第22話 異常な力
「まさか女だったとは」
レイドは小刻みに震えながら笑った。
「確かにそっちの奴からは何も感じねえ。だがお前は違う。お前からはすげえ魔力を感じる」
「トア」背中に呼びかけた。
「私は大丈夫だから。マサムネは下がってて」振り返らない。
危なそうなら助けに入るとだけ伝えた。
トアは腰から剣を抜き、構える。
「なるほど、隙がねえ。一目見りゃ分かる、鍛えられた剣技だ」
剣技を知らない俺にはさっぱり分からない。
「レイド、聞いてください!」訴えるシエラさん。「彼らは私の友人です。王都へと帰る道中に出会い、色々とお世話になった方々なのです」
「そりゃあご苦労なこったな」鼻で笑った。
必死の説得も空しく。
「じゃあ行くぜ!」トアに向けて走り出した。
トアは剣を構える。
広場に剣の交わる衝撃が響いた。
トアは鎌をいなしていた。
器用な芸当だ。
「これじゃあ、らちがあかねえ。先に使うぜ」
トアの剣技に苛立っている。
「《
レイドの体を炎の鎧が
シエラはやめるようにと訴える。
が、レイドには聞こえない。
「おっと! まだだ」
レイドの体を覆っていた炎が蠢き、腕を伝い鎌の刃へ集中した。
炎の鎌がトアに迫る。
トアは剣でまた受け流すが。
「ぐっ!」
先ほどのようにはいかない。
刃と刃が接触した瞬間、炎がトアの腕に飛び火した。
「トア!」叫ばずにはいられなかった。
「大丈夫……だから」
なんで魔法を使わないんだ。
トアに魔法を使うように促した。
だが「大丈夫だから」と、トアはそれしか言わない。
「そんな
「やってみなきゃ分からないでしょ」
トアの呼吸が荒い。
流石に骨が折れるのだろう。
炎を纏ったことでいなしても防げなくなった。
このままじゃ一方的に、鎌の的になるだけだ。
「おい、お前なめてんのか。まさかその剣で殺れるとでも思ってねえだろうなあ。さっさと魔法を使いやがれ!」
「これが私の全力よ」だがトアは魔法を使おうとはしない。
「……そうか。どうやら死にたいらしい」
レイドは殺意を剥き出しに、トアに迫った。
「トア!」
任せるつもりだった。
だがもう待てない。
俺は身を乗り出していた。
だがその時、知らない男が目の前に現れる。
「……どういうつもりだ」とレイドは動きを止めた。「邪魔だろ」
「それはこちらのセリフだ」と男。「ここで何をしている。レイド」
見知らぬ男に問いただされ、手の止まったレイド。
「トア!」
俺は駆け寄り、直ぐに治癒魔法でトアの火傷を癒した。
幸いにも傷は一瞬で治り、痕も残らなかった。
「大丈夫か、トア」
「……うん」
「傷が残らなくて良かったけど、何で魔法を使わなかったんだ? 魔法を使えば何とかできただろ?」
「私の魔法は、周りに被害が出るから……」
「……」絶句した。
ここには家があり、そこには人が住んでいる。
トアは自分が魔法を使えば周りの住民に被害が出る事を分かっていた。
「ごめんなさい……私は」動揺しているシエラさん。
「気にしないでください。シエラさんは何も悪くない。遅かれ早かれ、こうなっていたんだと思います」
シャオーンの言葉を思い出す。
力は隠せと案じていた。
「ラインハルト、この女がそうだ。
「だからどうした」
「は? だからどうしたじゃねえだろ。こいつがそうだって言って――」
「敵だと決まったわけではない。彼らはただ、依頼通りにモンスターを討伐しただけだ」
「だったら何で逃げた? 逃げる必要なんてねえだろ? 答えは簡単だ。
「仮定の話だな」
「分からねぇ野郎だ」苛立つレイド。「おい、てめえ、プリーストか?」
レイドはこちらを睨んでいた。
治癒魔法に気づいたか。
「……ヒーラーだ」
「は?」口元が緩み醜悪なものに。そして高笑いした。「ヒーラーだと? ハッハッハッ! なるほどなあ。道理でお前からは何も感じねえはずだ。そりゃそうだ。ヒーラーなんだもんな」
この男を見ていると佐伯を思い出す。
※
レイドは高笑いし、勝ち誇った様子で見下した。
だがそんな中、レイドの戯言を聞き逃さなかった者がいた。
ラインハルトだ。
(何も……感じないだと)
ラインハルトは目の前の少年に意識を向けた。
そして自問自答。
(バカな。そんなはずは……)
「おい、お前」
ラインハルトは政宗に声を掛けようと。
だが――。
「ラインハルト! やる気がねぇならお前はそこで黙って見てろ!」
大鎌を構え、レイドが勢いよく全身する。
「俺がやる、こいつら2人共なあ!」
立ちはだかるラインハルトかわし、そして。
政宗にレイドの鎌が迫る。
「よせ、レイド。そいつは!」必死の忠告。
「意気地のねえ奴は黙ってろ!」だがレイドには届かない。
その瞬間、ラインハルトの危惧していたことが起きた。
わずか一瞬の出来事だ。
大きな揺れと共に広場に砂煙が立ち込めた。
ラインハルトは目を背け、腕で顔を守った。
目を細め、煙で視界の悪くなった広場を見渡す。
煙の中に誰かいる……。それは広場の中央だった。
だが視界が悪く、顔が見えない。
徐々に煙が薄れていき、すると全容が見えてくる。
ラインハルトは驚愕した。
広場全体を呑み込むほどの大きなクレーターが現れていたのだ。
さらにその中央。
地面にめり込み、白目を剥きながら意識を失うレイドの姿があった。
「なん、だ……これは」ラインハルトは言葉を失う。
だが分かっていた。
何が起きて誰がやったのかということが。
煙が完全に消え去ると、見えたのは政宗だ。
意識を失ったレイドを見下ろしている。
「つまり、お前がヌートケレーンを殺した張本人。ということか」
「マサムネ!」トアの声。
先ほどまでそこにいたはずのトアは、何故か広場を離れた住宅街にいた。隣にはシエラの姿も。
ラインハルトは外傷のない2人に理解した。
「2人を安全な場所に避難させ、レイドを地面に叩きつけた。それも、あの一瞬で……」
だが厳密には違う。
政宗は拳で殴っただけだった。
つまり、ラインハルトには政宗の動きが見えていない。
「なるほど……」
ラインハルトの手は自然と腰にある剣へと向かった。
「ならば俺も腹を括ろう。白王騎士の名において、貴様をここで討つ」
政宗に剣を向けた。
「待ってください! ラインハルト!」
シエラが駆け付けた。
そして間に入る。
「聞いてください。これは誤解です。マサムネ殿は私の友人であり、敵ではありません。お願いします。剣を下ろしてください、ラインハルト」
ラインハルトは説得される前から分かっていた。
シエラが自分に向けている視線の意味。
疑念。
彼らは敵ではない。
シエラの言葉で我に返り、冷静さを取り戻す。
自身の剣先を見つめるラインハルト。
その先には政宗だ。
「ならば、これはどう説明する?」陥没した広場を指す。
だがそれは動揺から出た言葉だ。
「それは、レイドがトア殿を傷つけたからです。だからマサムネ殿は……」
ラインハルトは利口だ。
だが政宗の異常さに当てられ、冷静さを失っていた。
ラインハルトは広場に到着した時、直ぐに分かった。
これはレイドの独断による暴挙だと。
おそらくは力を確かめたかったのだろう。
自分の力がどこまで通用するのかを。
そして適当な理由を考え、それをネタに剣を突きつけた。
ラインハルトは自身に言い聞かせながら、平静を保つ。
「……すまない。冷静ではなかった」剣を納めた。シエラは安堵する。
「何で分かったんだ?」政宗が問いかけた。
「レイドは、お前からは何も感じないと言った。だがそんなことはあり得ない。人は誰しも魔力を持つ。そしてそれは、どれだけ小さかろうと感じることができる。だが例外もある」
「例外?」
「自身の力量を、遥かに上回るほどの魔力を持っていた場合だ」
ラインハルトは政宗の力量を漠然と認めた。
「少し多い程度なら感知できる。つまり、感知できないほど魔力が膨大だということだ。だが……申し訳ないことをした。これはこいつを止められなかった俺の責任だ」
「……別に気にしてない」無感情な声色。「ただ俺たちは目立ちたくないだけだ。普通に冒険者として依頼を受けて、達成したら報酬を貰う。それだけ」
ただ闇雲に剣を向けてきたレイドとは違う。
政宗は警戒を解いた。
「報酬は後日、支払われるようにしよう。この件に関しては口外しない。だが国に報告しない訳にもいかない。だから国には2人の冒険者がシエラを援護していたと報告する。あくまでもシエラが討伐したと。それでどうだろうか」
「ああ、それで構わない」
「では、レイドを連れて行ってもいいか?」地面にめり込んだ男を指さした。「これでも一応、部下なんだ」
「どうぞ」
ラインハルトはレイドを肩に抱えた。
そして何かを思い出したように、政宗へ振り向く。
「そう言えば、マサムネと言ったか」
「……」わきの甘さに唖然とした。
「……そうか」勝手に納得するラインハルト。「ではマサムネ。この度は大変申し訳ないことをした。また会おう」
ラインハルトはそう言い残し去って行った。
残された政宗は広場を見渡す。
「これ……まさか請求されたりしないよな?」
「……」苦笑いするシエラ。安心して座り込んだ。
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