第92話 魔物素材の使い方

「親方、ファムリナさん。ちょっといいですか」

「おう、どうした」

「はぁい、なんですかぁ」


 盛り上がる探索担当のアル、ミラたちは取りあえず放っておいて、今日一日指導にあたった六花のメンバーと話をしていた生産担当のふたりに声をかける。


「コチさん、今日は本当に助かった。ドン親方に教えてもらったおかげで【鍛冶】の楽しさがわかってきた。感謝する」

「おぉ、コチッち。それならこっちもありがと。ファム師匠と、モックのおっちゃんのおかげで【木工】きたぁ! て感じだよ」

「キッカさん、ミルキーさんお疲れ様でした。でも、私はなにもしていませんよ。私たちはほんの少しお手伝いをしただけですから」


 キッカさんはナイフ、ミルキーさんは小さな本棚を作ったらしく、自分たちが作成したものを大事そうに持っている。同じ道を通ってきたのでその気持ちはよく分かる。最初の頃は何かをひとつ作りあげるたびに私も同じ気持ちを抱いていたから。

 もちろん今も作り上げたものに感動がないわけじゃない。でも、ただ作り上げることが目的だったあのころとは違って、今はよりよい物を作りたいという気持ちが強い。だから今作る物はさらなる高みを目指すための通過点、指標として見ているので作った物に簡単に満足しないようになった。って、それって完全に職人さんの思考なんだけど、凄腕の師匠たちに囲まれていると追いつきたくて自然とそうなってしまう。


「で、どうしたんだ」

「ああ、はい。そうでした。実は昨日今日の探索でアルたちが、結構な数の戦闘をこなしていたらしくて魔物素材が結構あるんです。確か、ここで得たものは基本的に持ち帰れないはずですし何か使い途がないかと思って」


 まあ、最終的に持っていたものはイベントポイントに変換されるはずだから無理に使う必要もないんだけど。ドロップする以上はなんかしら使い途があるのではないかとも思うんだよね。


「ほう、見せてみな」

「はい」


 親方が硬そうな髭をじょりっと撫でるその表情がどこか楽しそうなのは、やはり職人としての性だろう。

 素材全部を出しても仕方がないので、取りあえず種類ごとにひとつあればいいかと、さっき預かったドロップ品を親方の前に並べていく。茸や肉も一応出すが、親方やファムリナさんが使うことはないだろうけど念のため。食材として使える可能性はあるけど、何かに汚染されていた魔物の物なのでそのまま調理するのは憚られるんだよな。


「…………なるほどな。【鍛冶】に使えそうなもんはあまりないが、そっちはどうだ?」

「そうですねぇ、いくつかの道具は作れそうですが……」


 素材を手に取りつつ使い方を考えているが、さすがの親方とファムリナさんでもこれだけではどうしようもないか。


「おお! さすがは夢幻人さんですね。こんなにいろんな素材を集めてこられるなんて」

「ああ、モックさん。トルソさんや、マチさんは大丈夫ですか」

「ええ、勿論。今は落ち着いていますよ、皆さんのおかげで体調も問題なさそうです」


 救出してきた料理人トルソさんとマチさんを心配して小屋にいたモックさんだが、とりあえず中も落ち着いたらしく外に出てきたらしい。


「それは良かったです。で、モックさんはこれらの使い方とかわかるんですか?」

「ええ、この森の素材ですからね。スピンビーの針は釘や裁縫針として使えますし、スラッシュマンティスの鎌は加工すると農具や武器になります。毛皮も衣服や防具にできますし、ハイドタイガーの隠蔽毛皮なんかはうまく加工すれば魔物避けの効果を持たせられますよ。それに食材に関してもトルソがいれば食べられるようにしてくれるはずです」


 なるほど、地元の素材は地元の人たちに使い方を聞けということか。これで、食料の問題はなんとかなりそうだし、この拠点にいろいろな物を作ることもできそうだ。

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