魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~
暁烏雫月
第一部 魔王が動画配信を始めました
0 魔王だって動画配信をしてみたい!
幾度となく続いた勇者の襲撃は、いつからか一気にその数を減らした。異世界からやってきた勇者達が持ち込んだ2つの文化、パソコンと動画投稿サイトが原因である。異世界転生者と呼ばれる者達の需要に伴い、人族が魔法を駆使して文明を発達させたことは記憶に新しい。
魔法を元に作られた通信サービス。そのサービスを利用するために作られた、形だけ異世界のものを再現した電子機器達。異世界転生者をきっかけに人族の文明が急速に発展していることは否めない。極めつけは勇者達が好むという動画投稿サイトだった。
「勇者エリーの冒険に役立つアイテム講座、だよ。今日紹介するのは……バトルで欠かせない魔力回復薬、エーテルです!」
「こんにちは、勇者モヤシです。ポーションってお店とか地域によって味とか少し違います。そこで私は考えた。……ポーション全種類を飲み比べしてみたい!」
「どもー、勇者ノックスでーす。今回は魔王のお気に入りとも言われているあのレッドドラゴンの撮影をしちゃいました! 衝撃の映像を見逃すなよ?」
「勇者ネコネコです。今日も魔族の噂を集めるべく旅をしています。今回お話を聞けたのは、その昔魔族が襲撃した町で生き残ったというおばあちゃんです。いくぜー、ネコネコニュース!」
パソコンから流れ出すのは動画の音声。それらの動画はどれも異世界からやってきた勇者が動画投稿サイトに配信したものである。今や動画配信をしない勇者は数える程しかいない。魔王討伐そっちのけで動画配信を行うことも多く、それが勇者の襲撃を減らす要因となっていた。
勇者の配信する動画は今や世界中で流行っている。動画投稿サイト「
人族の国から遠く離れた場所にてパソコンから流れる音声と映像を食い入るように眺める者がいた。キラキラと目を輝かせ、動画の内容に喜怒哀楽様々な表情を見せる。その口が誰に聞こえる訳でもないのに言葉を紡ぎ出した。
「魔族だって薬を作れるぞ。ドッキリを仕掛けたり、ゲームしたり、色々する。それに……このままじゃ、魔族のイメージが下がるばかりではないか!」
赤茶色の髪から生えた2本の角。肌色こそ人族に近いが、頭上から生えた黒い角はごまかせない。人族とは少し異なる外見をした彼は、パソコンから目を離せずにいた。
彼の名はエウレカ。またの名を「130代目魔王」。彼の仕事は、魔族が暮らす国を守ること。見た目こそ人族に換算して10代後半だが、魔族に換算した実年齢は142歳。長命な魔族の中ではまだ幼い方である。
「エウレカ様。先日送った書簡が――」
「そうだ、我も『itube』を始めようではなきか! 動画を使って、魔族のことをもっと知ってもらうのだ。そして、我の代で今度こそ……人族と魔族の和睦を、なんとしてでも結びたいぞ」
「あの、魔王様?」
「魔族に対する誤解を解くのに、動画配信は最高のコンテンツなのだ。早速準備をするぞ!」
エウレカは部下の声など無視して、座っていた椅子から立ち上がる。かと思えば撮影用機材も持たずに勢いだけで部屋を飛び出してしまった。
頭に白い猫耳を生やした部下が恐る恐るパソコンを覗く。すでにエウレカの中では、人族との仲を改善するための構想が出来ているらしい。表示された画面に思わず微笑んでしまう。
開かれているのは今人族の間で流行っているitube。作成したばかりのマイチャンネルのトップページが開かれている。チャンネル名は「まおうチャンネル」。ユーザー名は「maou_eureka」。マイページにはこんな説明文が書かれている。
「我は130代目魔王エウレカじゃ。夢は『人族と魔族が仲良くなること』だ。人族は我らを誤解している。もっと我らのことを知ってもらうべく、登録してみたぞ。魔王ならではの動画を投稿しようと思っておる。心して待つがよい」
アイコンにはつい先程この部屋で撮ったばかりと思われるエウレカ本人の画像が使われている。チャンネルアートはアイコンと同じ画像に「まおうチャンネル」の文字を入れただけのシンプルなもの。開設したばかりのチャンネルには興味本位なのか、すでに何人か登録者がいた。
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