第260話 【支配されし姫編】:魔王の力

 イグノータスの放った紫の光はすべてを呑み込み、俺の視界は一瞬にして白一色に染まった。

 反射的に目をつむると、突然、強い耳鳴りが起こり意識が揺れる。

 眩暈のような感覚に襲われ、気づくと俺は地面に両手をついていた。

 何故だか呼吸が荒い。


 そして、徐々に真っ白だった視界が元に戻ると、まだ俺は起源の湖にいることを知る。


 目が慣れてきたことで雨粒が見えた。

 まだ雨が降っている……ということは、時間はまだ経過していないということか?


「流石、兄者といったところだポロン!」


「一瞬、殺されるかと思いましたな!」


「ロザリアごときに手こずるとは、情けねえ……」


 イグノータスの厳しい指摘に返す言葉もないフェルゼンは、若干うつむき、落ち込む。


 辺りを確かめてみると、肩を大きく揺らしながら呼吸するロザリアさんの姿が見えた。

 ドレスの右袖を失い、晒された腕は痙攣している。

 表情は重い。

 ダメージを受けているのか、先ほどよりも明らかに顔色が悪い。真っ青だ。


「一体……何が、目的なの?」


 声は出るようで、イグノータスへ問いかけた。

 だがイグノータスはその時、ロザリアさんとは違う方向へ視線を向けていた。

 思わしくない表情だ。

 すると何かに気づいたのか、「フードを被れ」とビシャスとフェルゼンへ促す。


「……誰か来る」


「“誰か”とは、誰ですかな?」


「……分からねえ。だがルシウスじゃねえ。魔力が弱い」


 ビシャスとフェルゼンはフードを被った。

 イグノータスは顔を隠しながら、森の通路の奥を見つめる。


 すると、そこに現れたのはトアだった。


「姉様!」


「トア!」


 ロザリアさんの表情が揺らぐ。

 何故ここにトアがいるのかと、そんな表情の中、どうトアを守ろうかと考えているようだ。


「どうしてここへ……城へ戻りなさい!」――焦る表情。


 トアは状況が分かっていないのか、大好きな姉を見つけたことで微笑んでいた。

 だが徐々にその表情が崩れ始める。


「姉様……どうしたの? 腕が……」


 袖のないロザリアさんの腕を見たトアは、幼いながらに理解し始めているのだろうか? 表情が強張り、弱々しくなる。


「姉様……」


 姉を心配するように、少しずつ、ゆっくり近づいていくトア。

 その時、そこへもう一組、別の集団が現れた。


「これは……どういうことだ……」


 カサンドラだ。


「ちっ! もう来やがったか。失敗だ」


「申し訳、ございません」


「お前もだビシャス。今のお前らはロザリアにさえ劣る。動きを止めることも出来ねえとはなぁ?」


 ビシャスは沈黙した。


「だが、もういい。それに丁度いい。もう少しスマートに終わらせたかったが、予定変更だ」


「貴様!?……イグノータスか!」


 そう叫ぶカサンドラの隣には、3名の姿があった。

 見覚えのある顔だ。

 あれは、蜷局族のマリシアス。

 そしていつもマリシアスの隣にいる、エモとドーマ。

 あの黒く艶のある髪を見間違うはずはない。


「もう少し王座でゆっくりしてりゃ良かったのによぉ。上手くいかねえもんだ」


「これはどういうことだ! 何故ロザリアがこんな姿に!」


「それは質問か? それとも困惑から出た戯れ言か? 見りゃ分かんだろ? 聞くまでもねえはずだ」


「お前は……ロザリアを説得してくれると……」


「はあ? 俺がいつそんなことを言った? 俺は“任せろ”と言っただけだ。説得するなんて一言も言ってねえ。それに、こいつはどうせ呑まねえさ」


 イグノータスはニヤリと笑った。

 その表情にカサンドラの瞳孔が開く。


「お前は……最初から……」


「もう後戻りはできねえぞ?……だが安心しろ。すべて上手くいく。シャステインもこれで安泰だ。ロザリアは死に、お前の死後、シャステインはトアトリカが引き継ぐ。それでいいだろ?」


「どういう、こと……」


 その時、怒りのこもった声でロザリアさんが問いかけた。

 体が痛むのかゆっくりと立ち上がり、ロザリアさんはイグノータスやカサンドラを見つめる。


「ロザリア、違うんだ! 私は……」


「分かってるわ。イグノータスにそそのかされたんでしょ?」


「そそのかされて……いや、そうじゃ、ないんだ……」


 うつむくカサンドラ。

 その表情には罪悪感があった。


「姉様?……」


 その時、トアがロザリアさんのところまでたどり着いた。


「トア、少し離れていなさい」


「感動的だぁ。姉の最後を看取る妹か……カサンドラ、腹を決めろ」


「だから私は!」


「お前らは先に帰ってろ、さっきの一撃でルシウスが気づいたはずだ。奴に来られると厄介だ。さっきみてえにお前らを守ってる余裕がねえ」


 イグノータスはビシャスとフェルゼンへここから退避するように命じた。


「わ、わかりました……兄上、ご無事で」


 フェルゼンの姿が森へ消える。


「じゃあ……ミーも先に帰ってるポロン」


 ビシャスの姿も同じく消えた。


 イグノータスは目の前の二人へ不敵な笑みを向けた。

 蜷局族などは視界に入っていない様子だ。


「カサンドラ様、これは一体……」


 マリシアスがカサンドラへ事態の説明を求めている。

 知らされていないのか?


「これで捕まれば俺たちは反逆罪で死刑だ。いや……どちらにしろ、そうならねえのがルシウスの間抜けなところか? カサンドラ、もう逃げ道はねえぞ? だがこうでもしねえとこの国は変わらねえ。ウルズォーラが支配し続ける魔国に未来なんかねえ。あるのはお前らウルズォーラの血の力に怯え続ける魔族の姿だけだ」


「どういうこと? あなたは魔王でしょ? こんなことをして、あなたを慕っている民の想いはどうなるの?」


「お喋りは終わりだ、ロザリア。カサンドラ、こいつを殺せ」


「な!?……なんだと」


「聞こえただろ? ロザリアを殺せと言ったんだ」


「殺すなど……何故、私がそんなことを?……ロザリアは友だ!」


「空像だあ!」


 イラついたように声を張り上げるイグノータス。


「魔国の歴史は負の歴史だ! ロゼフもウルズォーラも存在しねえ! 存在しちゃならねえんだあ! 何故俺たちだけが気色の悪い人間のかせを背負わされなきゃならねえ? カサンドラ、お前らもそうだろ? 白蛇の祖か何か知らねえが、何故俺たちは魔族になれねえ! 何故俺たちは魔族になり切れねえんだ! 何故人間や獣人なんていう下等種族の血が入ってる! お前らはまだいい方だ。だが俺たちは人間だぞ? 俺たちの中には今もこうして! 痛っ……」


 イグノータスはナイフで自身の手の平を切った。


「この痛みは人間の痛みかぁあ! それとも俺自身のもんかぁあ! どっちだぁあ!」


 イグノータスは人間を恨んでいる……ルシウスさんの言っていた言葉を思い出した。


「イグノータス。私を殺したところで何かが変わる訳ではないないわ。あなたの中には少なからず人間の血が流れているし、カサンドラの中には蛇人の血が流れている。そして私の中にも白猫族の血が流れている。いいえ、それは白猫族や蛇人、人間に限らないかもしれない……魔族の寿命は長いわ。もう私たちがあなたの言う意味において、魔族だと言えた時はとうに過ぎているのよ? それをあなたは分かっているでしょ?」


「分かりたくもねえなぁ……カサンドラ、殺れねえって言うんなら俺がそうさせてやる。お前はただ黙ってみていればいい」


「イグノータス! 私は!」


「《傀儡操権マリオネット》!」


「ぐっ!」


「カサンドラ?」


 その時、カサンドラが不自然な動きをした。

 まるで体が硬直したように腕を下ろし、指先が真っ直ぐに揃っている。

 ロザリアはその姿に違和感を抱きながら、イグノータスの指先に注意を向ける。


「イグノータス? カサンドラに何をしたの?」


 イグノータスは両手を指揮者のように広げながら、指先でピアノを弾くように歪に動かしている。


「これは人間から奪ったもんだ。偶然手に入れたもんだが、今はそうは思っちゃいねえ。カサンドラ、どうだ? どんな気持ちだ? これが人間の魔法だ。ロザリア、お前は今から人間の魔法に殺される。どんな気持ちだ? これでお前も少しは理解すんじゃねえか?」


「もう、正気じゃないのね……」


「お前らが異常なんだよ。だから分からねえ。一番生きてちゃいけねえのは人間だ。魔族の歴史とはよく言ったもんだよなあ? だがそれはまやかしにに過ぎねえ。いいように誤魔化された歴史だ。魔族は常に人間と隣合わせにあった。戦争が続いていた大昔、相手は必ず人間だった。人間はロゼフがこの湖で生まれるよりもさらに前から既に存在している。ってのに、下等生物と呼ばれる。その意味が分かるか?」


「……」


「そんな訳ねえよなあ? 最初からいたにも関わらず、なぜ途中から入ってきた獣族や魔族より劣るんだ? おかしいだろ? 劣っているというなら、なぜ今も生きてやがる? 増殖し続けてやがる? おかしいだろ! 奴らは化けの皮を被ってやがるのさ! 下等などと蔑ませておきながら、数百、数千年に一度、異常な魔力の者が偶発的に生まれる。偶発的ってのも怪しいもんだ。俺はそれがアダムスだったんだと、今はそう思ってる」


「……恐怖による盲信。それがあなたの理由?」


「違うなあ? だがこれは別に俺の考えだってだけの話だ。だが普通そこに疑問を持つもんだろ? 今の話を聞いて俺が正常でないと思ったか? 俺が間違ってるってんなら、もしくは原因は俺たちの先祖か? つまりは、今より過去の歴史は魔族が何もしなかった歴史だ。人間を放し飼いで放置し続けた、魔王たちの怠惰な歴史の上に今がある。だから俺の代で変えてやるのさ」


 イグノータスはそう言い終えると、カサンドラへナイフを投げた。

 すると操られた状態のカサンドラは左手で受け取る。


「やめろ……やめてくれ……」


 イグノータスの詠唱した魔法……あれは確か《調教師》の魔法だ。

 つまり今カサンドラは……。


 抵抗しているのだろう。

 だがイグノータスの力は強く、カサンドラの足は少しずつロザリアとトアへ近づいていく。


「カサンドラ? どうしたの?」


 幼きトアはロザリアへしがみつきながら振り向き、恐る恐るカサンドラへ問う。

 少なからず分かっているのだろう。


「トア。に、逃げろ……ロザリア。トアを、頼む……体がいうことを利かないんだ」


 カサンドラの額から汗が伝った。


 その時、ある二人の影がイグノータスへ向かった。


「ドーマ! 右は任せた!」


「うん!」


 イグノータスを挟むように、エモとドーマが襲い掛かったのだ。

 この二人も飾りではなかったのだ。

 俺は心の中で応援していた。

 だが……。


「雑魚は引っ込んでろ――《暗黒の鉄槌ディボルカース》!」


 イグノータスは目前に迫った二人へ見向きもせず、魔法を唱えた。

 直後、二人を下敷きにする形で紫色の巨大な玉が出現する。

 今までにも何度か見たことがある……あれは上級魔法か。

 だが魔法陣がない……上級魔法を術式になしに安定させているのか?


 魔法が解除されるとそこには気を失った二人の姿があった。


「エモ! ドーマ!」


 直ぐにマリシアスが駆け寄り、意識のない二人を脇に抱え込むと距離を取った。


「マリシアス……手を、出すな。お前では、無理だ」


「カサンドラ様!」


「いいのよ、マリシアス?」


 するとロザリアさんが声をかけた。

 その表情は先ほどよりも弱々しい。

 イグノータスが光の柱を放った時、一体なにが起きたのか俺には分からないが、ロザリアさんはゆっくりと衰弱していっているようだった。


「ロザリア様……」


「私やカサンドラに何かあったら、この子を……トアを頼むわね?」


 ロザリアさんはニッコリとほほ笑みながら、地に膝をついた。

 どうやら体が動かないようだ。

 そしてしゃがみ込み、トアと向き合った。


 カサンドラの足は一歩一歩ロザリアさんへ近づく。

 左手で突きつけたナイフを震わせながら、カサンドラは悲痛の表情を浮かべていた。

 その様子をイグノータスは楽しんでいる。

 フードから微かに見える口元が笑っている。


「《稲妻ライトニング》!」


 その時、突然ロザリアさんが叫んだ。

 直後イグノータスの頭上から凄まじい轟音と共に電撃が飛来した。


「ギィァヤアアアアアアアアアア! アーハッハッハッハッハッ!……はぁ……はぁ……終わりか? 効くねえ~……残念だったなあ? その抗いには何の意味もねえ」


 だが電撃が自身の体を通り抜け、地面へと移り消えた後、イグノータスはそれさえも楽しんでいるかのように高笑いしていた。


 ロザリアさんの表情がさらに衰弱していく。

 目が虚ろだ。


「姉様……」


 するとそこで少し違和感を覚えた……先ほどからトアの声には力がない。


 目の前で力尽きようとしている姉の姿を見ながら、目を丸くし、動揺してはいるようだが意思が読めない。

 もちろん今の俺は《感情感知》を使えないし感情も読めないが、それ以前に表情がおかしい。


「トア……」


「姉様?」


「何があっても、トアは今までのトアでいればいいのよ? 何があったとしても……きっといつか、あなたの望む、綺麗なお姫様になれるから……ね?」


 トアの頬に涙が流れた。

 ロザリアさんの言葉の意味を理解しているということなのだろうか?

 だが不自然だ。

 ――トアの表情は無に近い。


「姉様みたいになれる?」


 おかしい。まるで口だけが動いているようだ。

 だがロザリアさんはもう、見えていないのだろう。

 無表情のトアに優しく微笑みかけている。


「いい? トア、私たちはずっと一緒よ? 私はあなたをずっと見守っているから……」


 その時、カサンドラのナイフがそっと、ロザリアさんの背中に触れた。

 そして肉を裂き、刃先が埋もれていく。

 するとロザリアさんは微笑みながら、そっと瞳を閉じ――


「トア……」


 ――トアの名を呼んだ。


 その姿をトアは無表情のまま、涙を流し見つめていた。


 カサンドラの顔は涙で濡れ、もう言葉など出てこない様子だ。

 脇に仲間を抱えたマリシアスは戸惑う表情のまま、動こうとはしない。


「ちっ! ルシウスか――」


 すると何かを察知したように、イグノータスは後退り、姿は森へ消えた。

 去り際の表情には笑みが零れていた。


 カサンドラの手からナイフが離れ、ロザリアさんの手からトアの腕がすり抜ける。

 そしてロザリアさんはその場へ倒れた。

 もう、意識はない。


 無表情のトアは涙で濡れた瞳を、崩れ落ちた姉へ向けた。

 だが目の前で息絶えているのは自分の姉だというのに、何の反応もない。


「トア……すまない。私は……」


 カサンドラの声に反応し、トアは視線を移す。

 カサンドラの表情は弱々しい。

 イグノータスの魔法に最後まで抵抗していたのだろう。

 もうそこに、魔王の貫禄はない。


「カサンドラ……」


 カサンドラから目を逸らすと、もう一度トアはロザリアさんを見つめた。


「姉様……」


 数秒の沈黙が流れ、だがそれは実際よりも長く感じ、俺はただその光景を見させられていた。


 ――だがその瞬間、辺りに凄まじい勢いの突風が巻き起こった。


 周囲の木々を大きく揺らし、湖の水を巻き上がらせるほどの突風だ。

 そして、それはどうやらトアを中心に発生しているようで、カサンドラは後方へ飛ばされ、近くの大木へ叩きつけられた。


「カサンドラ様!」


 助けに入ろうとしたマリシアスもどこかへ飛ばされ姿を消す。


 突風にのまれ、ロザリアさんの体も湖へと飛ばされた。


『トア!』


 俺の声が届くはずはない。

 だが俺は叫ばずにはいられなかった。


 トアは包み込むような風を纏い、ゆっくりと立ち上がる。


「姉様……私も姉様みたいに、なれる?……」


 なんだ?

 トアの様子がおかしい。

 誰に話しかけてるんだ?


「トア」


 その時、先ほど飛ばされ、木に叩きつけられていたはずのカサンドラの姿が見えた。

 向かい風の中、ふんばり、ゆっくりとトアに近づこうとしている。

 だがトアはカサンドラなど見ていない。

 視線は常に明後日の方向というか、どこでもない場所を見つめている。


「姉様……姉様……綺麗……殺す。殺しなさい……姉様を、殺したのよ? 殺しなさい、殺さないとだめ。でも、姉様が……姉様もそれを望んでいるわ?」


「トア? どうしたんだ?」


 風は一向に収まる気配がない。

 トアは一人ぶつぶつと何かを呟いている。

 目の前のカサンドラは困惑しているが、俺は何となく、それが何なのか分かっていた。


「ダメ! そんなこと……できない。姉様が悲しむ……殺しなさい。そうすれば姉様が褒めてくれる。姉様も喜ぶはずよ? まずはカサンドラを殺しなさい。きっと姉様が……嫌! やめて……」


「トア!」


 だがその時、不気味なほど突然に、風が止んだ。

 そして――


「カサンドラ、死んでくれる?」


 ――カサンドラへゆっくりと振り向いたトアは、ニヤリとほほ笑んだ。


 その瞬間、トアの姿が消えた。

 そして次にトアの姿が見えた時、それはカサンドラの目前だった。

 人一人分ほどの距離を残し、トアはカサンドラの直ぐ目の前に現れたのだ。

 今の一瞬で。


「――しゃがんで?」


「ぐはっ!」


 突然、カサンドラは地に体を叩きつけられるように崩れ落ちた。

 顎、腹、足、そして両腕が、地面に吸い寄せられているかのように密着し、身動きができない様子。

 そんなカサンドラへ、トアは醜悪な笑みを浮かべながら見下している。

 おそらく、これがトアの《支配》なんだろう。


「――死んで?」


「ぐわぁあああああ!」


 魔術ではない。

 スキル名を声にしている訳でもない。

 先ほどの“しゃがんで”や、この”死んで“という言葉は、すべて固有スキル《支配》の力を帯びているんだ。

 だからカサンドラは絶叫している。


 相手は幼少のトアだ。

 背丈は小さく、声も幼い。

 だが魔王であるはずのカサンドラは何もできない。

 トアが命令するたびに、カサンドラの体は地面にめり込んでいく。


 言葉だけで魔族を殺すスキル……。

 ロザリアさんの死を目の当たりにしたというのに、俺はイグノータスがこの力を憎む理由が分かったような気がした。

 ――この力はイグノータスにとって鎖なんだと……。


「やめろ――」


 だがその時、俺の背後で声が聞こえた。


 トアは気づくと声のした方へ振り返り、そして疑問を抱いたように首をひねる。


「……父様?」


 振り返ると、そこにはルシウスさんの姿があった。


「トア……やめてくれ」


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