宝探し-5 プレイヤー藍子 再会
午後二時を回った
タイムリミットまで七時間を切っていた。
けれど、これといって進展らしい進展は無かった。
いや、あったのかもしれないけど、勝利者というものにはなれていない。
一つありがたいことがあるとすれば、このお店ではお金を払わずに食事を取る事が出来る事だろう。
私はお昼ご飯をファストフード店で食事をしながらこの三時間で手に入った情報を整理していた。
だけど、整理しようと考えれば考えるほど、本当に意味のわからない世界の中にいるのだという現実に直面するばかりだ。
目の前にはスマートフォンとハンバーガーとコーラ。
その横には取扱い説明書。
そのまた横には青い花束。
青い花束が関係しているかはわからないけど、スマホとこれ以外の持ち物が消えてしまったのだから疑いようも無くこちらに含まれる。
まずは、スマートフォン。
少し前に『各駅停車場所』、というアプリを起動してみたばかりだけど、これは、この世界のマップ的な役割になるのだろう。
地図で動いているのは四つの矢印。
赤い矢印はこの『宝探しバーガー』の中で止まっている。
これは私の矢印だと思って間違いないと思う。
他に三つの青い矢印が動いているけれど、これは私以外の誰か、ということになるんだろう。
後はこのマップの線路の外の黄色と黒のしま模様。
ここは、多分出てはいけない場所、という意味だと思う。
確かめたい、とも思うけど、流石に勇気が湧かなかった。
逆にしま模様の内側。これは私達の活動出来る場所、という事だろう。
今のところ、『各駅停車場所』のアプリではこれくらいの情報しか得られていない。
このアプリは地図や居場所を示す補助的なものなのだと思う。
でも補助的なものという位置からは踏み出せない。
それは地図を見ながら行動をするように、場所へはたどり着けるかもしれないけど、その場所で何をすればいいのかを示してくれないもの、という意味だ。
そうでなければ、どうやって勝利者なるものになればいいのかが、このアプリだけではわからない。
次に取扱い説明書。
デパートの屋上に行った際にヒーローショーのチラシとしてもらったものだ。
二つ折りになっていて、開いてみると黒に青い花が散っている紙に赤い文字で『取扱い説明書』と書かれていた。
上から順番に八つの事が書かれていた。
そして更に二つ折りの上半分に『ルール』と書かれていて、下半分には『攻略法』と書かれていた。
まず上半分には書かれていた。
『・プレイヤー以外の人間は記憶を無くした状態で始まる』
『・一度でも勝利したプレイヤーは世界から出ることが出来る』
『・勝利したプレイヤーは欲しいものを与えてもらえる』
『・一度でもゲームに敗北するといらないものを取られ、世界へと帰る』
『・取扱説明書のルールは絶対である』
この五つが『ルール』として書かれている。
私には一体どういう意味なのかが解らない。
だって、プレイヤー以外の人は記憶が無くなる、ってなんでそんなルールがあるのかも解らない。
解っていても解っていなくても、自分の記憶が無くならないんだからべつに問題は無いはず。
そんな風に考えていても、このルールの本当の意味はどうやってもたどり着けなかった。
その次から書かれているルールは、さっきのものと比べてみると、簡単なものだった。
勝利者も敗北者も、この世界から抜ける事が出来る。
ただ違うのは、欲しいものを貰って帰ることが出来るのか、いらないものを取られて帰ることが出来るのか。
その二つのどちらか、というものだった。
そしてこのルールは絶対というもの。
まあ、ズルは出来ない、って意味だと思う。
ここまではこの世界でのルールで、このゲームというもののルールだった。
問題は、下半分の攻略法だった。
『・宝に触れて「お宝見つけた」と言う』
『・宝は人により姿を変える』
『・自分の居場所やお宝を間違えるとペナルティが課される』
この三つの攻略法は、果たして攻略法というものなのか、と思えるほど私には難解だった。
とにかく間違えちゃいけない、と言うことはわかった。
そして、攻略法があると言う事は、勝利者になる方法はあると言う事にも繋がる。
と、まあ考えてはみたものの、そんなに簡単に勝利者だとか敗北者だとか、すんなりと受け入れられるものでも無い。
でもこのゲームは実際に行われている。
実感があるから、怖いというものもある。
コーラを飲みながら、もう一度スマートフォンに触れてみる。立ち上がった画面にはアプリが一つ。
タップすると、先ほどと同じ地図が表示された。
赤い矢印は依然として止まったまま。
青い矢印は三つともどこかへ向かって動いていく。
矢印の行き先を見ていると、一つの矢印が少しずつ近付いてきた。
「え? 嘘?」
青い矢印は私のいる『宝探しバーガー』の店へと入ってきた。
ちょっとずつ、でも、確実に近付いてくる。動きを見ていると、店内を捜索しているのか、矢印は止まったまま、右に向いたり左に向いたりしている。
そして、矢印の動きが私の真後ろでぴたりと止まった。
「藍子……? 藍子だぁ」
ゆっくりと振り向くと、不安そうで今にも泣き出しそうな、恵美がいた。
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