつるはしだね。これならきっといい鉱石が見つかると思うよ」
ルイちゃんはドンガ親方が作ったつるはしをにこにこと眺めてから、おもむろに振りかぶって流れる様に岩丘に叩き付けた。
<石A×3を入手しました>
<石B×1を入手しました>
流れたアナウンスは久しぶりの未鑑定石入手のアナウンスだった。
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本作の書籍第1巻は2020年2月10日。五日後に発売です。
早いところは8日くらいには書店に並ぶかもですので是非書店でお手に取って下さると嬉しいです。
カクヨムコンの紹介ページ
https://kakuyomu.jp/special/entry/web_novel_004#special-award
角川さんの紹介ページ
https://kadokawabooks.jp/product/hajimarinomachinominarai/321911000525.html
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