第323話 知らない力
「あなたは英雄でしょうが」
ラトスフィリアの歩兵が訴えた。
名のある騎士団で、力は八岐一だと聞く。
ゼファーとカリファさんは何も言わなかったが、これは二人のためでもある。
殺しておかなければ次はゼファーと八岐との間で戦争が起きそうだった。
だが何も触れずに去っていくというのも冷たいもんだ。
アドルフだけは何か言っていたような気がするが。
「終わりだと言ったはずだ、なのにお前らの王はもう一戦おっぱじめようとしていた。バノームの平和のため、見過ごすことはできなかった」
「……あなたには疑いがかかっている」
「話を逸らすな。お前が話しかけてきたんだろう?」
「慈者の血脈に関与しているという――」
俺は歩兵の首を刎ねた。
周囲の兵はさらに静まり返る。
八岐一の騎士がこの程度とは。
グレイベルクは既に後退を始めており、その背中は遠ざかっていた。
だが王殺しは大罪だ。
見られた可能性がある。
「――《
遠ざかるグレイベルク兵へ向けて、上空より、巨大な顔面が降り注いだ。
それは地面に衝突する際に人間を喰い千切り、バウンドしながら疲弊した兵をさらに喰い千切っていく。
もう一つ保険として――。
「《
項垂れたラトスフィリアの兵に向けて魔術を行使した。
それぞれは体内より突き上げる産声により膨張し、頭が爆発すると中から小さな子供たちが生まれる。
「――生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 生まれてしまった! 」
生まれたての彼等は後悔を泣き叫ぶ。
兵は残り少なかったが……。
「……25……30……37人か」
軽く数えて深淵の子供が37人ほど。
これだけいれば一人残らず始末できるだろう。
「任せた」
「よし、あいつらを殺しにいこう!」
大勢の意気込みが辺りへ広がる。
統率も何もない足取りで、彼等は駆けていった。
あとは冥国の獣人とウラノスだ。
それが済んだら丁度いい、防壁の中にいる小鳥や河内も殺しに行こう。
それで
そう考えを固めた時だった。
背後におかしな気配を感じた――。
それぞれの兵の姿もなくなってしまった、だだっ広いだけの戦場の真ん中に、黒い修道服に身を包む4人の者がいた。
たたずみ、じっとこちらを見つめている。
冥国かもしくは帝国の仲間じゃないのかと思い、顔色を見てみたが、ウラノスは深刻な様子で反応をみせない。
周囲にいる獣人たちは指示待ちといったところだろうか。
冥国獣人の群れは終戦を迎えた時点で死者は多数。
残りはそれほど多くない。
防壁の正門に向けて少数が散らばっているといった風景だが、何やら正門付近が騒がしい。
「おい、あの4人はお前らんとこの関係者か?」
返事はない。
だがその4人がゆっくりと近づき距離を詰めてきた時、ウラノスが反応を見せた。
「どういう、ことだ……」
彼は明らかに動揺している。
知り合いだろうか。
「見つけました、見つけましたよ、多分」
同じ修道服を着ていては区別がつきづらい。
喋ったのはおそらく前に出てきたこいつだろう。
いつまでも薄ら笑みを浮かべているような細い目つきの女だ。
後ろの連中は彼女と違い、何か警戒しているように思う。
「……ん?」
感情感知が機能しない。
どういうことだ。
「なぜ外に出てきているのだ。一体何をしに来た」
「ウラノス・リックマン。脱走に続くあなたの愚かな行動について、あの方は特にあなたを罰するだとか、そういった俗物的なことは望んでおられません。ですが私個人としては、彼と一緒にあなたにもここで死んでいただきたいところです」
「ウラノス、知り合いか?」
「馴れ馴れしく語り掛けるな、
「……」
尋常ではない警戒。
それに恐怖心も抱いているようだ。
ウラノスに対し感知は機能している、だというのに彼等4人に機能しないのは何故だ?
「私たちの目を通し、あの方はあなた方を見ておられます。今回の遠征にあたって、私たちはあなたの処分については言い渡されていません。だた愚者の肉体を破壊し彼等に引き渡せと、それだけです。ですが邪魔をするというのなら……お分かりですね? 傍観をお勧めします」
「我は関与しない、それにこの者の仲間でもなんでもない」
「結構。それでは――」
突然、距離を詰められ、目の前に修道女の姿が現れた。
「うわ」
俺は思わず驚いてしまい。
「なんとまあ、余裕のある反応!」
左の斜め上から蹴りが来る。
俺は静かにそのまま構え――。
「――ぐはっ!?」
何だと!?
蹴りをもろにくらってしまった。
地面にめり込むほどに叩きつけられ、転がるようにして飛ばされた。
体勢を立て直し視線を修道女へ向ける。
「どうなってる」
ありえないことだ。
くらうはずのないダメージを体が受けた。
両手を確かめてみても異変はない。
なんだ、これは……。
「無知は罪です。あなたの場合は存在そのものが罪ですが……油断は禁物ですよ?」
背後の気配に気づいた。
子供ほどの背丈しかない修道者が一人。
何やら光を宿した手刀で俺の頭を狙ってきた。
前に避けた直後、そいつの手は地面へめり込み地は割れた。
「なっ!」
魔力は感じなかった。
つまり素手でこの威力ということか。
いや、素手であれなんであれ、この体がダメージを受けるなんてありえない。
さらに二人目の拳が顎の下を通過した。
寸前で動きを止め免れたが、続いて右から三人目の飛び蹴りが飛んできた。
後ろへ一歩下がってかわし、そいつの足を右手でしっかりとつかむ。
瞬時に魔術を行使する――。
「――《
掴んだ修道者の足――
修道者は呻き声をあげた。
最初、人体の硬質化が始まった。
無駄な衣服や表皮は瞬間的に剥がれていった。
形を変え、
握りしめ、それを残りの3人へ向けた時には、足だった部位以外のすべてが巨大な鋭い刃となった。
生前の肉体所有者の特徴なども反映されるのが、この魔術のユニークな点だ。
刃の表面には「彼女」が見せた最後の断末魔の表情がしっかりと装飾として施されている。
残った一本の足と二本の腕は、まるで花でいう
刃となった胴体をそっと彩るように、三つの
これは
確かグレイベルクの兵体を殺して手に入れた魔術だったか。
さきほどペラペラとよく喋っていたリーダーらしき女は、相変わらずの薄ら笑みを浮かべている。
標準的な表情だというのなら気味が悪すぎる。
「深淵ですか、愚かな。躊躇いもなく使うとは、安易にもほどがあります」
「……色々詳しそうな口ぶりだ。ウラノスと親し気なのも気になる。……お前ら、誰だ?」
後ろに一人。
左にもう一人。
そして正面に一人。
「なぜ俺が深淵を使えると知っている?」
「その質問、まだ続きますか?」
「はあ?」
「いえ、こんな状況これまでにもあったでしょうに。で、争いの真っただ中で丁寧にあなたの質問に答えた者が、これまでにもいたんですか?」
「……」
ペラペラとよく喋る割には、か……。
感知できれば容易いが、おそらく狙いは別にあるんだろう。
俺を感情的にさせて動きを鈍らせたいのか……いや、この女個人の性格ということも考えられる。
「答えなければ殺すだけだ。お前もこいつみたいに武器にしてやる。使い捨てのなあ」
「ミゲル!」
「はい!」
後ろの子供の気配が強まった。
剣の表面を鏡に代わりに背後へ向けると、子供の頭上にドラゴンの頭を模したようなドデカイ炎が出現していた。
「ミゲル! スキルを使えとあれほど言ったでしょう!」
目の前の修道女が叱るように叫んだ。
どういうことだ、スキル?
怒られた子供の動きが一瞬止まった。
ドラゴン型の炎も弱々しくなり消えていく。
「なんだ、茶番か? 殺し合いの最中に授業なんか――」
スキル《神速》を使い後ろ向きに彼の元まで下がる。
「――してんじゃねえよ」
《
直後、剣はミゲルを見る見るうちに吸収する。
「嫌、嫌だ嫌だ、嫌嫌! 助けてシスター! シスターぁあああああああああ!」
剣はさらに魅力を増した。
それは花の上に花が刺さったような、長く巨大なものだ。
「あと二人……」
「くっ、シスター、このままでは!」
「黙りなさい……あの子が言いつけを守れなかっただけです。この程度のことでうろたえるんじゃありません」
「も、申し訳ございません」
「そのいいつけってのは、つまりスキルを使えってことか?」
会話に割り込み得意気に問いかけてやった。
シスターと呼ばれた彼女の薄ら笑みが、一瞬ぎこちなく痙攣した。
「お前の表情が分かってきたぞ。なんだかよく分からんイカサマをしているみたいだが、《感情感知》なんか必要ないなあ」
「ふっ……随分と余裕のある表情をされるじゃありませんか。さきほど一撃をくらった際の表情が見たいのですが」
「……これで最後だ、もう一度聞く。お前は何者だ?」
「……」
「答えないのならそれもいい。その薄ら笑みは見飽きた。まとめてこの剣の養分になってもらおう」
「笑止!」
シスターは薄ら笑みの奥に怒りを隠し、闘気を剥き出しに一直線に迫ってきた。
「バーニス、準備を!」
「は、はい!」
準備?
一々相手を警戒させてから仕掛けてくるのは、戦い慣れていないからか、それとも何かの戦法か。
まあいい、どちらにしろ警戒にこしたことはない。
バーニスと呼ばれた巨体の修道者も前に出た。
「スキル《迷彩食》!」
バーニスが腕を胸の前で交差した。
直後、彼の姿が視界から消える。
「ん?」
前方から迫ったシスターの無駄の多い拳や蹴りをいなし、周囲へ視線を向ける。
だがバーニスの姿はどこにもない。
「がはっ!」
突然、腹に激痛を感じた。
「なんだ、と!?……」
バーニスの姿が目の前にあった。
それは彼の正拳突きであった。
だが俺はまったく気づくことができず、またもダメージを受け、後方に飛ばされてしまった。
起き上がろうとした際、真上にシスターの姿が見える。
狂気染みた眼光とニヤけた口元――。
――まずい、首を掴まれる。
だが紙一重で避けきれず、《神速》を使うも腹に手刀がめり込んだ。
「がはっ!……」
腹が燃えるように痛い。
シスターの腕が俺の腹を貫通していた。
「なん、だ……」
分からない。
なぜただの打撃がダメージを生むのか。
久しぶりの痛みはまったく心地よくもない、いつかゼファーのダンジョンでシャオーンに腹を斬られた日のことを思い出す。
「あなたは無敵ではないのです、いくらでも狩る方法はあります――バーニス!」
見下ろすシスターの顔に重なって、上空にバーニスの姿が見えた。
太陽と重なって見える彼の姿は黒く影がかかっている。
その頭上には、大きな何かが見えていた。
「王など生まれていただいては困るのです」
シスターは笑った。
「――スキル《
腹に刺さっていた腕の抜ける感触があった。
シスターが視界から消える。
そして見えたのは、バーニスの姿と巨大な釘だ。
「ぐっ…………がはっ!」
それはゆっくりとめり込み、俺の体を地中深くまで突き落とした。
まるで釘をうち込むように、段階を重ねて徐々に深くに埋めた。
視界が狭まり地上の光が遠ざかっていく。
俺は穴の中へと落とされた。
「……《
腹の傷が先だ。
気のせいだろうか、いつもよりも治りが遅い。
怪我をしたのなんて久しぶりぶりだが、治癒魔法はこんなに頼りなかっただろうか。
そこで視界にあるものが見えた。
――影だ。
これは……俺の存在か?
それは砂鉄のように黒い影だ。
穴の外からゆっくりと俺に近づき、体へ入って行く。
「どういう、ことだ……」
これは魔国に置いてきた半身の存在だ。
分離の解除もしていないのに、なぜ勝手に戻ってくる。
……俺が瀕死だからか?
まずい、今魔国を留守にする訳にはいかない。
「――スキル《溶岩流し》!」
「なっ!」
大量の赤黒い何かが降って来た。
それは轟音と共に土壁を燃やしながら、一気に流れ込んできた。
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