銃と剣 20
「えっへん。意外に偉いのよ?」
そう言って、Fは笑うが颯太にとっては笑えない事実だ。
話を聞いて、推測の限りではあるがPIOと言うクランは数あるクランの中でも上位に属する、権力があるクランだと予想出来る。
Fの事は、それに属する一人だと思っていた。
何と言っても、中学生ぐらいの少女。そんな少女にそんな高い権限が用意されているだなんて考えもしなかった。
そんな颯太の様子を見て、Fがクスクスと肩を揺らして笑った。
「なんてね。冗談だよ、冗談。そんな顔しないでよ」
「え」
「副団長ってのは冗談じゃないけど、ただ、古くからいるだけだで偉くもなんともないからさ。そして、昨日の大鎌使いは、『オオガミ』って言うクランのメンバー。あそこのメンバーは皆、あんな様な格好してて、周りからは『山犬』って呼ばれてるの。かなりデカイし、強いクラン。所属メンバーもそれなりに名が知れ渡ってる奴等ばかり。なのに、なんで君みたいな初心者を騙して狩ってるのかは謎だね。私も知らない。何かのドロップ狙いかな?」
「ドロップって、さっきの男が落とした宝石みたいな奴?」
颯太がそう聞けば、Fはコクリと頷いた。
「よく見てるね。君意外に目敏いな。そう、このゲーム、自分と同じクラン以外の人を倒せば他のゲームで敵を倒した様にアイテムをドロップする場合があるの。毎回じゃないけどね」
どうやらそこは、普通のゲームと同じである。
「モンスターではなく、人なんですね」
「そう。でも言い換えれば、モンスターは自分の仲間以外全員って事になると思わない?」
「エグい発想っすね」
「人が人をドロップ欲しさに狙うだなんて、リアルの物差しに充てれば強盗と同じじゃない。でも、アイテムは馬鹿に出来ない。心の葛藤があると人をモンスターだと思わないとやってけない人もいるって事」
そう言って、Fは先ほど拾ったアイテムを颯太に見せる。
「さっきの男が出した宝石みたいなこれは、他のアイテムを作る際にいる材料みたいなもん。結構ショボい奴ね。ドロップするアイテムは倒した敵のランキングによって出るアイテムの確率が変わるの。雑魚なら、さっきみたいにショボいアイテムが出るけど、ドロップする確率がグンと上がるし。私や山犬レベルを狩れば、ドロップ率はぐんと下がるけど、中々いいアイテムが落ちる確率が格段と高くなるわ」
その代わり、簡単には狩らせないけどねと、Fは笑う。
「そういう所は、本当ゲームみたいだな……」
「君、ちょくちょく忘れてるけど、これは本当にゲームなんだってば。痛みは伴うけど、人は死なない」
「ランキングって言うのは?」
「ランキングってのは、自分の順位が毎月張り出されるの。全プレイヤー中、自分がどれぐらいの敵を倒したとか、クランで拠点を広げたり色々すれば毎月順位が変わってくる変動型。全然ログインできない月は、過去の結果がどれ程良くても、私でも下になるの」
「つまり、貢献度? 強さはレベルに属するの?」
「残念。このゲーム、レベルって概念がないの。強さは誰がどれぐらい倒したか。それが一人も多いか少ないか、ただそれだけ」
実に分かりやすが、実に困るシステムだ。
そんなもの、どれだけでも相手の裏が掻けてしまう。
「……落とし穴が多いな」
「え? 何?」
「あ、いえ。えっと、その拠点って?」
「このゲーム、ただ敵を倒すだけじゃなくて、エリアを制圧して占拠出来るんだ。意外に、このゲームは場所を戦略する方が重要なゲームかも。勿論、拠点を持ってない、持てないクランも沢山いるけどね。エリアには限りがあるから」
「エリアって事態が概念が少しわかりにくいっすね。そもそも、エリアを持っている利点って?」
リアルの様に土地を持っているからと言って、ゲームでの利点があると言うのか。
「占拠するにも利点は勿論あって、ログイン時に占拠場所から始めればまず敵に狩られにくいとか、その拠点って生成されているアイテムは自ずと自分達のものになるとか。エリアによって生成品が違うから、複数占拠も勿論有り。生成品が良ければ今回みたいに他人の占拠場所を奪おうとする奴も多いの」
ということは、だ。
「ここの生成品はいいものってことっすね」
颯太が地面を、いや。PIOのエリアを指を指して笑った。
その言葉に、Fがニヤリと笑う。
「正解。このエリアの生成品は、瓶爆弾。あの、山犬を倒したアイテムよ」
「あれも、アイテム? 魔法じゃないんですか? Fさんの」
「違うよ」
颯太はあの瓶爆弾も、彼女が使う魔法だと思っていた。しかしながら、あれがアイテムということになるのらば、彼女の能力はガラスの様な透明なシールドの層を生み出し操られるのみだと言える。
魔法も武器と言うのならば、1人につき1つ迄。
それは、魔法でも同じ様だ。ただし、颯太の様に2丁拳銃やら、多分あるであろう双剣は二つで1セットあつかいになるのだろう。
「てっきり、俺魔法だと思ってました」
「残念だけど、アイテム。誰でも使えるやつ」
「威力ってどんな感じなんです?」
「現実世界の手榴弾ぐらいってナビ子は言ってたけど、手榴弾だって種類もあれば大きさも色々あるじゃない?」
「そう……っすね」
颯太は、そんな事は知らないと言いたい言葉をぐっと飲み込み、同意の言葉を取り付ける。
手榴弾の種類なんて知るタイミングなんて早々ないだろう。
なのに、目の前の少女の形をした魔法使いは知っている。
これは、この世界以上の不思議ではないか?
「少なくとも、殺傷能力はされなりにあるし、爆発すれば地面はある程度抉れし爆風は出る。使い方によっては様々な戦法を生み、勝利を手にする鍵となる可能性だってある。それ故、この世界では重宝されるアイテムの一つ」
「一つって事は、他にも同等に使い勝手のいいアイテムがあるんですか?」
「勿論。人気アイテム生成地はどれもこれもうちを始めとした上位クランが占拠してる。例えばこの瓶爆弾をクラン外の人間が手に入れようと思うと、うちのクランから買うか、奪うか。うちと交流さえ持てない人間は、他者の持ち物を襲うか、他者からのドロップを狙うしかない」
随分と、縛りが厳しい。
瓶爆弾はどう考えても使い捨てのアイテム。そのアイテムを手に入れるだけでも、この世界では一苦労と言う訳だ。
強者に属していなかったらの場合だが。
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