その心は誰が為に

『正義』の家事ロボット・プロローグ

 初めてジャスと別れたのは、五歳のときだった。

 ヤツが乗せられた、リサイクル業者のトラックの荷台を、泣きながら追ったのを覚えている。

 次に別れたのは高校生のときだ。流石に泣きはしなかったが、数日はふさぎ込んだ。

 そして……。

「味噌汁の温度が低い! ヒート砲照射!」

「ヒーターをぶっそうな名前で呼ぶんじゃない! おい! 沸騰しているぞ!!」

 今日もオレにツッコまれながら、ジャスは元気に家事に勤しんでいる。

 

 

 チャッ、チャッ、チャチャ、チャッ、チャッ、チャチャ……。

 マンションの寝室にレトロを通り越して、アンティークなテレビドラマのテーマソングが流れる。

『お早う、マスター。君の今日の使命だが……』

 おい……台詞まできっちり入れているよ、あの家事ロボット。

 オレは呆れながらも薄目を開け、枕元の時計を見た。

 白い卵型の本体が、空中に文字を映し出すタイプのシンプルな時計は、七月も半ばの日付と起床時刻が浮かんでいる。

『例によって君もしくは君のメンバーが捕まえられ……』

 カーテンが開き、窓の偏光ガラスが夜モードから朝モードに変わり、日の光が部屋に差し込んでくる。

 普通は、目覚めの音楽といったら、クラシックか環境音楽を流すものだろうが……。

 だが、うちのジャスは、どう見ても、勿論、性能も家事専用のくせに、子供向けの特撮ヒーローやアニメに出てくる、正義の戦闘ロボットに憧れている。

『なお、このテープは自動的に消滅する。成功を祈る』

 今回の音楽も完全にヤツの趣味だ。以前、派手なロボットアニメのOPをかけられたときは、流石に枕を叩き付けたが……。

 ボムッ!!

 いきなり何かが爆発した音が響く。

「なっ!!」

 思わず枕を抱えて、飛び起きると

「マスター、おはようございます」

 球体に、のほほんとしたホログラムの顔が浮かんだジャスが、のんびりと朝の挨拶をしてきた。

「お前っ! さっきの爆発は!?」

 ふよふよと布団の上に浮かぶジャスに尋ねると、ヤツはにっこりとした笑顔に変えた。

「こ・う・か・お・ん」

「朝から人騒がせな音を立てるんじゃないっ!!」

 オレは手にした枕を力いっぱい投げ付けた。

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