創神紀

竜風 真

神誓なるシン

第1話 非日常な日常

 鮮明に五感に刺激が入ってくる。

 それはこの世のものではなく、ただ心地よい感覚。

 それは一瞬の記憶として

 僕の脳内...いや、

 全身にフラッシュバックしてくる。



 そしてまた今日も...

 ____________________________________________


 部屋のカーテンの隙間から光が漏れ出す。


 ピピピピ ピピピピ ピピピピ

 スマホのアラームが鳴る。


 ピピピピ ピピピピ ピピピピ



 だがなにもその音源を止めるものはなかった。

 一人、それが鳴り響く部屋のベッドの上で座り込んでいたものの、

 仮にその者を 彼 と呼ぶとして、

 彼は部屋の中に鳴り響く音なぞどうでもよくなっていたのだ。

 彼の脳内にはただ一つの事しかなかった。


 「僕は...」


 それは彼自身さえわからない疑問。


 ピピピピ ピピピピ ...


 アラームが時間経過で鳴り止んだ。

 部屋の中に差し込んだ光が彼にあたる。


 「あ、」


 彼の意識はこの世界に戻ってきたようである。

 それと同時に


 「シンちゃーん、起きてるー?」


 20代のお姉さん位の、少し可愛さの混じった声が響く。

 非日常的な空間が、一気にいつもの日常に戻った。


 「ご飯、出来たよー」


 シンは、ふぁあ~ とひとあくびした後で、カーテンを開いた。

 心地の良い朝の光が全身に降りかかる。

 重い体を引きずるかのように部屋の扉を開け、階段を下りる。

 「おはよ~」

 高いような低いような、男か女かわからないような声で朝の挨拶をした。

 特に意図的にそのような声にしたのではなく、もとからそういう声なのである。

 家のリビングまで降りると すっ と真は椅子に腰をかけた。

 少し可愛さの混じった声の主が、朝食を食卓に運びながら聞く。

「今日は学校いけそう?」

「ん~、部活だけ行くよ~」

 真は眠そうに答える

「そう、今日も私は18:00帰りだからね」

「うん。茶羅さあらサン、今日はカレー?」

 食卓に置かれた明らかにビーフシチューのような料理を見ながら聞く。

「ううん、ビーフシチューだよ」

 やはりビーフシチューであった。...ように思えたが、付け加えるように茶羅さあら

「あ、でもカレー粉入れたからカレー?」

 と、とぼけたようなことを言う

「なんじゃそりゃ」

「じゃあカレーとビーフシチューで、ビーフカレーシチューって事にしよう!」

「おぉ、いいじゃん。今日は一日ビーフカレーシチューだ!」

 普通の極一般的な家庭からしたら少し変な会話だが

 一日ずっと同じ料理を食べるのと、この変なノリが

 榊女さかきめ家の日常である。



 朝食を食べ終えた二人は、特に急ぐ事もなく着換え、家を出た。

 茶羅は仕事へ、

 真は...さてどこにいくのやら。


「今、ここを旅立つとして〜♪」

 最近流行っているアニメ、「神を報いしエルタレス」のedを、少し小さめの声で歌いながらふらふらと歩きだした。


 立ち寄ったのはコンビニ、マンガコーナーに足を止めると

「最新巻〜♪」

 やけに嬉しそうに「神を報いしエルタレスzero」と題されたマンガを手に取り、会計をすました。「神を報いしエルタレス」の世界ができる前を描いた作品である。

「ん〜♪」

 感嘆の声を漏らす、買ったばかりの本を頬になすりつけながらコンビニを後にする。


 長く伸びた電柱の影が、少しずつ縮み始める。


 次に向かったのは海岸、学校に行かない日は近くのこの海岸で過ごすのが日課である。

 堤防に誰かが腰かけている。

「やあやあ、海守みもるクン」

「おっ、やあ真君」

 真が話かけたのは、いつもこの海岸で一緒にくっちゃべっている、水閊海守みつか みもるだ。

「海守クン、おとといはテストだっけ?」

「うん」

「できたん?」

「う〜ん、普通かな。それより今日こそ男か

 女かはっきりしてもらうぞ、真。」

 真は少し困った顔をして

「そもそも海守クンは間違っているのだよ」

 とだけ答える。

「えっ、俺のどこが間違ってるんだ。」

 当然の反応だ。

「うん、君は常識に囚われてるね」

「どんなとこが?」

「全体的に」

 海守はことごとく真の誘導にはまって、性別の話から今日も遠ざけられるのであった。


 影は徐々に小さくなり、なりきった後に

 再び伸び始める。



 時間を忘れる程にくっちゃべった二人であったが

 突然、真が あっ と何かに気づく

「そろそろ部活の時間だ」

 そう、時間が経つのは早いもので、もう15:00であった。

 海守は腕時計を確認する

「ほんとだ、今日もぴったりだな」

「まぁね♪じゃあ僕もう行くね」

「俺も近くのスーパー寄って夕飯買って帰るか」

 と言って二人は じゃあね と言った後に別れた。



「この魂を~捧げることもせず、ただ~♪」

 真は、先程口ずさんでいた曲を再び歌い始め、買った最新刊の漫画の包装をぴりぴりとはがすと、歌いながら読み始めた。そのままてくてくと学校に向かって歩き出した。



 30分ほどで、学校に到着。

 他の学校とは違い、運動用の上下を着ている者たちはいるが、それ以外は私服で過ごしている者がほとんどである。

 学校にしてはいかにも美術館のような建物の、二階の部屋の扉を開けた。

「やあやあ、部員諸君。」

「あっ、やぁやぁですぅ部長(笑)さんっ」

 最初に反応したのは小さくて可愛らしい雰囲気の一年生、勝影三觜かつか みはし

「おっ先輩、今日もかわいいですねぇ」

 同じく一年の駆辺くべ態覇たいは

 普通に読むのはいささかなR18の雑誌を読みながら言う。

「いやぁ~」

 あからさまに照れる真。

「う~ん、私は昨日の真命まこと君のほうがかわいいとおもうけどなぁ」

 真命まことというのはそう、真の本名である。

 真を本名で呼んでいるのは、三年の滝環たきわ美世みいせ

「・・・」

 同じく三年の加志かし異気斗いきとはいつも通りなにも喋らない。

 そして

「おかえり、真。」

 と優しく包み込むような声は、不思議君だがクールさも兼ね備える

 青空おくうひろ

 中学からの真の親友である。

「ただいま~」

 真はひろに抱き着いた。

「よしよし」

 大は真を抱き返し、頭をナデナデする。

「いつもなかいぃですねぇ先輩たちはぁ」

 三觜みはしがそう言うと、態覇たいはは続けて

「これが普通の男同士だったらちょっとキモイですけど、真先輩だと違和感ナッシングですよね~」

 と話す。

「前から思ってたけど真命まこと君って女の子だったりする?」

 美世みいせが聞く。

「さぁ、どうでしょう?」

 真が曖昧な返事をすると、

 なんだそれと全員が同じことを言う。


「   ...両方...   」

 滅多に喋らない異気斗が、モスキート音くらいの小さな声で喋るが、だれも気付かない。

「それで、今日の活動は何をするんですかぁ部長(笑)さん?」

 三觜が聞きだした。

「何をするって?決まっているじゃないか」

「自主研究さ!」

 と自慢気に言う真だが

「今日もですかぁ?たまにはらしいことしましょうよぉ?」

 と三觜は飽き飽きしたように言う。


 そう、ほぼ毎日自主研究(ほぼ遊び)をするのがこの、「物理部」である。


「んっじゃあ僕は昼飯食ってないからいただくとしますか。」

 と真は言うと。

 物理部の格式にそぐわない家庭感丸出しの冷蔵庫を開こうとした。

 すると...


 ドッカァァアアン




 ...遠くで爆発音がした。













 






 

 

 

 

 





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