12 仮説 - False - a
峠町は上司の
上司といっても
峠町は、先日のドメイン紛争の際に、とある私立病院で情報漏洩を起こした張本人である。起こしたとはいうもののその原因については分かっていなかった。
発端は、顧客からの訴えにより外部の公開BBSに内部情報の書き込みがなされていたことが判明したことだ。その後、通信ログを洗い出したところ、当該時間帯に勤務していたのが峠町だということが明らかになったのである。
今のところ、峠町に話を
蔵本の情報セキュリティリテラシーは、社内のセキュリティ教育で培った程度のものだった。
峠町も今回の事件について様々な人から詰問され続けたためか、
これ以上は専門家に任せるしかないと、蔵本は
「僕は……クビになるんでしょうか……」
峠町は疲れ切った声を発した。
蔵本には人事権限があるわけではないので、イエスともノーとも答えられない。セキュリティ事故の場合、
「まあまあ、すぐに解雇されるようなことはないでしょう。君は勤務態度が特別悪いというわけでもないみたいだし」
本人も悪気はないようなので
コンッコンッコンッ――部屋の扉が三回鳴って開かれた。
――そこには、日鳴グループのトップの姿があった。親会社の社長がお越しになるとは想定外だった。
蔵本は平身低頭して
「ここで例の件の事情を訊いてるって聞いたんだけど?」
トップの声音は意外にも軽いものだった。
「はい、おっしゃるとおりです」
蔵本は即座に回答する。
「いやいや、そんなに構える必要はないよ。今日は少し話を聞かせてほしくてね」
社長の
インターンシップの学生かと蔵本は勘違いした。
社内を案内することは有意義だが、こんな、社員の失態をあげつらっている現場を紹介するのは、いささか好ましくないのではないかと思った。それとも、学生のうちから社会の厳しさを教えようとする狙いでもあるのか。蔵本は少し迷った。
「えっと……その……」
「どんな状況でセキュリティ事故が発生したのか詳しく聞かせてもらえるかな?」
蔵本が
「あ、あの、星葉社長、その
「ん? ああ、彼女には、この件で相談にのってもらっててね」
意外な言葉が返ってきて蔵本は驚いた。――学生ではないのか?
峠町が話すのを少女は
だが、聴き終わると少女は言った。
「なるほど、だいたい
それを、少し話を聞いただけでピタリと言いあてた――まだCSRFと決まったわけではないが――という事実には
「彼女はいったい……」
少女がこちらを向いた。
「すみません、申し遅れました。私は、市内でパソコン教室を営んでおります、
腰を折って、丁寧に名刺を差し出してくる。
「あ、ああ、これはどうも。日鳴イノベーションサービス営業部の蔵本です」
蔵本も名刺を差し出した。
「吉田先生なら、これからどのように対処してゆきます?」
星葉が梯亜に問う。
「そうですねぇ、漏洩は起こってしまいましたので、
「なるほど。蔵本君、これから事件のあった私立病院に行きたいのだが、アポ頼めるだろうか?」
これから……と蔵本は思ったが、親会社のCEOの依頼なので無視はできなかった。
「先方に確認をとりますので、少々お待ち頂けますでしょうか」
蔵本は電話をかけに行った。
峠町は居心地悪そうにうつむいた。
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