第60話 付与

「あくまで記念品なので本当は装備枠を圧迫しない装飾具で作成できれば良かったんですけど、私の場合はちょっと事情があって効果付きの装備になっちゃうんです。最低の効果の装備で装備枠を埋めてしまうのは問題ですよね」


 私が効果を付与する場合は、効果付きの素材を使ってアイテムを作成する方法ではなく、ファムリナさんから教えて貰った生産系スキル、【錬金術】【付与魔法】を複合した方法で行っている。これはおそらくまだこのゲーム内で知られていない方法だと思う。


 そして、どうやらこの方法で作成ができるプレイヤーがアイテムを作成すると本当に極々低確率でランダム付与が発生する。その確率は普通なら何十個も作成して一個付与されていたらラッキーというレベル。でも私の場合は生産系スキル、【錬金術】スキル、【付与魔法】スキルの全てがそこそこ育っている状態で、そこに三桁に突入したLUKさんが加わることで、めったに発生しないはずのランダム付与がほぼ確定で付いてしまう。


 ランダムで付与される効果はおまけみたいなもの。だからその効果はほぼ100パーセント『○○+1』のような最低の効果のみ。これが効果のない装飾具としてなら体防具にいくつもブローチを付けたりワッペンを付けたりできるのに、装備になると体防具にはひとつしか装備できないため勿体ないことになる。


「「「………………」」」


 『翠の大樹』のメンバーも呆れてしまって声も出ないみたいだけど、こればっかりは仕方がない。結局今作っているのは、冒険用装備には付けられなくても街の中で着る普段着とかにならワンポイントアクセとして使えるかも知れない、という程度のまさに記念品だ。


「あの……コチさんってまだ初心者なんですよね?」

「そうですね、ゲーム内時間だとチュートリアルの街を出てから二日目です」


 リナリスさんの質問に正直に答える。いや、嘘はついていない。実際はゲーム内時間で10カ月以上を過ごしているとは言ってもリイドを出てからは間違いなく二日目だ。

 それを聞いたリナリスさんが残りのふたりを引っ張って店の奥でなにやら話し始める。どうやら内緒話がしたいらしい。でも、そのくらいの距離だと周囲の気配を察知する【索敵眼】の効果でやや強化されている私の耳だと丸聞こえだったりするんだが……


(絶対あの人おかしいって! 二日目なのになんであんなに規格外なんだよ)

(ちょっとイツキ! 声が大きいってば)

(でも、確かに現状の知識にも疎いみたいですし、初心者というのは間違っていないと思います)

(そうだよね、まだアクセサリに効果を付ける人なんていないからね)

(というか効果が付く素材は高価ですから、勿体なくてアクセサリ作成には使わないだけです)

(じゃあなんで、あいつがただ木を削っただけのこいつに効果が付いてるんだよ)

(もしかしたら……運営側が送り込んだ人かも知れません。料理システムとかプレイヤーが気が付きそうで気が付かなかった設定をさりげなく広める。みたいな役割の)

(あ~、なんかありえそうかも)

(で、どうすんだよ)

(どうもしないよ。だってコチさん良い人だし、料理美味しいし、これからも普通に仲良くしたいよ)

(同感です。でも、僕たちはコチさんにいろいろ貰ってばかりですから、これからも対等にお付き合いしたいなら、僕たちからもなにか返す必要があると思います)

(うんうん、じゃあ私たちになにが出来るかな?)


 目の前で内緒話をされるのもどうかとつい聞き耳を立ててしまったけど、最初に私が感じていた三人は悪い人じゃなさそうだという感触は間違っていなかったらしい。となればこれ以上聞くのは信義に反するだろう。三人が戻って来るまでは【索敵眼】もオフにしてブローチ作成に没頭しよう。




「あの……コチさん」

「すみません、いきなり密談みたいなことを始めてしまって」

「いえ、問題ないですよ。パーティ内での意思統一は必要です」


 うちのリイドのメンバーはアク・・が強くてまとまりが悪いから、仲のよい『翠の大樹』が少し羨ましい。それにかかった時間もブローチ2個を作成するくらいの時間だったので、長くても5分未満だ。


「えっと……お客さんこないね、コチさん」

「あ、そう言えばそうですね。まあ、宿代を考える必要もなくなりましたし、これからやらなきゃいけないことにお金は必要ないので、急いで料理を売る必要もなくなりましたので、それこそ問題ありません」

「でもでも! せっかくの美味しいお料理だからいろんな人に食べて欲しいよね、コチさん」

「そうですね、作る側としてはやっぱり食べて欲しいですね」


 私の言葉に顔を見合わせた三人が小さく頷きあう。


「だったら、私たちが宣伝してもいいかな?」

「宣伝……ですか?」

「うん、なんかいろいろごちそうしてもらったりしたのに、私たちはコチさんに何もしてあげられてないから、何かできないかなと思って」

「いえ、こちらもいろいろ教えてもらいましたし、楽しかったので気にしないでください」


 宣伝してもらってお客さんが来てもらえるのは確かにありがたいけど、常に開店しているわけではないので、まかり間違ってお客さんがたくさん来られたらそれはそれで困りそうな気がする。

 その辺をリナリスさんたちに説明する。


「宣伝って言っても、私たちのフレリスフレンドリストのメンバーにメールしたりとか、雑談スレや私が参加している料理研のスレとかに軽く書き込むくらいのつもりだからそんなに広まらないと思うよ」

「それに営業時間を指定したうえで、売り切るまでの数量限定、購入制限あり、売り切れ後は再販未定だとちゃんと告知するようにします」


 リナリスさんの言う通り、その程度の宣伝ならリナリスさんのフレンドの人が義理で来店するくらいか。ん? いや、違うか。本来ならニノセ以降に行っているはずのリナリスさんたちのフレなら、ほとんどが先の街に進んでいるはず。それなら、いくら誘われたからといってわざわざ転移代を払ってまで戻って来ないんじゃないかな。

 ということは、実質ほとんどお客さんは来ない? 


「……わかりました。それではお言葉に甘えたいと思います。ひとまず明日もまたお昼から開店する予定ですので、それで宣伝をお願いします」

「うん! 任せといてコチさん! 私たちが宣伝したら、お客さんがたくさんきて手が足りなくなるかも知れないから、また明日お手伝いに来ますね」


 さすがにそこまで来るとは思えないけど、その気持ちは嬉しい。


「わかりました。それでは今日はもうお店は閉めますので、今日はゆっくり休んで明日またよろしくお願いします」

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