第49話 勝利と泉

「これで……最後!」


 死角から襲いかかってきた狼を左手に装備している籠手を使った裏拳で殴り飛ばし、地面に転がったところに長剣を振り下ろす。首を斬られた狼が光の破片となるが、警戒は解かずに【索敵眼】で周囲をしっかりと確認。


『油断をして囲まれたのは情けない限りだが、戦いのほうはまあ及第点だな』

「ははは……それはどうも」


 懐から顔だけを出したアオは、結局この戦闘の間一度も私に手を貸してくれることはなかった。私の実力では、あれだけの数に囲まれてしまえばどれだけうまく立ち回ってもいくつか攻撃を受けてしまう。HPの低い私にはそれだけで危機的状況だが、幸い自前の【神聖魔法】による回復と【孤高の頂】の自動回復でなんとか耐えきった。

 本当はアオが手を貸してくれていればこのあたりの魔物では私に触ることすら出来なかったはず。だけど今回は私への戒めと戦闘経験のためにあえて手を出さなかったんじゃないかな。ぶっきらぼうな感じで口調は堅いけど、なにげにアオは優しいから私が本当に危なくなったときには助けてくれたと思う。実際いい経験になったし、魔物との戦闘についてもいまの私自身の力と戦い方を確認できたのは有意義だった。

 それになにより、自分のスキルや武器を駆使し、自分より強い魔物をなんとか倒していくのはとても楽しかった。


「おっと、私もだいぶんアルに毒されてますね」


 軽く頭を振って嫌な考えを振り払いつつ、周囲の確認を終えるがとりあえず魔物の反応はない。


「……それにしても綺麗です。アオ、泳いでみます?」


 周囲を見回すと、最後の戦いを始めた川べりからもそれなりに移動したらしく、目の前には川へと流れ込む水源のひとつらしい泉がある。ほぼ円形で大きさもそこそこあり水も澄んでいる。中央付近からポコポコと泡が浮いては消えているのでおそらくあの下から常に水が湧出しているのだろう。


『我は亀型の魔物であって亀ではない』


 泳いだら気持ちよさそうだと思って、いつもはリイドの水路で生活しているアオに話を振ってみたけど、あっさりと断られた。いやいや、そんなこと言ってもいつも水路にいるんだから水の中が嫌いって訳でもないでしょうに。

 まあ、でも確かにこの静謐な雰囲気を漂わせる水面と、そこに映った大きな月。その月は泡が立てる僅かな波でゆらゆらと形を変え、小さな波頭はキラキラと月光を反射させている。というなかなか幻想的な風景にミドリガメ風のアオが泳ぐというのも無粋か。


『む、なにか失礼なことを考えなかったか?』

「と、とんでもない。ただ景色に見惚れていただけですよ」


 危ない危ない。召喚獣とはパスが繋がっている関係でなんとなく思っていることが伝わってしまうことがあるので、気を付けないといけない。見惚れていたというのは本当のことだから誤魔化せたと思うけど。


 残念ながらアオの食指は動かなかったみたいだけど、私としてはこの景色は是非また見に来たいのでしっかりとマップで確認しておこう。


「こうしてみると結構、動き回りましたね」


 マップを確認すると、戦っているうちに森の中をかなり不規則に移動したらしく、アクティブ化されたマップの範囲が蛇のように細くのたくっている。結構な距離を走ったつもりだったけど、マップ上を直線で見るとそれほど遠くまで来たわけではないらしく、最終的な到達地点としては西の森の中央と森の南端を結んだ中間点くらいの場所だった。


「この辺は澄んだ気が満ちているような気がしますし、ちょっと休憩してステータスの確認をしておきますか。魔物の気配はないけど、反省を活かして念のために……『聖域』」


 回復してきたMPを注ぎこんで私のいる場所と泉周辺を【神聖魔法】の『聖域』という魔法で囲んだ。これは効果が切れるまでの間、魔物の侵入を防ぎ、中にいる者たちの気配を漏らさないという結界を張る魔法。外で休むときには便利なんだけど、効果時間ははスキルレベル補正付MP依存なのでレベル5の私だと大体1MPあたり30秒程度。仮にこの効果時間で一晩6時間使用したとするとなんと720MPも必要になる。

 正規のルートで【神聖魔法】を覚えた人ならそれまでに種族レベルもジョブレベルも上がっているから、そのくらいのMPは妥当なのかも知れないが今の私では結構しんどい。


 とりあえず手持ちのMPで30分ほどの結界が張れたので、しばらくはのんびりできるか。インベントリから【木工】修行で作成した椅子とテーブルを出すと泉のほとりに設置。ファムリナさんから買った清水のマグで泉の水を汲むと椅子に座ってから一息に飲み干す。


「くぅ~冷たくて美味しい!」


 この水ならお茶を淹れても美味しいかも……あ、そういえば調理セットも買ったんだからここで料理もできるのか。ステータス確認して時間が余ったらちょっと試してみようか。そうと決まればまずは。



名前:コチ

種族:人間 〔Lv 7〕

職業:見習い〔Lv 12/15〕

副職:なし

称号:【命知らず】【無謀なる者】【兎の圧制者ラビットタイラント】【時空神の名付親】【大物殺し】【初見殺し】【孤高の極み】【幸運の星】

記録:【10スキル最速取得者〔見習い〕】

   【ユニークレイドボス最小人数討伐(L)】

加護:【ウノスの加護】【ドゥエノスの加護】【トレノスの加護】【クアノス・チェリエの信徒】【チクノスの加護】【セイノスの注目】【ヘルの寵愛】


HP: 211/280

MP:  13/280

STR:12

VIT:12

INT:12

MND:12

DEX:12

AGI:12

LUK:107

SPステータスポイント:24

スキル

(武)

【大剣王術3】【剣王術3】【短剣王術3】【盾王術2】【槍王術3】【斧王術2】【拳王術3】【弓王術3】【投王術4】【神聖剣術4】【体術9】【鞭術5】【杖術6】【棒術5】【細剣術5】【槌術7】

(魔)

【魔力循環3】【魔法耐性7】【無詠唱】【連続魔法】【並列発動】【魔力操作】

【神聖魔法5】【火魔法9】【水魔法9】【風魔法9】【土魔法9】【闇魔法7】【光魔法7】【召喚魔法5】【付与魔法7】【時魔法9】【空間魔法9】【精霊魔法3】

(体)

【跳躍8】【疾走9】【頑強10】【豪力5】

(生)

【農業6】【畜産3】【開墾4】【伐採3】【採取8】【採掘6】【釣り3】【料理8】【調合7】【調合(毒)4】【錬金術5】【鍛冶7】【木工5】【細工5】【彫金5】【裁縫5】

(特)

【罠設置3】【罠解除3】【罠察知3】【気配遮断5】【索敵眼6】【鑑定眼7】【看破4】【死中活5】【孤高の頂き】【偶然の賜物】


 種族レベルが1上がって、〔見習い〕が2上がった。チュートリアル後の〔見習い〕はレベルアップ時のステ―タス上昇はチュートリアル時と同じくLUKを除いて全て1上昇する。そう考えると成長率は抜群にいいんだけど、転職不可で最大レベルもユニークレイドボスを初討伐したことで限界突破したのに15までだから相変わらず先がない。


「それはわかってたことだから別にいいんですが。問題はSPをどこへ振るか」


 [人間]はレベルアップ時のステ振りを全部自由にできるのがメリット。1レベルにつき4ポイントのSPをどこに振るかでその人のプレイスタイルが決まる。でも、私に関してはステータスが上昇するポイントの絶対値が他の人たちよりも圧倒的に低い。たぶん平均的に振っても、どこかに特化で振ってもステータスだけの勝負ではいずれ魔物やプレイヤーに勝つことは出来なくなるだろう。

 勝つためには装備の充実、そしてプレイヤースキルと戦い方の創意工夫が必要になる。


「それなら、私が振るべきは……これです」

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