第44話 扉を開けたその先に

4階建ての校舎のさらに上に

屋上に続く階段があり

その頂上には大きくて

重い鉄のドアがあった


その錆びついたドアの前

少年は膝を抱えて

この重苦しい鉄の塊の

その先の景色を夢想していた


ねえこの先に何があるの?

どうして閉ざされているの?

来る日も来る日も少年は

見えない景色に焦がれていた


そしてある風の強い日

ついに少年は立ち上がる

手足についた砂を軽く払い

まっすぐ前だけを見据え

震える指を必死に伸ばし

そっと重い扉に触れた


感じる錆のざらつきと

冷えた古い鉄の匂い

ほんの少しの勇気と決意が

少年の背中を押す


ギギギと鈍い音を立てながら

開かれていく世界

漏れてくる光のまぶしさに

零れ落ちるひとしずく

頼りなかった腕はもう

しっかり扉を押す


風が隙間をすり抜けて

ついに少年は屋上へと降り立った

何てことないアスファルトと

少し歪んだ緑色したフェンス

そこで少年が見たモノは

深く沈殿した憂鬱だった


さらに一歩踏み出したとき

気まぐれな風が吹き抜けて

バランスを崩した少年の

痩せた体は風に押され

狭い屋上を力なく横切り

フェンスから投げ出された


宙を舞う少年の目に映るのは

希望に青く輝く広い空と

絶望にまみれた灰色の地

そしてその間にあるヒトの命


ああ僕が望まれているのは

どちらなのだろうかと

なぜかとても穏やかな気持ちで

少年はそっと目を閉じた

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