余命1年から始めた恋物語

米屋 四季

プロローグ

「残り……」

  綺麗な星空を眺めていた。

 もう、この空を眺めることができないと思うと急に寂しさが襲ってきた。

 いや、空だけじゃない。

 もう綺麗な街並みを見ることもできない。

 美味しいご飯を食べることもできない。

 友達や大切な人に会うことも……。


 あと数時間で日付が変わる。

 明日、僕はこの世にいない。

 1年前から分かっていたことだ。

 余命が分かった当初は死ぬことに対して恐怖を感じていなかった。

 しかし、今は死ぬことが怖いと感じているし、まだまだ生きたいと心が叫んでいる。


 1年をがむしゃらに生きた。

 誰かのために一生懸命になれた。

 自分のためにも一生懸命になれた。

 そして、親友やかけがえのない大切な人達から色々なことに気付かされた。

 余命が分かってからの1年は僕の人生の中で1番濃厚で1番大切な時間となり、それ故に僕は死ぬのが怖くなった。

 しかし、どう足掻こうとも僕の死は決まっている。

 もう、どうすることもできないのだ。


 やり残したことがないように生きていこうと決めたのに、まだまだやりたいことがたくさん残っている。

 でも、後悔はそこまでしていない。

 やりたいことがまだまだ残っているけど、満足もしているのだ。

 ただ、1つだけ心残りがあるとすれば……。


 僕はベランダから部屋に戻り、枕元にある携帯電話を手に取る。


 ――もう一度だけ大切な人に会いたい

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