第7話 ヒーラーの限界

 ここにはミミックしかいないのか。

 これだけ歩き回ってやっときたかと思えばミミック。

 ミミックの巣にでも迷い込んでしまったか。


――『経験値の振り分けを終了します』


 これもどうにかならないものか

 レベルが上がるたびにピロピロと響くその音は、止んだ後も俺の頭の中で繰り返し余韻が流れていた。

 ノイローゼになりそうだ。


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ヒダカ マサムネ

Lv:212


職業:ヒーラー

生命力:12720

魔力:10600

攻撃:2120

防御:2120

魔攻:2120

魔防:2120

体力:2120

俊敏:2120

知力:2120


状態:異世界症候群

称号:転生者/復讐神の友人

スキル:王の箱舟/ミミックの人生

固有スキル:女神の加護/復讐神の悪戯・反転の悪戯【極】

魔術:治癒ヒール治癒の波動ヒール・オーラ状態異常治癒エフェクト・ヒール属性付与エンチャント攻防強化付与オディウム・オーラ

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 レベル212。

 おそらくこれは特別なことなんだろう。

 そう思った。

 ここまで一気にレベルが上がるなんてどう考えても変だ。

 これがゲームならクソゲーだ。


 未だ俺はここから出られていない。

 それに俺は外の世界を知らない。

 つまり俺は世界基準を知らない訳だ。

 だとしても変だ。

 だけど覚えた魔術は5つのみ。


「なるほどな」


 分かっていた。

 ヒーラーが弱いってことくらい。

 最弱なんだもんな。

 あいつもそう言っていた。

 アバズレの顔が浮かぶ。


 今回また大幅なレベルアップをした。

 だが魔術は手に入っていない。

 確かにステータスは上がった。

 だが魔術は一つも増えることはなかったのだ。


「つまり。これがヒーラーの限界ってことか」


 この異世界には一体どれだけの職業があるのだろうか。

 俺はこの先もずっとヒーラーなのだろうか。


 でも。

 もしヒーラーでも頑張れば、努力すれば上級職に昇格できるなら。

 そんなシステムがあるのなら。

 いや違うか。

 できないからあの姫さんは俺を飛ばしたんだ。

 いくら考えても余計に疑問が増えるだけ。

 ここを出ないことには何も分からない。


「今、考えた所で意味はないか……」


 壇上で発光しながら浮かぶ杖を手に取った。

 光は徐々に収束していく。


――『魔道具 《聖女の怒り》を入手しました。装備品に追加します』


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装備品:聖女の怒り

聖属性の中級魔法 《聖なる光セイント・シャイン》が込められた杖。

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 中級魔法とはなんだろうか。

 初めて聞いた。

 とりあえず魔力があれば誰でも使えるって訳か。

 ところで強いのだろうか。

 知らないことが多すぎて嫌になる。

 ため息ももう吐き疲れた。


 ふと部屋の左奥の壁に上へと続くハシゴを見つけた。

 そろそろ腹がすいてきた。

 いよいよヤバいような気がする。

 そんな死に方だけはしたくない。







「これなら俺でもまだいけるな」


 俺は酔っぱらっていた。

 酷く酔っぱらっていた。

 だが楽しい。

 ここに来て初めて楽しいと思っている。


「でもまさかヒクッ! うぅぅ……こんなところに食料庫があるとは。ん? 食料庫?……酒蔵。何だっけ?」


 ワイン貯蔵庫で座り込みながら、ワインを口に流し込む。


「うっ! うめぇ!」


 左手にワイン。右手にチーズ。

 チーズは貯蔵庫を見つける少し前に食料庫で見つけた。


「悪いな相棒。俺の両手はワインとチーズで塞がってるんだ」


 足元には魔道具 《聖女の怒り》が転がっている。

 杖の先端に丁寧に彫り込まれた聖女が誰なのか知らないが、怒りを向けられても言い訳できないだろう。


「ふぅぅぅ腹ごしらえもしたし、ちょっと寝るか……。ぐううう……ぐうううう……ぐう……」


 お休み……異世界……。

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